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木広洲町の生活シリーズ  作者: 大垣さん
8/9

第八話 夜の握り。

引き続き応援して頂き、誠にありがとうございます!

心の支えになります!

今後とも頑張っていきますので、どうか宜しくお願い致します!

 ご飯を食べ終わった士たちは、フードコートみたく、その平らげたお膳を洗い場の棚に置いて学食を後にした。学食の下の階には遊戯階があったが、士は行く気にならなかった。お腹いっぱいご飯を食べて、眠たくなって来ていたからだ。愛夏もそうらしかった。エレベーターの中でも瞼をパチパチと早く動かしていて、立っている足は爪先立ちになったりしていた。

 女の子が、眠気に必死に抗う。

 それは士にとって、妹を想起させる懐かしさと一緒に、家で担っていた兄的立場を思い出させる姿だった。

「危ないよ?」

 士は愛夏の肩を片手で優しく握り、もう片方は腰に当てた。

 そうすれば、たとえ眠気に負けても支えられるからだ。

「食べ過ぎ、た……オセロが、お魚、たくさん食べたいって、言うから」

 うとうとしながら愛夏が呟き、カクンと頭を垂れる。

 たしかに愛夏は、オセロに言い聞かせてから、鮭の塩焼きを八枚食べていた。

 それだけ食べたら、そりゃ眠くなってもおかしくないだろう。

「たくさん食べてオセロが喜んでくれてるのなら、それは食べ過ぎじゃない、思いやりだと思うよ」

「ありが、とう……ふっ……ほぁはっはぁ〜ぁ……」

 愛夏は垂れた首を上げてあくびをした。

「はっ……ふ………ふぅほぉふぁ〜っ……」

 つられて、士もあくびをした。



 こうして眠気を抱えながらエレベーターを降りた二人は、遅い足取りで部屋に戻った。今日は特に何もしていないから、士は風呂に入らず、歯磨きだけする事にした。

 二段ベッドを見ると、下の段の布団に使用した形跡はなく、上の段には猫のぬいぐるみやらが置かれていた。

「僕は下かぁ……にゅんん……」

 士は身体を棒にして、ボフンと布団に飛び込んだ。


 それから三時間、士はぐっすり眠ったのだった。






 三時間後、士が目覚めるきっかけとなったのは小さな物音だった。


 ギジィ、ギジィ、ギジィ、

士の左耳に、鈍い音が聞こえて来た。その時、士の眠りのリズムは浅い時期に入っていて、音に反応しやすいタイミングだった。

「んんん……ん?」

 士は起き上がり、瞼を開く。部屋の電気は消えていて、カーテンの隙間から漏れる月明かりが部屋を照らしていた。

 照らされた部屋の中に、白く、ぼんやりとした物体が動いているのが見えた。やがて目が慣れて来て、それがはっきりと見えてくる……。

「えっ」

 士は驚いた。

 見えていた白いもの。それは紙おむつ一丁の愛夏の後ろ姿だった。

 士はすぐにでも、服を着ようと言いたかった。しかし、月明かりに照らされた愛夏の背中は美し過ぎた。

 月光をはね返す白い肌は白磁の花瓶のように綺麗で、くびれていた。無駄な肉は無く、且つ細すぎることもないその体躯はずっと見ていたいほどに魅力的だった。

 そんな素敵な身体の腰から太ももまでを、テープ式の紙おむつは優しく包み込み、膨らませていた。

 士はその姿を少しでも楽しもうと、喋るのを自制し、ただただ眺める事にした。

 愛夏は、独り言をしていた。

「オセロ、やっぱり寒いから上は着させて?……風邪、引くと大変だから……」 

 呟く愛夏の頭が傾く。

「うんっ……ありがとうっ……」

 オセロは、愛夏の頼みを受け入れたようだ。

「オセロ……お散歩、行こっ」

 愛夏はそういうと振り返り、二段ベッドのはしごを上がって行った。

 ギジィ、ギジィ、ギジィ

 鈍い音と共に、愛夏のおむつのお股部分が、すぐ目の前にやってくる。

「はぁ……」

 瞬間、士は興奮してしまった。

 スンスンッ、スンスンッ。

 浮ついた心に乗って、鼻を鳴らす。

 これだけ近ければ、おむつの中に出ているものの香りが嗅げるのではと思えたからだ。

 しかしこの時、愛夏は眼鏡もしていなければオセロが現れもしていなかった。つまり、お漏らししている訳が無い状態だった。

 だが士の興奮は、そんな事実を確認する事を怠けさせて、ただただ鼻を鳴らさせる。

 ギジィ、ギジィ、ギィ。

「へ?」

 ベッドの上に脱ぎ捨てたパーカーを手に抱いた愛夏は、足元からスンスン音が鳴っているのに気がついた。

「へー……と」

 降りる足を止め、はしごの間から下にいる士を見る。

「つかさ、くん?おき、てるの?」

 愛夏は静かに問うた。

「あっ」

 スッ!

丁度吸おうとしていたところで士は呼吸を止めた。でも驚いた拍子で止めたから吸い過ぎた。

 スボッ!

 瞬間、鼻の中に溜まっていたものが喉の奥までやって来る。

「エホッ!エホッ!エホッ!」

 士は鼻と口を手で押さえて咳き込んだ。

「だい、じょうぶ?」

「あ、うん、エッホエホッ!」

「鼻、詰まって、るの?スンスン、聞こえた、けれど」

 愛夏は、鼻の音を鼻詰まりだと勘違いした。それは士にとっては良い事だった。同類であり、一度分かち合ってはいたけど、それは恥ずかしい行為だからだ。

「う、うん、そう、鼻がね?うん、大丈夫、今取れたから……」

「良かった……」

「あっ……のさ、今からお散歩行くの?」

「うん、私も、オセロも、夜が好きだから……」

 士は、さっきの事を思い出した。

「愛夏ちゃん、オセロからさ、何か聞いてない?」

「……聞いてる、私が疲れた、ら、つか、さくんが、守ってくれるっ……て……」

「オセロ、伝えてくれたんだね」

 愛夏は頷いた。

「……つかさ、くん……来れ、る?眠くない?」

「大丈夫だよっ、だいぶ寝たからっ、うっしょ」

 士は起き上がり、言った。

「今日から、二人で散歩しよ?」

「……やった」

 愛夏は、くしゃくしゃにして抱いたパーカーに顎を埋めて、微笑んだ。


 

 二人は、手を繋いで部屋を後にし、エレベーターで一階に降りて正面玄関から外に出た。


 夜10時頃の木広洲学園高校の外は、意外にも静寂では無かった。愛夏のように夜に出歩くのが好きな生徒らしい影がちらほらあって、退行した滑舌で発せられる言葉が、時折飛び交っていた。しかし愛夏はその類では無かった。両手を広げて静かに歩き続けるだけで、何も言わなかった。

「愛夏ちゃん、もしかして気を使ってない?」

 昼下がりに登って来た坂を並んで降りながら士は聞いた。

「つかって、ない、いつも、お気に入りの所行くまで、こやってトコトコ、歩くの」

「お気に入りの所?」

「ついて来て、気持ちよさ、知って欲しいから」

「うん、ついていく、あ!なら、手を繋がない?夜道は危ないし、はぐれたくないから」

「うん、」

 愛夏は立ち止まり、指を伸ばして士の手を握った。

「あっ」

 握られた途端に、士はその手が汗で湿っているのに気がついた。

「あっ」

 同じタイミングで、愛夏も士の手が汗まみれなのに気付く。

 共に、違う理由で緊張し、そして隠しあっていたのだ。

 二人は立ち止まり、握り方を変えて緊張を感じ合った。だけども決して口には出さなかった。出したら、より手に汗が滲んで、滑って手を離してしまいそうだったからだ。

「行こ」

 愛夏が弾みそうになるのを抑えて言った。士は頷いて、足を踏み出した。


 坂を降りると、ハイハイロードのある道に出た。登って来た時には由水と話していたので気がついていなかったが、そこは丁字路になっていた。どちらも山を登るように続いていて、片方には住宅街と立体駐車場があった。愛夏はそちらの方へと歩いていった。

 その住宅街は不思議な形をしていた。入り口に立体駐車場があって、その奥に家が並んでいた。つまり、住宅街自体には車が入れないようになっていたのだ。

立体駐車場の詰所には中年の職員がいて、テレビを見ていた。職員は二人の足音に気がついて振り向いた。

 職員は、愛夏の事を知っていた。

「おお〜銀髪の子!今日はお迎えも一緒なのかい?」

「そう、いっしょ、だから眠たくなっても、こーつさん呼ばなくても大丈夫」

「そうか!そりゃ安心だな!お兄ちゃんよぉ、この子体力ないから逐一見てやってあげてな?車と人がぶつからないためにこの立駐があるのに、その中で寝られたら意味ないからな!」

「分かりました!」

 士は返事しながら、握る手が忙しなく動き、引っ張っているのに気がついた。

 顔見知りだけど、愛夏はこの職員が苦手なようだ。

士は「行ってきます!」と返事をして、引く手に従った。

 立体駐車場は三階建てで、ほぼ満車になっていた。よく、活気のあるショッピングモールの立体駐車場でも同じ光景は見られるけれども、出入りもなく、聞こえるのは吹き抜ける風の音と二人が不揃いに出す靴の音と息遣いだけだった。故に建物内には寂しさだけがあった。夜風は薄めの素材のジャージ生地を膨らませ、士の身体へと達してそして冷やしていく、一方愛夏はパーカーを着ていたので、風を気にする事なく、コツコツ音を鳴らし、殆ど斜めの駐車場を登って行く。二階に上がった時だった。士は立ち止まった。

 シュルッ。

まだ手汗が半乾きの握っていた手が、離れる。

「あ、つかさ、くん?」

「ごめん……」

 士は黙った。その後に何を言いたいかは決まっていた。

 シュ。おむつの中で、アレが大きくなる。

 士は体が冷えたせいで、おしっこがしたくなっていたのだ。

けれど、言ってしまえば愛夏の散歩を邪魔する気がして言えなかった。今の自分は一緒に散歩してるとは言えども主役は愛夏だと自覚していたからだ。

「ごめん、って、何か、したの?おとしもの?」

「ううん……」

 士は目線を外し、足を内股にした。

 ムウウ……。おむつの中では、溜まったおしっこでパンパンになった膀胱に押されて大きくなったアレが完全に勃っていた。

 クシュシュッ。

 おむつの前当て部分が膨らんで行く。

 もう、そんなに歩く事は出来ないくらいにおしっこがしたくなっていた。

 それでも士は歩こうと、愛夏の手を握って坂を登って行った。

 愛夏はそれを止めなかった。ただ一言呟くだけだった。

「上で、一緒にしよっ、わたしも、したいから」

「愛夏ちゃん……」

 瞬間、士の括約筋は覚悟を決めた。


 三階に上がると、壁は無くなり、360°木広洲の町が見渡せた。前方の目測1キロ先には駅が見え、手前の東口には少しの繁華街の光たちがあり、それを取り囲む山林が、まるで避暑地の様に光を上品に彩っていた。その向こう、西口には区画のしっかり決められた街並みが広がっていた。大きな商業施設や病院などが並び、その向こうにはここと同じ様に立体駐車場を伴った住宅街やビル街があった。そんな丁寧な町が、地平線半分以上手前まで広がっていた。

「こんな街だったんだ、木広洲って」

「ここから見るのが、一番、わたしは綺麗で、好き。一番落ち着く、の」

「街並みには行かないの?」

「私は、行かない。でも、オセロはフラフラするの好きだから、行く」

「オセロは街ブラ好きなんだね……あっ」

「あっ?」

「愛夏ちゃん……波が……」

 士は自分のお股を押さえた。

「来たんだ」

 そう言うと、愛夏は握る手に力を込め、

「私も、する……」

 もう片方で眼鏡を外した。

「しよ?」

 愛夏は士の顔を覗く様に見た。

「うんっ。うんっ!」

 士は喜びを感じながら、

「……はぁああああぁ〜」

 力を、抜いた。

 途端に、

 プッシャァァァ!!!

 おむつの中に、温かなおしっこが勢い良く広がって行った。その量は、500mlペットボトル一本分に相当した。愛夏によって当てられたおむつの中、気を利かせて敷いてくれていた長時間用の尿取りパッドがムクムクと膨らんで行く。

 愛夏のおむつもそうだった。士ほど多くはないが、元気な水勢のおしっこお漏らしでおむつは膨らみ、垂れ下がり、パーカーの端へとより迫った。

「はぁぁあ……」

「ほぉぁ」

 全てを出し切った二人は、深く息を吐いた。

 そして……。

「……たっぷりしちゃったにゃっ」

 愛夏はまた、オセロになった。

「こんばんはっ、オセロ!一緒に街をぶらつこうかっ」

「にゃん!」

 散歩は、まだまだ始まったばかりだ。



さて、夜の散歩を始めた二人、いかがでしたでしょうか?

これから、夜の街で遊び呆けるので、温かく見守ってくれたら、嬉しいです!

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