釣りって狩りですね
人の顔を評して「サカナみたいな顔してて気持ち悪い」などと言う人がいるけれど、それは一体どういう了見なのだろう。
サカナは実に25000種類もあり、いまだ発見されていない種も含めると、なんと地球上には28500種類ほどいるのではないかという説があるほどであるのに、それをして「サカナみたい」と一種類に括ってかかる精神というのは、どれほどの粗雑な有り様なのだろうか。
つまり言いたいのは、サカナはそれぞれ顔が違うんだということで、サカナっぽいってなんなんだよ、ということである。シャケだったらキリッとしながらも受け口っぽいとか、カワハギだったらおちょぼ口で顔立ちは小作りとか。それだってウマツラハギのこともカワハギに含んでいるのかとか、正面顔なのか横顔なのかとか、今なら言いたいことはたくさんある。
いやそもそもそんな面倒なことは抜きにしてもっとざっくり百歩譲って海水魚か淡水魚かと言ったら淡水魚っぽいとかいうならまだしも、それだって12000種類あるんだから、全然絞れてないのである。
サカナみたいな顔をしていると言われたのは、高校生だったかつての私の初恋の高山先輩で、友達の裕子が、「ねねね、昨日夜なんかお風呂で突然思ったんだけどさ、高山先輩ってちょっとサカナっぽい顔してるよね?」と言い出したことで、一同爆笑ののち、それまではカッコいいってみんなして大いに盛り上がってた高山先輩が、その日を境に突然「サカナ先輩」ってあだ名になっちゃって、いきなりお笑いキャラに格落ちしちゃったのだった。
そこからは雪崩れるように「言われてみればサカナ!」「サカナにしか見えない!」「きゃー笑える!」「サカナなのにカッコいいって言ってたの笑える!」となるのが、女子高生の年中無休にラリった脳みその出す当然の結論である。
でも当時の私はまだサカナがそんな種類あるとか知らないし、表立って裕子の粗雑な精神を嘲笑したり論破したりして高山先輩の名誉を回復しようと努めたわけでもなく、なんとなく一緒になってへらへら笑って済ませてしまった訳で、後にして思うと本当に情けない限りで、先輩にも28500種類のサカナたちにも失礼極まりないことをしてしまったのだった。
しかも締まりのないことに、私は高山先輩のことを好きだということは友達にも言っておらず、密かに憧れていただけだったので、突然「サカナ先輩」まで暴落してしまったことのショックを誰にも伝えることが出来ないまま、悶々と過ごさなくてはならなくなってしたったのだ。青春の輝かしい季節に突然影を落としたサカナの影だった。
思えば、私とサカナの因縁の始まりだったのだ。




