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ネリ・ダラスの秘密  〜『妖精の森』はお陰様で今日も繁盛しております!〜

作者: 水紅

 ネリ・ダラスの朝は、愛犬であるコロのふわふわの毛並みを撫で回すことから始まる。

 毎日丁寧にブラッシングしているからか、ネリの指はふわっとその毛皮の中に埋もれていく。強付いた感触はない。街一番の食堂の看板犬は、これでお客さんを虜にしているのだ。勿論、ネリも例外ではない。


 モフモフでふわふわ。今日も最高です。


 だらしなく緩んでいるだろう頬を引き締め直しながら、今日もネリは元気よく起き上がる。食堂を営む家の朝は早いのだ。だらだらしていれば、母からお叱りの声が上がってしまう。


 寝癖のついた髪を整え、食堂の制服に着替える。シワがないかを鏡で念入りにチェックするのも忘れない。ネリはまだ8歳だが、家業である食堂で看板娘もしているのだからチェックに余念はない。


「よし、今日も完璧!」


 鏡の前で一度、()()()()()()でニコリと微笑む。朝の大切なルーティーンだ。


「ネリー!」


 階下から聞こえる母の声に返事をしながら、ネリは小走りで階段を降りていった。



 ◇



 ドートル領は冒険者の街と呼ばれている。というのも、ドートル領には冒険者ギルドの本部が置かれているからだ。この国で最も冒険者が集まる場所、それはつまりこの国で最も戦力が集まることを意味する。


 冒険者というのは、騎士とは違って常にモンスターを相手にする職業だ。だからこそ、彼らは騎士と比べて必然的に実践で鍛えることが多い。人間とモンスターを相手にするのとでは、勝手が違うのだ。

 人間ばかり相手に鍛えてきた騎士とは、そもそも戦い方が違う。だからといって、騎士が弱いというわけではないが、力の差があるのは当然で、こればっかりはどうにもならない。


 まあ、このドートル領が最も戦力が集まる場所というのはそういうことだ。

 そして、常日頃モンスターと戦っている彼らには荒くれ者が多く、また大喰らいである。命を張る仕事をしているのだから、怪我にも遭いやすいし、体力も削られる。

 そんな彼ら冒険者に、美味しい食事とお酒を振る舞うのが、このドートル領で最も人気のある食堂『妖精の森』の役割だ。


 皿いっぱいに盛られた料理は、彼らの疲れた身体に活力を与えるために肉が大盛りで乗っているが、それだけではなく栄養面もきちんと計算されている。それでいてほっぺたが落ちるほど美味しいと評判なのだから、人気が出ないわけがない。ついでに酒も豊富な種類が揃っていて、何を食べても飲んでも美味いのだ。


 そして何よりも、毎日毎日モンスターと戦ってささくれている彼らの心を癒してくれる可愛い看板娘と看板犬がいる。看板娘の方はこの食堂を営んでいる夫婦の娘で、これまた愛らしい顔をしているのだ。その上、体が大きく厳つい顔をしている彼らのことを全く怖がらずにいつもニコニコとしている。その笑顔で今日もお疲れ様でしたと労われれば、普段怖い見た目で子供から恐れられている彼らは、揃って年甲斐もなくだらしない顔をしてしまう。看板犬のモフモフとした毛並みも彼らを癒やしてくれるのだ。


 まさに、心も身体も癒される『妖精の森』の名にふさわしい食堂。それがネリの家が営んでいる食堂である。



「ネリちゃん、今日も可愛いね。いや〜、その笑顔が疲れた身体に染み渡るよ。」


「今日もお疲れ様です、ポールさん。たくさん食べて疲れた身体を癒してくださいね。」


「あーネリちゃん会いたかったよー。聞いてくれよ、今日は怪我しちまったんだ。全くついてねーよ。」


「え、大丈夫ですか、ダグラスさん?じゃあ、今日はダグラスさんの好きなお酒キンキンに冷やしておきますね。」


「ネリちゃん、今日も肩たたきお願いできるかな。孫が出来たみたいで嬉しくてな。勿論、小遣いもやるぞ。」


「はい!任せてください!シリウスおじいちゃんの疲れをとれるように頑張りますね。」



 次々とやってくるお客さんを相手にしながら、ネリの手は子供とは思えない手捌きで食べ終わった食器をどんどん片付けていく。その上、新しい料理も運び、次の注文を取ることも忘れない。あまりに流れるようにこなすもんだから、時々お客さんである冒険者の彼らの中にはネリが十代を超えていると勘違いする人もいる。それぐらい、ネリは仕事の出来るしっかりとした子供だった。



「ネリー!」


「はーい!」



 今日も『妖精の森』では可愛い妖精が元気に走り回りながら、疲れたお客さんに笑顔を振りまく。

 それが例え客用の営業スマイルだろうと、彼らは間違いなく癒されているのだからそんな細かいことはどうでも良いと、ほくそ笑んでいるネリの心中など客は知らぬまま。


 まあ、バレなきゃいいわけだし?


 実はその可愛らしい容姿と笑顔の下に、子供らしくない野心を抱いていることなど勿論誰も知らない。冒険者の彼らも、両親も、看板犬であるコロも知るわけがない。


 何故なら、彼女は二度目の人生を生きる、いわゆる転生者というヤツだから。


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