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少女との出会い2

 

 通りをいくつか過ぎ、民家も店も少ない閑散とした郊外で、2人は息を整えていた。


 男たちは既に追いかけてこない。元々視界を焼かれているし、あえて人の多いところを縫うように通ってきているため、そう簡単に追いつけやしないだろう。

 リザは体力の限界を迎えて地面に座り込んだ。服が汚れるとか、はしたないとか、そんなことを気にする余裕がない。

 生まれてこの方走ったことなど皆無に等しかったのだ。貴族令嬢の体力の無さを舐めてはいけない。


「あ、ありがとう、ございました。なんとお礼を言っていいか……貴女のお名前は?」


 彼女がいなければリザはどうなっていたことか。

 息を整え心から礼を言ったリザに少女はしばらく黙っていたが、やがて大きく大きく嘆息した。


「フィナよ。ひとつ聞いておきたいんだけど、貴女。もし私が声をかけていなかったら、どうなっていたか、分かる?」

「あの男の子のお兄様が助かるのではなくて? ……あれ、でもたくさん兄と呼んでいる人物がいたような……?」

「ハズレ。貴女は有り金ぜーんぶ巻き上げられて、今頃無一文でお使い出来ないどうしようって泣いてるんだよ」


 フィナはどうやらリザがお使いで王宮から出てきた使用人だと思っているようだ。テオドールの考えた変装は成功しているらしい。

 しかし彼女の言葉の意味は分からなかった。貴族的な権謀術数には慣れていても、金銭の絡むこういった事件にはとんと縁が無かったのだ。

 病気のためにお金が必要で、金貨が要るから金貨も渡した。あの少年が言っていた条件を呑んで誰かが助かるのなら本望ではないか。

 そう伝えればフィナは得体の知れないものを見る目でリザを凝視した。


「……ああいうのはね、いい獲物だと思ったら嘘でも何でも使ってお金を奪うの。姑息とか卑劣なんていう言葉はあいつら知らないからね。実際貴女、財布ごと取られそうになってたじゃん」

「ああ、そういうことでしたの? てっきりお金を入れる袋が無いから持って行こうとしているのかと……」

「…………あの、貴族ってみんなそうなの?」


 唐突な話題にリザの肩が跳ねる。

 何故貴族だとバレたのか。戦々恐々としていると、フィナは頭痛を堪えるように額を押さえてしまった。


「いくら王宮使用人に平民と貴族がいるからって、ここまで世間知らずの使用人が平民なわけないでしょうが。貴族って本当に別世界の人間って感じだね」


 その言葉に、ずきりと胸が痛む。フィナの言葉には明確な嘲りの色が乗っていたからだ。

 うつむき黙り込んでしまったリザにフィナはハッとした顔になり、懐をまさぐって小さな置物を取り出し彼女の手に握らせる。やや青みを帯びた乳白色の、可愛い猫の形をしたそれはつぶらな瞳でリザを見ていた。


「お詫び、です。ごめんなさい、貴族だと分からずに色々と失礼な口を利いてしまって。私、もう行きますね」


 最後に頭を下げたフィナは、今リザの前方左手にある屋敷に入って行こうとする。

 それを見てリザは慌てて彼女の手を掴んだ。驚きで見張られた夕焼け色の瞳がこちらを向く。


 引き留めたはいいが何を言えばいいのやら。

 衝動的に動いたせいでリザの脳内は真っ白だ。


(いいえ違う。言いたいことはあるけれど、あまりにも失礼!)


 打算と本能が働いたのだ。

 このままフィナと別れたら、リザは野垂れ死ぬ。そんな嫌な確信があった。


 どうやら彼女は結構律儀というか、面倒見が良さそうだ。わざわざ危険に身を突っ込み、リザに先程の行為の危険性を教え、失礼を働いたと思ったらお詫びを献上しようとする。

 見て見ぬ振りが出来ないらしいフィナの甘さにつけ入るのはとても良心が咎めるのだが、背に腹は代えられない。


 ――――遅かれ早かれどこかで息絶える


 テオドールの言葉が脳裏で弾ける。

 それは、それだけは、絶対に嫌だった。生かしてくれた彼のためにも、その手を取った自分のためにも。

 自身は生まれ変わった。なら取るべき行動も変えなければ。


 すうっと息を吸い、リザはフィナを真っ直ぐに見つめた。

 そして揺るぎのない覚悟をにじませ、叫ぶ。




「っあの、お願いします。私を――――貴女の家で働かせてください!」




 リーザロッテ改めリザ、16歳。

 その日、元大貴族令嬢は、生まれて初めて、その場で土下座した。


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どうぞよろしくお願いします!


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