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木広洲町の生活シリーズ  作者: 大垣さん
7/9

第七話 告白。

六話から音速でやって来てくださった方々、ありがとうございます!

前書きで長ったらしく話しててもアレなので、もう本編行きましょう!!

では!

「にゃ……?」

愛夏は、体を一度震わせて士を見た。キョトンとした目だった。

「猫、だよね?」

また聞くが、愛夏は目線を反らしてしまった。

「ごめん、あまり聞いちゃいけないことだった?」

「……誰にも……」

「え?」

「誰にも、言わないで欲しいにゃ……」

 士のお腹の方へと視線を移した愛夏が言った。

「やっぱり猫なんだね」

「……そうにゃ」

「猫さん、名前はあるの?」

「愛夏は、オセロって呼んでたにゃ!」

 オセロ。可愛い名前だ。

 きっと白黒の猫だったんだなぁ。

「名前をくれたんだね、愛夏さんが」

「そうにゃっ!愛夏はずっと可愛がってくれたにゃ!中にいるのはその恩返しにゃ。いつもおむつにお漏らしすると悲しそうだったから、お空に登らずに、愛夏の中に居て、お漏らしで悲しくなったら出てきてあげて、悲しくならないようにしてるのにゃ!」

「お空……つまり、本当のオセロはもう死んでるんだね……」

「愛夏の家に行こうとしたら、轢かれちゃったにゃ……」

「愛夏さんは、オセロが取り憑いているのに気付いているの?」

「いつも夢とか心の中で会ってるから分かってるにゃ!」

「そうなんだね、あの、オセロさん?僕今日から愛夏さんとここで暮らすけれど、何か手助け出来ることあるかな?」

「夜にお散歩行くのに手伝って欲しいにゃ!野良猫だったから、夜にお散歩行くのが好きなんだけど、愛夏の中にいても散歩したくなるのにゃ!でも、よく途中で疲れて眠ってしまうからここに帰って来られないのにゃ!その時、助けてあげて欲しいにゃ!」

「なるほど、それで公津さんに週四で迷惑かけてるって言ってたのか……分かった!手伝ってあげる!オセロさん、行きたくなったら、愛夏さんとしてでも良いから、声かけて!」

「ありがとうにゃ!」

「こちらこそっ……あ、おむつどうしよう?替えてあげた方が良い?」

「そうして欲しいにゃ!かぶれたら愛夏が可哀想にゃ!」

「分かった、じゃあ、横になって!」

「はいにゃ!」

 オセロ(現、愛夏)は横になった。猫の名残か、足はガニ股に開かれ、両手は前足の様に曲げられていた。それはおむつ替えには何も影響も無いし、可愛かったから、士は何も言わないことにした。

 士は棚にあったテープおむつを取り出した。棚は意外に奥行きがあり、奥には封の空いたパッドのパッケージとお尻拭きがあった。そこからも必要な分取り出し、またオセロ(現、愛夏)の元へ戻った。

 ベリベリベリ……。

 テープを開き、おむつを開く。

「うわぁ」

 いくらルックスが可愛くても、おしっこの香りはツンとして臭い。しかしそれがこの可愛い子が出したと話を戻して考えると、可愛さが勝って不快には思わなくなった。

「はぁ……」

 ドキドキしながら、おしっこに包まれたお尻を拭いていく。

 士には妹は居たが、女の子の秘部を見るのは初めてだった。

 穴だけで終わる男子と違って、複雑なんだなぁ。

 士はそう思いながら、陰部を拭いて行った。

拭き終わると、新しいおむつにパッドを乗せて、愛夏のお尻に敷き込んだ。

 その時、バタッと音を立てて、曲げていた両腕が床上に広げられた。そして片手が眼鏡をたぐり寄せて、掛けた。

「オセロ……またしちゃっ、たら、お願い、ねっ……」

 区切りのおかしい口調で言う。

 どうやら、オセロは心の奥に戻った様だ。

 だとしたら、今の状況は恥ずかしいかも知れない。

 士は急いでテープを当て終え、パーカーを整えた。

「愛夏さん……オセロから聞いたかも知らないけど、おむつ、もう替えさせてもらったよっ……」

「聞いた。オセロとも仲良くしてくれて、ありがとう。そんな人、初めて……」

「なんか、偉業を僕は成し遂げたんだね、良かった」

「オセロを知ってるなら、もう、敬語いいよ、むしろ、いや」

「ため口で、いいって事?」

 愛夏は、微笑みながら頷いてくれた。

「嬉しいよっ……宜しくねっ!……愛夏ちゃん!」

「よろしく、つかさ、くんっ」

 愛夏は起き上がり、両手を広げて士のお腹に顔を埋めた。

 そうさせたのは、オセロがまた出現した訳ではなく、頼れる人を見つけた、愛夏自身の嬉しさからだった。

 しかし士はそんなことは考えず、ただ優しく、抱きとめたのだった。

 


 おむつを替え終わった二人は、夕飯時というのもあってご飯を食べることにした。愛夏によると、木広洲学園高校には学食があるが、手持ちがあれば外に出て外食する事も許されていた。

 外食という強烈な誘惑に負けそうになった二人だが、二人とも手持ちが乏しかったので学食に行くことにした。学食は寮ごとにあり、このK棟の学食は元ホテルらしい最上階に位置していた。


 入り口には看板が掛けられていて、達筆な筆字でこう書かれていた。

 

 学食内でのおむつ着用以外の退行、趣向行為は禁止する。


 機能上の排泄は仕方ないが、意図的なものは禁止する。食事の場という認識を最重視する事。


 命を頂いてる事実を忘れず、残飯が出ない程度の食事摂取を心がけるべし。


 律する所では律する。士は、愛良先輩の言葉を思い出しながらそれを読んだ。


 

 学食から見える木広洲町の景色はまずまずといった所だった。所々に森があって、遠くには乗ってきた電車が橋を渡っているのが見えた。

 学食はバイキング方式だった。おかずは和洋中の代表的なおかずが揃っていて、ご飯と汁物はおかわり自由だった。士は入り口の看板にあった心得を意識しながら、食べられそうな分を皿に盛り付けて行った。それでも、まるでオードブルの様なこんもりとしたみてくれになった。

 ふと、横で同じく盛り付けている愛夏を見ると、魚と野菜を多く盛っていた。

「そりゃそうかぁ」

 士は微笑みながら、まだまだあるおかずと、真剣な眼差しでおかずを選ぶ愛夏の横顔を交互に見つめた。

 おかずと主食、汁物のコーナーの先には飲み物のコーナーがあって、コーラとお茶の前だけ生徒がぞろぞろと並んでいた。

 それからすこし離れた所、コーヒーマシンの前で公津が柱にもたれながらコーヒーを飲んでいた。

「おおお〜いっ!つかさくん!」

 公津は二人を見つけると、手を振って呼んだ。

 士としては、現状を説明するためにも駆け寄りたかった。しかし、愛夏の事を考えると、答えようか迷った。

「愛夏ちゃん、迷惑かけてるって言ってたけど、話しに行ってもいい?」

 士は、愛夏は断ると思った。でも、

「いい、つか、さくんと、一緒なら」

「ありがとうっ!」

 二人は公津の方へと歩いて行った。公津は二人に近づきながら、空いていた四人掛けテーブルへと促して「立ち話してたらおかず冷めちゃうから!」と言って座らせた。公津自身も、コーヒーカップを置いて座った。

「つかさくん?あいかちゃんとはあの後仲良くなれたかい?」

「はい、おむつ替えをして、あと、込み入った話もして打ち解けれました!」

「込み入った……そっか、君もオセロと話したんだね!」

「あ、はい」

 士は一瞬戸惑って愛夏を見た。愛夏は選んできた鮭の塩焼きの皮を箸で剥がそうとしていた。それに集中して、話を聞かないつもりらしい。

「オセロってさ、きっと猫としては珍しい性格だったって思わない?」

「どうしてですか?」

「だってさ?猫ってそうそう懐かないよ?膝の上に来たかと思えば、あっちへふらふら、こっちへふらふら一人旅っ、気まぐれだよね?」

 士は家で飼って猫を思い出した。確かに公津の言う通り、気分気ままに動いていた。

「確かに気分屋ですね。でも、野良猫って言ってましたから、飼っている猫とは行動スケジュールが違うかも知れないですね。餌も毎日探さなきゃいけないし。そんな中で、愛夏ちゃんは唯一の決まった拠り所だったんじゃないでしょうか?」

「なるほどねぇ」

 公津は納得して、コーヒーを一口飲んだ。

「出てきちゃダメって、約束、でしょ?」

 ふと、愛夏が呟いたのが聞こえた。

 士はまた愛夏を見る。

 綺麗に皮を外した鮭の塩焼きに、愛夏は正に猫の手をして握ろうとしていた。

「あらら、噂してたら出てきちゃったみたいだねっ」

 公津さんが明るく言った。

「オセロ、骨があるから、怪我しちゃうから、取らせて、ね、いい?……はい、いい子っ」

 そう優しい声で言うと、愛夏は猫手をやめてまた箸を握り、骨を取り始めた。

 優しい子なんだね……。

 口に出すには恥ずかしい思いを巡らせながら、士は盛り付けた男受けのおかずと、ご飯を交互にかき込んだ。



                 つづく。


はい!お読み頂き誠にありがとうございました!

こっから冴弘愛夏が台頭します!彼女と桜村を、どうぞ宜しくお願い致します!

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