1.小さな王様
「ん…」
目を開けると、…
目を開けると…?
俺、英斗に突き飛ばされたはずじゃ…
レンガ造りの可愛らしい街並みに、カフェらしき建物が並ぶ。
俺がいるのは、そのうちの一つのパラソルだった。
目覚めたて&日陰の中の俺には、太陽の光がちょっと眩しい。
「ずいぶん遅かったじゃん、お兄さん。」
「…だれ」
突如目の前に現れたのは、1人の少年。
英斗よりも小さい、中学生くらいか…?
せいぜい160cmの背丈に赤い髪。
目はらんらんと輝いているのはいいが、謎のどこかの民族衣装…?
胸元に光る謎のバッジ…はどこかで見たことある気がしなくもない。
「俺はワン!エイトサンに頼まれたお前のナビゲーターさ」
「…王さん?」
そうだ、思い出した。
中国のどっかの衣装…ぽい。地理の教科書で見た気がする。
「誰だよそれ!俺はただのワン。
お兄さん、ここは初めてだろ?俺が案内してあげる」
「観光かよ…君、英斗を知ってるの?」
「うん、エイトサンからのお願い。
手紙預かってたんだった、読んで。そしたらさっさと行くよ」
「ほんとあいつ何も言わず殺したよな…」
手渡された手紙を開く。
走り書きされた字は、確かに英斗の物だった。
『ごめん、色々と説明忘れてた。
お前は異世界の神様だ。
これからのことはそこにいるワンが教えてくれると思う、頑張れよ』
何の説明にもなってない、だと…
そもそもあいつはなんなんだ…
「エイトサン、はお兄さんが元々いた世界の神様だよ。ちきゅーとか言うんだっけ」
ワン、がそう言う。
このちんちくりんも何者だ…?
「君が案内してくれるの?ここはどこ、かな。」
「人間が死んだら行く場所、の1つさ。
そういうセカイは、全部で7個…が前提。
そのうちの第一のセカイがここだよ。」
「やっぱり俺、死んだ…?
カミサマ、って…どうすればいいの…?」
ワンは大きな瞳を輝かせた。
「分からん!俺も実は、なーんも覚えてないんだよね」
「…は?」
使えないじゃんナビゲーター。
どうなってるんだ英斗。
「でも俺も神様の端くれ。
それなりの力はあるし、このセカイの中心だって分かるさ。」
「…中心になんかあるの?」
「大体のセカイは神様を祀ってるはず。だって神様だぜ?」
「なにそれ…」
そんなにもカミサマ、って存在が大きいのか…?
よく分からない、でも俺が今出来ることは零に等しい。
ならばとりあえず、このちんちくりんに従っておくのも手ではないか?
そう思いワンがいた辺りを見ると、1匹の犬がおすわりをしてこちらを見上げていた。
可愛い、俺は断然猫より犬派。
そう思っていると、声が頭に直接話しかけてきた。
『俺だよ、お兄さん。
カワイイ俺に見惚れちゃった?』
なんだ、ワンかよ。
どうやらあのちんちくりんは犬になって、直接人の心に話しかけることが出来るらしい。
それがさっき言ってた力のやらなのかな。
ワンは得意気(犬だからよく分からないけど)な表情を浮かべて俺に話しかける。
『さ、行こうよお兄さん』
「ちょっと待って」
『ここは行く流れでしょ!?』
俺は無言で通りの奥を指さす。
そこには1人の可愛い女の子。
彼女は俺の視線に気づくと辺りを見回し、俺に向かって少しはにかみ、逃げるように走って行った。
『はぁ…』
ワンはやれやれ、と言うように肩をすくめて(?)大きなため息をついた。