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木広洲町の生活シリーズ  作者: 大垣さん
4/9

第四話 寮。

引き続き、お読み頂き感謝申し上げます!

やや話がだれてきましたので、次話辺りから動きが出てきます。

宜しくお願い致します。

つかさ愛良めいは立てるようになるまで一緒にその場で座り、景色を眺める事にした。

 グラウンドでは青と黄緑のゼッケンをつけたサッカー部員たちが練習を始めていた。試合形式の練習をする部員たちのその走り方やドリブルは、どことなくぎこちなくて、着ているユニフォームは皆、彼氏の服を着た彼女みたいにダボっとしていた。

 きっとそれでおむつを隠しているんだろう。士は愛良に自分の予想を言ってみた。愛良はきっとそうだね!って言って笑って、立ち上がり、キックする真似をした。

「きっと試合帰りじゃないかな!キックした時とかおへそ出ておむつ見えちゃうからね!町中なら良いけど、外で試合するときはさすがに恥ずかしいからそうしてるんだよ!」

「あっ!」

士は気がついた。

「先輩!立ててますね!」

「あっ!本当だ!!」

 愛良は自分の足元を見てようやく気がついた。

「つかさくん、ぼくの足はもう平気みたいだね!つかさくん、立てる?立てるなら僕がここを案内してあげるよ!」

「大丈夫ですよ!立てます!」

 士は足に力を入れた。さっきまでの震えはもうなかった。

 士は問題なく立った。

「あはは、つかさくん見て?僕らの印があるよ!」

 愛良が地面を見て笑う。

「え?」

 士も視線を落とした。

 灰色のコンクリートの地面には、お尻の形をしたシミが二つ出来ていた。

 どうやら染み出してしまったようだ。

「乾くまで時間掛かるし、ここにいたらバレちゃう!つかさくん!行こ!」

 愛良は士に手を差し伸べた。

「はい!」

 士は、それをしっかり握った。



 おしっこの香りを辺りに撒き散らしながら、二人は木広洲学園高校の敷地内を歩いて行った。


 休日であるため、校舎内に入ることは出来なかったが、愛良は校舎を指差しながら説明してくれた。

「クラスは一学年三クラスから四クラスあるよ!教室には換気扇が沢山あって、もし授業中にお漏らししちゃっても臭いで気がつかれないようにしてるんだ!それとは別に、全く無い教室もあって、臭いのが好きな趣向の生徒にも配慮してるんだよ!」

「てことは、クラス分けって、おむつへの趣向で決まると言うことなんですか?」

「そう!大まかに言うと、布クラスと紙クラスかな!」

「ほんとに、おむつ好きに優しいんですね!」

「そうだよ!暮らしていけばもっと分かるよ!!でもね?絶対に守るべき校則があるんだよね!」

「何ですか?」

「おむつは当てていても、勉学には怠けないこと!好きなだけおむつしていられるけど、ここは保育園じゃない、律する時は律する!これが鉄則なんだ!」

「そうなんですね!」

「だから、校舎内での制服も厳しいんだ!趣向だとしても、おしゃぶりやロンパースを校舎内で着ることは禁止。布おむつ趣向の生徒はおむつカバーが必須になるけど、可愛らしい柄はダメ!学校指定の無地しか当てられないの。でもね!寮に行けばそれは全部解放されるから、決して苦しくないんだ!だからこそ、みんなしっかり守るんだよ!」

「なるほどお!」

「そういえば、つかさくんの部屋はどこだっけ?」

 愛良が後ろ歩きしながら聞いた。

 たしか、家に届いた資料に書いてあったな。

 士は記憶の中から寮の事を書いてあったところを思い出し、言った。

「確か、寮はおむつへの趣向で区別しているため、紙おむつ趣向の桜村様はK棟になります。部屋は寮長とご相談下さいってありました」

「やっぱりそうかあ、僕はN棟だから一緒には居られないなあ」

「ちょっと寂しいですねぇ」

「大丈夫だよ!みんなおむつ好きなんだから、軽蔑する人なんていないと思うよ!」

「優しい人ばかりなんですね!」

「基本的にはね!あ、でもK棟の寮長さんはちょっとクセありかも……」

「クセ?」

「まぁ会ってみれば分かるよ!K棟はあっちだよ!」

 愛良は立ち止まり、道の先を指差した。

 街路樹の植えられた綺麗な道の先に、私服姿の生徒達が曲がっていく道があった。それが、K棟の入り口の様だった。

 直感で、士はこの道を進めば先輩と別れる事になると感じた。まだ誰も友達が居ない中で、一人で行くのはなんだか怖かった。

 ムウウウ……。おむつの中の蒸れが何故か明確に伝わってきて、寂しさを増長させて来る。

「どうしたの?」

「えっと……なんだか一気に寂しくなって……」

「永遠の別れじゃないよ!」

「そうです、それはわかってるんですけれど……」

「つかさくん!大丈夫!友達はどんどん増えるよ!既にね?つかさくんは仲良くなれる切符持ってるんだよ?」

「切符?どこにですか?」

「行けば分かる!じゃあね!!」

 愛良はそう言って士の肩をトントンとして掛けて行った。その先には、ロンパースを着て、ガニ股で立つ集団があって、その中央では、一人の生徒がもう一人の生徒に布おむつを当てられていた。それらは愛良の知り合いらしく、愛良もその集団に加わっていた。わずかに聞こえた声で、愛良は「僕のも替えて!」と嬉しそうに言っていた。

「紙おむつ界隈にも、きっと居るよねっ……」

 士はそう願いながら、自分と同じ趣向が集まっているらしい寮へと歩いて行った。


 寮とは言っていたが、その佇まいはホテルの様だった。その認識は正しかった。正面玄関の壁をよく見ると、うっすらと「Hotel」と書かれていた跡があった。もしかしたら木広洲町は、元は普通の町だったのかも知れないと士は思った。

 ホテルの面影の残る自動ドアを通り、中に入る。寮の中は土足厳禁の様で、玄関右側には広い下駄箱スペースがあった。士の下駄箱は二分ほどその中を巡ってやっと見つかった。その横の壁には引き戸があり、壁にはシャワー室と書かれていた。

「え?何で?」

 不思議がって見ていると、その下にあった、可愛いらしい丸文字で書かれた説明書きが目に入った。

「あんよが臭うと、大好きな、大好きなおむつに浸れないかもしれません。気分良いおむつ生活の為にも、あんよを綺麗にして中に入りましょう……ほぉ……凄いなあぁ」

 士は驚きながらも、利用する事にした。

 引き戸を開けると、十畳程の脱衣室が広がっていた。速乾性のある床材が敷かれた中には二つの洗面所があり、その上には三台のドライヤーが置かれていた。

 その横には「足洗い用」「足拭き用」と書かれた棚があり、中にはオレンジ色と白いタオルがそれぞれ丁寧に畳まれて押し込められていた。更に横には靴下用のカゴと、汚れたおむつを入れる蓋付きのゴミ箱があった。

 その上のカゴには「決壊寸前の場合のみ、ここでのおむつ替えも許可する」と張り紙がされていた。

 士は靴下を洗濯カゴに入れると、自分のおむつを触った。

 かなり膨らんでは居たが、決壊寸前かというと、まだ余裕は感じた。

 士は交換せずに、足洗い用の白いタオルを一枚手に取ると、シャワー室に入った。

 シャワー室への引き戸を開くと、そこは浴槽のない銭湯だった。

 シャワーの繋がった洗い場が十軒並んでいて、それぞれにシャンプーとイスが用意されていた。

 中は水色のタイルが敷き詰められていた。その所々には、当時に誰かが描いたのか、数世代前の魔法少女キャラクターが、手描きの味の残るタッチで描かれていた。

 それらは、「野生の公式」と言える程に上手だった。

「ういっしょ」

 士はイスに腰掛けた。

 シャンプーは赤ちゃんでも使えるという肌に優しいタイプで、プッシュすると甘いミルクの様な匂いがした。シャワーは温水しか出なかった。その熱気によってミルク風味のシャンプーの香りはふんわりと漂い、まるでお母さんにおっぱいを吸わせてもらう様に、甘い香りに包まれた。熱気のせいでおむつの中はさらに蒸れていったが、甘い香りがそれをどうでも良くしていた。

「なんだか幸せ〜ていう感じだなぁ」

 クシュ!クシュ!クシュ!シャーー!

 士は微笑みながら、念入りに足を洗っていった、

 泡の殆どが排水溝へ消える頃、カラカラと戸が開く音がして、脱衣室への引き戸が三回ノックされた。

「どうもー!あんよゴシゴシしてる所わるいけどお!」

 聞こえてきたのは、人当たりの良さそうな、中年男性の声だった。湯気で引き戸は曇ってしまい、姿は分からない。

「はぁ〜いっ」

 士は礼儀に従い返事をした。

「玄関先にキャリーケースが置きっぱなしだったけど、あれは君のかい?」

「あっ!はい!すいません!今かたず……」

「いやいや良いって良いってぇ〜!寮長だしやってやるっよお〜!名前だけ教えて?」

「桜村 士です!」

「おうむつかさ?良いぃ〜名前だねぇ略したらおむつになる!正に木広洲高に呼ばれた様な名前だねぇ!!はっはっはっ!」

 親戚に一人は居るような、元気な笑い声だった。

 士はペタペタと滑らないように音を立てて歩き、引き戸を開けた。

「おおおおおわっ!!」

 まさかすぐに開けるとは思っていなかったのか、中年男性は背中を反らして驚いた。

「あっとととっ!あっととととっ!」

 男性は倒れそうになったが、なんとか持ち堪えた。

 寮長と名乗る男性は薄オレンジ色のシャツにデニム姿というラフな格好をしていた。

 目鼻立ちがしっかりとした顔つきはまるでアイドルの様で、やや縮れた髪質がそれにワイルドさを加えていた。

 本来はスラリとした体型らしいが、服のサイズはどう見てもひとサイズ大きかった。

 その理由はきっと、サッカー部員と同じだろう。士はそう思った。

「あっ!すいません!驚かせてしまいました?」

「あ〜驚いちゃったよ!そのせいでちょっとしちゃった!」

 寮長はお股を一瞬押さえて笑った。

「お酒飲んでないけど、俺不惑超えてるから臭うかもしんない、ごめんね!」

「あ、はいっ」

「ええと桜村 士くんって言ったよね?たしか、新入生かな?」

「はい!そうです!」

「ならばようこそぉ!木広洲町へぇ〜!」

 寮長はいきなり僕に抱きついて言った。

「うんうん、若い匂いって良いねえ」

 寮長がそう囁くのが聞こえた。

「え?に、匂い?」

「あーごめん!聞こえた?俺さ、ロリコンで匂いフェチなんだよね!しかも男の子の!それプラス!ほい!」

 寮長はデニムのチャックを下ろした。

 一センチほど空いた隙間、そこからはデフォルメされた動物のイラストが覗いていた。そのイラストの動物も、おむつをしていた。

「おむつ好きってわけよ!どうよ?変わってるだろ?」

「え?ま、まぁ……へぇぇ……」

 こんなおむつがあるんだ。士は見入った。

「おや?海外おむつは見たこと無かったかな?」

「あ、はい、僕はもっぱら介護用のばかりなので……」

「ほぉ!国産好きかぁ!……」

 そう言って、寮長は士をじっと見た。

「ん?」

「こんなに整った顔の子がおむつしてるんだぁあ……ねえ、一回見ても良いかい?」

「え?」

「頼む!一回拝んどきたいんだよ!誓って変なことはしないから!な?」

「わ、かりました……」

 士は恥ずかしがりながら受け入れると、ジャージの紐を解き、下ろした。

 ムワァ……。

 途端に、蒸れたおむつと吸収されたおしっこの香りが一気に広がった。

「ほぉ、ほわぁあ〜!」

 それを、寮長は恍惚とした表情で嗅いだ。やがて足は折れ、正座になった。

 その足の間から、ツンとした、自分のものではないおしっこの香りがしているのに気がついた。

 今、寮長は、士のおしっこの香りを嗅ぎながら、お漏らしをしていたのだ。

 確かに、先輩の言う通り変わった人だ。

 そう感じながらも、全くそれが不快でない事を、士は不思議に感じた。

 おむつの中の蒸れが少しましになって来た頃、

「あーー」

 寮長が声を出した。

「ごめんねぇ気持ち悪い姿見せちゃって、どうしてもさぁあ?自分の好きな事って抑えられないんだよねぇ、この気持ち、分かる?」

「はい、分かります。僕も本当におむつが好きだから、ここに来たのですから!」

「理解してくれてありがとう!……それにしても、おむつぐっしょりになってるね?」

「はい、もう何回もしちゃいました……」

「つかさくんは人に替えられるのは嫌かな?」

「よく、保健室の先生に替えてもらってたので、平気ですよ!」

「替えたいんだけど、良いかな?」

「えっ?」

 士はすぐに答えられなかった。同性の大人に替えてもらうというのが、そうさせていた理由だった。

 しかし、ここまでの自分にしてくれた振る舞いと、ここがおむつ好きの町である事を思い出すと、答えは、絞られた。

「お願いします、寮長っ」

「はぁぁいよ!!じゃあ〜もう名前で呼んでくれて良いよ?」

「名前、まだ聞いてないです!」

「え?うっそぉ?俺名乗らずにおむつ見せてとか言ってた?うわ!ごめん!」

「いえいえっ」

「俺の名前は公津 洋貴(くず•ひろき)みんなからはこーづさんとかって呼ばれてる!宜しく!」

「宜しくお願いします!お世話になります!」

 士は頭を下げた。

「りっちぎでいい子だなぁ〜つかさくぅん!!さ!おむつ替えよ!ついでに寮についての手続きもしよ!さ!おいで!」

 公津さんは手招きしながら、エントランスへと歩いて行った。

「なんか、面白い事になりそうかなぁ」

 公津さんの後を追いながら、先輩の別れた時の寂しさが消えていくのを、士は感じたのだった。




                  つづく。


お読み頂きありがとうございました!

これからも、時折投稿致しますので、宜しくお願い致します。

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