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すくえるもの。

作者: あれん。

静かな寝息をたてて眠る君。

「もう大丈夫ね。」


ーーー


朝は何かと忙しい。

大急ぎで朝食とお弁当を用意して、、


「起きてくださいな」


ちっとも起きようとしない君。

これが一番厄介な朝の仕事。

無理矢理布団を剥ぎ取って、、、


「何で素っ裸なのよ!」


寝てる間に脱いでしまう困った行動。


「見た?」

「見てない!」


コントみたいな君との1日の始まり。


スーツに着替えた君が、いつものように耳元で囁く。

「今日『も』好きだよ」


目の前のバス停から乗車する君を見送る。

バスの中から手を振る君。

大きな身体と強面でビジネススーツが微妙に怖い。。


誤解される事もあるけれど、背筋を伸ばし堂々とした姿に見惚れてしまう。



私は外が苦手。

在宅ワークが出来るのは救い。

お気に入りの音楽と挽きたてのコーヒーの香り。

アラームを、君の帰宅1時間前にセットして仕事に没頭。


ピピピッ。

アラームを止めるのと同じく君からの帰るコール。


夜は晩酌メニュー。

出来るだけ野菜を増やしてメインはお肉が定番。


バスのライトが窓を照らす。

「ただいまー」

「今日はどうでした?」

「まぁ、いつも通り」


シャワーを済ませ着替えた君は、シンクの前に立ち、いつものように囁く。

「好き」


カウンターに置かれた手に指先で触れ、、


「えいっ!」

「おりゃっ!」

指相撲。

簡単に勝負はついてしまうんだけどね。



就寝前の日課は書類(メール)の確認。

そろそろかなぁのタイミングでココアを準備。

「はい」

「サンキュー」

ソファーに座る君の足元に、お気に入りのクッションを置く。

「相変わらずだなぁ」

「ん、、、ここが落ち着く」

膝頭に頭を預けて、少しヒンヤリとした体温、頬を撫でてくれる君の指から伝わる温かな体温。

「はぁ、、癒しですなぁ。。」


「明日の朝食は和食がいいな」

「かしこまり!」

リクエストはとても嬉しい。


「今日『も』ずっと好きだった」


寝室に向かう背中を見つめながら、ありがとうと呟いた。



君と暮らし始めてからは

大体こんな感じで日々を重ねている。

そして、日々たくさんの「好き」を囁かれ、空っぽの()が満たされていく。

日常(普通)を普通に過ごせる幸せに感謝。


ーーー


何時もの様に起きてくれない君の布団を剥ぎ取る

「あ、、、」

同じ様な経験は何度もして来た。


「今朝はパジャマのままだね」

「お!ホントだ!」


何時もの様に見送って、何時もの様に出迎える。

そして何時もの質問をする。

「今日はどうでした?」

「今日はねぇ、、」


初めて知りました。

君の仕事、仲間、家族の事。

君の名前、、、。

話は止まる事なく溢れ出す思いの数々。

一晩中話続け明け方静かに眠りに落ちる。


「今日になっちゃいましたね」


静かな寝息。

触れた指先から穏やかで暖かい熱。



「起きてくださいな」

「あぁ、、あのまま寝てた?」

「寝顔見てたら起こしそびれちゃった」


慌てて着替えて飛び出して行こうとする君に、

「忘れ物はありませんか?」

「んーー多分ないかな」


もう君から何時もの言葉を聞く事は出来ない。


何時ものように手を振る君は、少しだけ私の知らない顔。


行ってらっしゃい(さようなら)頑張ってね(元気でね)



《睡眠時脱衣症候群/過度なストレスを要因とする夢遊病の類》



外に出る事も、眠る事も出来ない。

中身のない空っぽな身体()

いつになったら私は扉の外に出られる様になるのでしょう。。。



いつものルートに、見慣れないバス停を見付けたら

少しだけ寄り道をしてほしいな。



「えーと、、ただいま?」

「おかえりなさい、今日はいかがでしたか?」

「いつもと同じかな」

名前も知らない君との新しい時間。


少しだけ私を癒してください。。。


恋愛ではないですね。


読了ありがとうございます。

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