噂の格好の的と疑問
お待たせしました
今回はモブ騎士目線です
夜の王宮は決して無人ではない。警備の騎士が巡回し、王族の寝所にはそれぞれ不寝番がついている。
有事の際には主君をもっとも近くで護る王族の最終防波堤――などと称される近衛隊の仕事のひとつだが、そんな誇りをご丁寧に胸に抱いて仕事をしている騎士のほうが少数派だろう。誰だって夜は寝たいし眠気に抗うことは難しいのだ。
しかも王宮には最上級の結界が張られていて、この魔法を掻い潜って侵入できた賊などここ数十年存在していない。
つまり、騎士たちにとっては不寝番とは退屈極まりない仕事であった。
「……んぁ?」
不寝番のくせに半分寝かけていた騎士の青年は、廊下を歩く人影に気づいて眉を寄せた。
すぐ警笛を鳴らさなかったのは、シルエットに見覚えがあったからだ。
青年はいつでも攻撃に移れるよう重心に注意を払いながら、そちらへとゆっくり近づく。目論見通りその姿が同僚だと分かると、今度こそ全身から力を抜いた。
「こんな夜更けに何してんだよ、テオ」
「ッ!」
同僚――テオもといテオドールは、青年の声に驚いたように肩を揺らして振り返る。
その拍子に、彼の陰に隠れていた小柄な人影も見えた。
「あ、ああ……お前か。不寝番、お疲れさん」
「おう。っていうかどうした? 今日は当番じゃなかっただろ」
「まあな。……少しやることがあってな」
「へえ。それって……」
首を伸ばしてテオドールの向こうにいる人影に顔を近づける。彼の「おい!」という焦った声は聞き流した。
シンプルなお仕着せに身を包んだ少女が体を強張らせて青年を凝視している。暗いのでよく顔は見えないが、ぼんやりと認識できるシルエットだけでも相当な器量良しだと分かった。
こんな時間に、騎士と使用人が、2人きり。それが意味するのはもちろん、
「はぁ~……こんな時間にデートかよ、お前……」
「え、いや、その」
「あー、いいよいいよ。俺らみたいな騎士と使用人なんて仕事終わりじゃないと会って話せないもんな。今日のところは目をつぶってやる」
「……助かる、リュト」
テオドールは青年の視線から庇うように彼女を背中に隠した。同僚に愛しい彼女の姿すら見せたくないということだろうか。その独占欲に溢れた行動に内心口笛を吹きながら、ちょっぴり下世話な笑みを浮かべる。今度の宴会でテオドールをからかう格好のネタが出来たことに青年は浮かれていた。
「にしてもテオを射止める子がいたなんてな。今度馴れ初めじっくり聞かせてもらうからな!」
「………………ああ。なあ、人目に付かずに外に行けるところってあるか?」
「人目に付かず? あ~……ふぅ~ん……」
「そのニヤニヤを即刻止めろ」
聞いたことないくらいの低音で脅されたが、残念ながらひそかにテンションが上がっている彼には効果がない。
見た目に反して真面目で兄貴肌なテオドールの恋人事情なんて、面白いにも程がある。姿すら他の男に見せたくない溺愛っぷりで、しかも「人目につかない」場所をご所望と来た。
今度の酒の肴は決まったと言わんばかりの青年は、それでもちゃんと人目につかずに王宮の庭園に出るルートを教えてやった。
「ありがとう」
丁寧に礼を言われてしまうと流石に少しきまりが悪い。青年は思いがけず真面目な表情のテオドールを見つめ、へらっと笑った。
廊下の奥、薄闇に溶けるように去って行ったテオドールたちを見送り……ふと、青年は疑問に思う。
(今あいつら、独房がある方向から来たような……?)
現在独房には国賊となったらしい貴族のお嬢様が収容されているという。青年はその場にいたわけではないので又聞きだったが、どうにも気が強く、手の付けられない娘らしい。
王子からの特命で食事や着替えなども一切運んではいけないため、独房周辺に人がいるということは基本的にないはずだ。
なのに今、彼らは独房がある方向の廊下からやって来た。
なにか事情があるのだと青年の本能が囁き、好奇心が疼く。が、同時にそれを聞いてはいけないという理性も働いた。
しばらく好奇心と理性が青年の中で戦い、そして、
「まあ、いいか……」
理性が勝った。
目をつぶると言ったのは青年自身だ。ならばそこに含まれるであろう事情もまるっと目をつぶってやるのが優しさだろう。
(今はな。今度美味い酒とつまみ奢ってもらうからな、テオ)
ひとりで完結した青年は再び不寝番の務めに戻るため、踵を返す。
窓の外では、家々の隙間から白く透明な朝日が細く零れ始めていた。
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