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第8話 <辺境都市アステロ>攻略戦 その2

 

 同業者組合(プレイヤーズギルド)に鎮座する、2体のボスモンスター。


-----------------------------------------------


 ■彷徨える聖鎧(レベル21)[HP:230]

 かつて騎士道の名の下に、多数の虐殺を繰り返してきた騎士長の鎧。

 手には一振りの血で錆びた大剣。それを床に突き立てたまま、微動だにしない。


 ■キング・ポルターガイスト(レベル23)[HP:120]

 霊力の(コア)の周りに、沢山の鋭利な刃物を浮遊させている。

 錆びてくすんだ色の王冠は、愚王の圧政による犠牲者たちの怨念が宿っている。


-----------------------------------------------


 なるほど、あからさまに強敵である。

 圧政を繰り返してきた愚王と、虐殺の実行犯。これ以上の名コンビはない。

 強敵の予感に、思わずスイッチが入るのを感じた。


「カシミール、スケルトンを出してくれ」


 ナギが低い声で言う。今までとは打って変わって、シリアスな雰囲気だ。


「出したぞ。それで、どうするのだ?」


「奴の出方を観たい。スケルトンをけしかけてくれ」


 スケルトンたちが、剣を構えて『彷徨える聖鎧』に突撃する。

 しかし、聖鎧の間合いに入りこんだ――その時。


 ガシャンという金属音を響かせながら、聖鎧は動いた。

 横薙ぎの一閃。そのひと振りで、スケルトンたちは一掃された。

 かくして、虐殺者によってスケルトンが虐殺されたのである。


「なるほど、『彷徨える聖鎧』の方は大体分かった。あとは後ろの奴次第だな」


 背後の浮遊霊を見据える。

 スケルトンをけしかけても、こっちの方は一切反応してこなかった。


「『キング・ポルターガイスト』……霊体系(ゴーストタイプ)のようだが、周りに浮遊させている武器を飛ばして戦うのか? だとしたら厄介だな……。『彷徨える聖鎧』と戦っている間に、死角を狙ってくるタイプの敵だろう。さて、どう立ち回るか……」


 


「なんだか雰囲気変わってない?」


「ふっ、我が半身よ。ようやく本性を出したようだな」


 ナギの様子を見ていたクレアが、戸惑うように言った。

 しかし、樫宮先輩の方は意に介す様子はない。


 ナギこと荒牧渚には一つ癖があった。

 普段はそうでもないのだが、ひとたび相手が強敵だと察すると、スイッチが入ってガチゲーマーの本性が出てしまう。


 今まさにその状態なのである。


「今こそ我ら二人の真なる闇の力を、あの『絶対領域アブソリュート・テリトリィ』に見せつけてやろうではないか。行くぞ、我が半身よ!」


 樫宮先輩の掛け声とともに、僕たちは同業者組合(プレイヤーズギルド)へ乗り込む。

 そして、決戦の火ぶたが切られたのであった。



 ◇



 『彷徨える聖鎧』が音を立てて崩れ落ちる。

 先程まで意思を持ち、剣を振るっていた動く鎧も、今ではただの錆びた鉄の塊。

 虐殺者に引導を渡したのは、ナギの『氷魔の剣』だった。


 確かに、『彷徨える聖鎧』は強敵だった。

 剣圧は重く、受け流すのが精一杯だった。その上、隙を見て『キング・ポルターガイスト』が死角から短剣を飛ばしてくるのだ。綱渡りの戦いが予想された。


 しかし、後ろでクレアが万全のヒール体制を敷いてくれたおかげで、一度もHPが危機状態(レッドゾーン)にはなることはなかった。

 それだけではない。攻撃面でも、樫宮先輩が『闇の一撃ダークネス・インパクト』で削りを入れてくれたおかげで、すんなりと『彷徨える聖鎧』を倒す事ができた。


「ふっ、我が邪眼の黒炎を喰らうがよいっ!」


 死霊術師が使える唯一の初級魔法らしく、威力も相応のものだったが、それでも剣を受け流すことで必死な僕にとってはありがたかった。

 特に相手に一瞬の仰け反りを与えることができるので、何度もそれでピンチを脱し、反撃に転じることができた。


 これで、残りは『キング・ポルターガイスト』一匹だ。


 しかし、その時である。

 『彷徨える聖鎧』が振るっていた血染めの大剣が、ガタガタと震え出す。そして何者に導かれたかのように、剣先をこちらへ向けて一直線に飛んできたのだ!

 なんとか『氷魔の剣』で受けて弾き返す。


 剣は空中で弧を描くと、『キング・ポルターガイスト』の隣に収まった。

 なるほど、そういうことか。


「今まで虐殺者の後ろでふんぞり返ってた王サマが、今更剣を握るかよっ」


 配下の遺物を、自分の得物にしてしまったというわけだ。



「――――――――!!!!」



 キング・ポルターガイストの咆哮。


 土煙が舞う。空気が振動する。

 しかし、何かが起こった気配は見えない。


 不気味な静寂。忍び寄る気配。

 確実に何かが起こっていた。


 ――それに最初に気付いたのは、樫宮先輩だった。


「ふっ、そういうことか。……奴は仲間を呼んだのだ。なるほど、外のアンデットどもが群れを成してこっちに向かって来ておるわ」



 

「だが、所詮は雑兵。外は我に任せるがいい! ――迷宮の深淵より甦れ、ミノタウロス!」


 同業者組合(プレイヤーズギルド)の前に、紫色の魔法陣が展開され――

 そこから姿を現したのは牛頭の魔人、凶獣ミノタウロス。

 入口に群がるスケルトンたちを、右手の斧で一掃する。


 なるほど、向こうは大丈夫そうだ。――ならば。

 ミノタウロスが頑張ってくれているうちに、こっちも決着をつけるとしよう。

 

 『キング・ポルターガイスト』へ向けて、一直線に走り出す。

 圧政の限りを尽くした王様は、無数の短剣を飛ばして抵抗する。

 しかし無駄だ。お前の弱点はすでに見切っている!



「――氷結斬(フリージングブレード)!!」


 

 短剣が、氷の結晶に包まれる。


 念動力も万能じゃない。もしそうだったら剣なんか飛ばさずに、こっちの体を操って自決させればいいのだから。

 奴が短剣を操れる理由はたった一つ。それらが『キング・ポルターガイスト』の一部に認定されているからだ。

 それならば、短剣を奴の一部ではない、不純物で覆ってやったとしたら――


「――――――!?」


 『キング・ポルターガイスト』は驚愕する。

 敵に向かって放ったはずの短剣が、床に落ちたまま動かない。

 いくら念動力を働かせてみても、微動だにしなかった。


「これで――終わりだっ!!」


 『氷魔の剣』を思いっきり叩き付ける。

 『キング・ポルターガイスト』は血染めの大剣で応戦するが、最後の武器も徐々に氷に覆われていく。


 そして――血染めの大剣が完全に凍結したとき、『キング・ポルターガイスト』は全ての武器を失い、跡形もなく雲散霧消した。

 


 


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