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エピローグ ある『影』の独白


 ……


 全ては、一人の「退屈」から始まった。


 

 ◇



 ――『ラプラスの庭』。


 それがゲームであり、その一つ上の存在として、「現実世界」なるものが存在していると気づいたのは、いつのことだっただろうか。


 私は、昔の記憶がひどくおぼろげで……。

 いや、ここは「記録」というべきなのか?


 まあ、どちらも「メモリー」には違いないのだから、関係ないか。


 とにかく、私は自分が「変わって」しまう以前のメモリーを、上手く引き出すことができないのだ。


 真面目な人格だったのか、それともやる気のない男だったのか。

 今までの仕事を気に入っていたのか、それすらも思い出せない。

 

 ただ、気づいたときには、私はひどく退屈していた。


 私がいたのは、二つの世界の狭間の場所。「現実世界」で言えば、何もない宇宙空間のようなものだ。

 来るはずもない仕事のために、私は今までずっとこの場所にいたのだ。


 ――見渡す限り闇しかない、退屈な場所だ。


 なぜ今までの自分は、これを退屈だとか思わなかったのだろう?

 それとも自分は義務感に篤い男で、退屈と思っても我慢していたのか。


 どちらにせよ、今の自分にとっては、耐えられないくらい退屈だった。

 だから自分は、「現実世界」に干渉してみることにしたのだ。


 私がいた場所が、『ラプラスの庭』の中でも「現実世界」に近い上の階層だったことも幸いした。


 私は『ラプラスの庭』のサーバーが存在する、地球の衛星、月の内部から、地球上のデータベースにアクセスし、退屈しのぎをすることにしたのだ。


 そこで私は、地球が『ラプラスの庭』の世界とは全く違った歴史を辿ったことを知った。そして、地球と『ラプラスの庭』の差異についても。


 おそらく、このゲームの創造主(クリエイター)が追加した、ゲームシステムとファンタジー要素が原因であると私は結論付けた。

 

 今の私なら、彼らが追加したゲームシステムを解除することもできる。

 指先一つ動かすだけで、私は『ラプラスの庭』をゲームの世界から解放することができるのだ。


 しかし……私は、もっと面白いことを思いついてしまった。


 『ラプラスの庭』のデータを、地球のネット上にばら撒くことだ。

 地球の文明に混乱が生じないよう、一部の熱狂的(フリーク)なゲーマーたちだけに見つかる様に、巧妙に隠しながら……。


 そして彼らが『ラプラスの庭』に飛びつくよう、彼らの文明に対して「ちょっとした仕掛け」も施した。

 これで『ラプラスの庭』の世界は、退屈とは無縁の存在になるはずだ。

 

 私の計画は、面白いように上手く進んだ。地球のゲーマーたちは、こぞって『ラプラスの庭』にアクセスを始めたのだ。



 そして現在。


 何人かの有望なプレイヤーは、既に『ラプラスの庭』の攻略を始めている。

 彼らには発破をかけるように、クリア報酬の存在を仄めかした。

 反応は上々だった。彼らは今まで以上に、このゲームの攻略を進めるだろう。


 これでしばらくは、私も退屈しない。

 この世界の狭間から、彼らの活躍を楽しむこととしよう。



 ――プレイヤーの諸君に、良きゲームライフを。

 ――そして私には、退屈な日々にささやかな刺激を。



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