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「おねえちゃん……いえ、邪竜を倒した聖女さま」

 金属をこするあの嫌な音が暫く漂っていた。

 続いて何かが倒れ地面を揺らす。

 暗闇の中で一体何が起こったのか?

 音が止み、暫しの静寂が流れ、答えが明らかとなった。

 嘲笑う声が起こり、白い光が辺りを灯し、ナジェージダの嗤う顔が輪郭を現していく。


 「影を食らう影の魔法で私を追い詰め、プラーナの放出を止めさせた瞬間を狙ってマチェットを突き立てる……」


 が、オットーの最後の奇策を以ってしても、ナジェージダには傷ひとつつけることさえできなかった。


 「面白いことを考えますね」


 掴んでいた杖を掲げると杖の先、鳥の羽になるだろう部分が削れていた。


 「ですが、こんなことでニャポニカの滅亡を止められるとでも思ったのですか?」


 虚ろな目をしていたオットーを蹴り飛ばして、ナジェージダは近づいていく。

 誰に?

 言うまでもなくエリーナへと。

 ニャポニカ皇族を族滅させて、邪悪な支配者を君臨させ、彼女自身の手でそれを打ち倒す――これは予定された未来なのだ、と。

 世界中からの賞賛が、後わずかで手に入る。

 ずっと欲しくて欲しくて堪らなかった物が、長い時を経て漸く手に入るのだ。

 どれほど待ったことだろうか?

 イルザとして生きた時代では、何者かが勝手に勇者を召喚して彼女の目論見を崩し、二度と勇者の召喚などさせないためにわざわざ遠回りして女勇者となり勇者の権威を貶めた。

 実に長い道のりであったが、あと少しで、あと一歩前に進めば念願の賞賛が手に入るのだ、と。

 そのためには、先ずはニャポニカという国を滅ぼさなければならないのだ。

 靴音が止まった。

 足元には赤髪の少女が倒れている。

 ナジェージダの手が振り上げられ、足元の赤髪の少女の首筋へと杖の先を向けた。

 鳥の嘴を模した先が尖り、それは直ちに振り下ろされた。

 思わず目を瞑り耳を塞ぎたくなる瞬間だった。

 ザクッと音を立てて抉る音が立つ。


 「……」


 無言で地面を凝視するのはナジェージダだ。

 ウンザリしたように吐息する。


 「どうして避けるのですか?」


 不快そうに口調を荒げるナジェージダ。


 「……して」


 聞き取れないくらいのかすかな声だった。


 「どうしてこんなことするんですか?」


 肩を赤く染め、赤い目が非難の声を上げる。

 頬をぬらしエリーナが問い質す。


 「償い、ですよ」


 返ってきた答えは、エリーナにとって不可解なものだった。


 「償い?」


 「そうです。この世界は私を嘲り、蔑み、これでもかと言うくらい踏みにじった。私の誇りを、人生を、自分自身の手で取り戻して何が悪いと言うのですか?」


 強大なプラーナの力に圧倒されるエリーナの体が震えている。


 「復讐は個人の不可侵な権利……誰に聞いてもそう答えるでしょう。さあ、私に殺されるのです」


 ナジェージダの白く光る手がエリーナへと迫る。

 あの手に触れたらどうなるかは、目の前に横たわるオットーを見れば容易に想像がつく。

 槍を掴んだエリーナが穂先をナジェージダへと向けて、力の限り撃ち出した。

 鳥を象った穂先が螺旋を描きながらナジェージダのわずか手前でその動きを止めた。


 「え……っ!?」


 動かない、前にも行かず、引くこともできない。

 嗤う声がナジェージダの口から漏れだし、その直後にエリーナの持っていた槍の先が砕け散った。

 破片が更に細かく破砕されていき、原始にまで戻されていく。


 「あ……ああ……」


 エリーナの心の砦が崩れ去り、立ち向かう意思が打ちのめされてしまったのだ。


 「それじゃあ、死んでもらいますね――」


 と言いかけて彼女の手が止まった。

 その顔が訝しそうに虚空を向く。


 『待て――』


 あの声がナジェージダの凶行を止めたのだ。


 「待つ? 何を待つというのですか?」


 声を荒げるナジェージダは、しかしエリーナからしたら誰と話しているのだろうと言った絵面だ。


 『面白いことを今思いついたのさ』


 「面白いこと?」


 『そう。今そこに倒れているイポニアの王女と聖女の生まれ変わりをも一緒に並べて、明朝に帝都のど真ん中で処刑されると言うのはどうだ?』


 「……どういうこと?」


 ピクリと反応するナジェージダへと声が囁いた。


 『まだ皇族の生き残りはいる。夜明けとともにそいつらを処刑する姿を帝都の住民へと見せ付けたら、どうなると思う?』


 「……?」


 『皇族が皇族たり得るのは、その不可侵性だ。権威と権力が揃ってこその皇帝。だが、権威を剥ぎ取られたらどうなる? 権威無き者に、権力を与えようと人は思うか?』


 「暴動を起こさせる、と言いたいのですか?」


 『そうだ。それなら確実に頭の狂った支配者が雨後の筍のように沸いて出てくる。お前はその隙を見計らって、イポニアを復活させるのだ。いい考えだろう?』


 ナジェージダの顔が歪んだ笑みを浮かべた。

 そして、既に固まってしまい動けないでいたエリーナへと視線を向けると、悲鳴が起こった。 


 「あっ!?」


 口元を歪ませるあの笑いを浮かべながら、ナジェージダの手がエリーナの髪を掴み上げたからだ。

 何が起こるのだろう、そんな不安と恐怖に満ちた赤い目がナジェージダへと注がれた。


 「ふふ……」


 実に楽しそうに、嗜虐性に満ちた笑みを浮かべた直後、ザクッという音が鳴り響いた。

 パラパラと髪の毛が数本地面へとこぼれ、エリーナの体が崩れ地面へと倒れる。

 バッサリと切られたエリーナの髪が、ナジェージダの手元には握られていた。

 フッと息を吹きかけられた髪が複雑に編み込まれていき、それはたちまちのうちにロープの形をとっていった。

 即ち、絞首刑用のあの首吊り縄の形を。


 「これはあなたを吊るす縄……でも私は優しいですからね。あなたの祖国、ニャポニカが滅びる様を、あなたは見ないで済むように取り計らってあげますよ」


 恐怖と絶望に苛まれているエリーナを見て、ナジェージダの嗤う声だけがその場を支配していた。







 『……ろ』


 「う……」


 『……きろ』


 「うう……」


 『起きろっ! いつまで寝ているつもりだ?』


 騒ぎ立てる声が頭の中を反射するように響いた。


 「う……ボクは……?」


 『悠長に眠っていた。まあ、プラーナをほぼ使い果たしたからな。当然と言えば当然なのだが……いや、そんなことは本題ではない』


 ぼんやりする目を足元に向ければ、水晶玉が転がっている。

 見覚えのあるものだった。

 そう、ちょうど――


 『時間がない。だから手短に述べるぞ。お前といた赤い髪の子が連れ去られた』


 「赤い髪……エリーナが?」


 灰色の目が大きく開き、声を張り上げる。


 『それだけじゃない。あの弓使いと、魔法使いの生まれ変わりもだ!』


 「な――」


 頭がはっきりとしてきて、次いで周囲の荒れ果てた光景が目に飛び込んできて、幼げな顔が強張った。


 「何が起きた!?」


 自分は確か宮殿の中で、応接間だった空き部屋でリュボーフィーを治癒していて、力を使いすぎて気を失った――そこまでを思い出す。

 が、辺りは抉れたというよりは、まるで消え去ったかのように、荒涼としていた。


 「それにエリーナやリューバたちが連れ去られた?」


 誰に――心臓の鼓動が次第に大きく、強く、そしてはっきりとしていく。


 『決まっている』


 この有様を見て、こんな芸当ができる人間は限られている。

 一番考えたくはなかった可能性ではあったが、水晶から発せられ、頭に響く声がその名を告げた。


 『イルザだよ』


 「――っ!?」


 『お前が気を失っている間の出来事だった……イルザが襲撃したのさ』


 「いや、待て?」


 困惑する表情が問いかける。


 「お前の話に拠れば、あいつは世界中からの賞賛を求めているんじゃなかったのか?」


 賞賛を受けるためには、自分を評価する人間たちが必要不可欠だ。

 にも拘らず、まるで力を暴走させた狂人を思わせる振る舞いをすれば、その評価は賞賛どころか、後世まで暗黒色に描かれるだろう。


 『そうなのだが……口で語るより、そこの死体に聞いてみれば早いのではないか?』


 「死体――」


 と振り向いた先には、血や内臓を撒き散らしている、初老の男の死体が転がっていた。


 「な……っ!?」


 手をかざし、死体へと近づけていくと、死体にまだほんの少し残るプラーナを読み取って――


 「…………」


 たちまち表情が険しくなっていく。


 「イルザ――」


 『待て、落ち着け――』


 水晶が宥める。


 『イルザは明朝に三人を処刑すると言っていた。ニャポニカの権威を権威を貶めることで、被支配者たちの憎悪を煽り、混乱に陥れると』


 「よく落ち着いていられるな?」


 力が出ない、立つのもやっとという有様の幼い手足がそれでもイルザの元へと進もうとしたのを止められて、苛立つ声を上げる。


 『今のお前が行っても死体が三つから四つに増えるだけだ。そこの死体の末路を見ただろう?』


 「そうかもしれないが――」


 でも何もしないではいられなかった。


 『処刑まで時間はまだ少しある。余がお前を処刑場へと移動させてやる。だから今は体力を回復させろ』


 だが、それで納得する訳には行かなかった。


 「折角、折角ここまで来たって言うのに――」


 口を真一文字に結んで拳を握り締める様は、何とも悔しそうだ。


 『悔しがっている暇はない。そして失敗は許されない。今感情に任せてイルザの元に飛び込んでも、助けられるものも助けられなくなるだけだ。』


 水晶から語りかけられる声が告げる。


 『イルザがやろうとしていることは三人を処刑することでニャポニカの権威を貶めて、先ずは帝都の住民たちを焚きつけて暴動を煽ろうと言う魂胆だ』


 「それなら尚更――」


 『だから、あいつは直ぐには殺さない。あいつの性格は知っているはずだろう、斧の勇者よ』


 その名を呼ばれ、平静を取り戻す。


 一息ついたところで、水晶が、ドラクルの残留思念が呆れたように言った。


 『お前はバカ正直すぎる。常に直球で立ち向かい、真正面から事に当たろうとする……』


 「わ、悪いか?」


 『まあ、それがお前らしさなんだがな……が、それは元々強いやつのやり方だ』


 水晶の言葉に押し黙るアリカ。


 『今からギリギリまで休んだとしても、イルザと渡り合えるまでにはならないだろう』


 「……」


 流石に自覚這ったらしい。

 アリカの表情が曇る。


 『だから、余がお前にひとついいことを教えてやろう』


 それは秘策だった。







 薄暗い紫にも見える空、地平線の向こうに赤く眩い光が立ち昇ろうとしている。

 鳥の囀りがちらほらと聞こえ始め、昨夜の出来事などそ知らぬ様子の帝都の住民たちが、互いに半裸で体を寄せ合いながらまだ眠りについていた。


 「ねえ、おきて?」


 幼げな声に目を覚ます。


 「あ……ナージャ?」


 淡い金髪で左右色違いの瞳を見ている少女いた。

 ナジェージダを見て、問いかける。


 「私はどうなったの?」


 「おねえちゃん、しにかけてたんだよ」


 あどけない声だ。


 (そうか……私)


 命を懸けて女勇者の生まれ変わりを倒すべく、魔法を使用したために、生死をさ迷っていたのだと気づく。

 そしてどうなったのだろう、女勇者を倒せたのか?

 疑問が湧き上がっていく。

 少なくとも、世界中からの賞賛を浴びるという目的は挫いたのか――思い悩みかけたリュボーフィーに、ナジェージダの幼げな顔が近づく。

 額をくっつけて、少しばかりさびしそうな笑いを浮かべていた。


 「ねえ、ほんとうにどうしたの? きゅうにこわいかおしてどっかいっちゃったし……」


 どうやら心配をかけてしまったらしい。


 (私……)


 と、次第に意識がはっきりとしてきたリュボーフィーは、すぐに自分に起こった出来事を目の当たりにして、身を強張らせた。

 自分の首に巻かれた赤い髪でできたロープを見て。


 「え? えっ?」


 何が起きたのかが分からないリュボーフィーに混乱が襲い掛かる。


 「ねえ、ナージャ? これは一体――」


 「あれぇ、もうきづいちゃったのぉ?」


 あどけない口調。


 「これはねぇ、おねえちゃんを、それからニャポニカのえらいひとたちを、つみからじゆうにしてあげるぎしきなんだよぉ」


 「え……?」


 「パヴェシェンヌイきょうとだったなら、これのいみはわかるでしょぉ?」


 歪んだ笑いがその目に飛び込んでくる。

 笑いが止み、怒りを露にするナジェージダに、リュボーフィーは混乱に陥った。


 「ねえ、何を言っているの?」


 「まだ分からないかなぁ……」


 分かる訳がない。

 リュボーフィーにとってのナジェージダは、魔王サルターンに故郷を滅ぼされて、大切な人を奪われ、復讐を誓った少女なのだから。


 「おねえちゃん……いえ、邪竜を倒した聖女さま」


 邪竜を倒した聖女、リュボーフィーがその生まれ変わりだと知っている人物が、いるとしたら一人しかいない。


 「ナージャ?」


 でもこれが何かの間違いであることを藁をも掴む気持ちでリュボーフィーは願った。


 (夢なら覚めて!)


 「私から誇りと賞賛を奪ったくせに、それで私が折角お前を魔王に変えてあげたら、勇者の少年にあっさりとやられ……」


 ナジェージダから立ち上がるプラーナ。


 体を包む光は白い色(・・・)を帯びていた。


 「折角作った盗賊ギルドやサルターンを滅ぼして……私が得るべき賞賛を奪った罪はちょっとやそっとでは赦されない!」


 「……嘘、だよね?」


 「みんなほんとうのことだよ」


 再びあどけない表情と口調で語りかけ、


 「こんじょうはナジェージダ・ウラジーミロヴナ」


 息を吸い、吐く音が聞こえる。


 「二つ前の前世では聖女として、魔王を倒すはずだった、イルザ・V・ストローマン」


 更に目つきが鋭くなる。


 「その前の前世では、お前に邪竜ズメイ討伐の功績を、そして賞賛を奪われて、惨めな扱いを受けた、無能と呼ばれた――」


 「嘘、嘘だよ……」


 リュボーフィーの体が震えている。

 心が壊れそうな、か細い声で今にも泣き出しそうな顔で、なす術もなくまるで宙に浮いたような感覚を味わっていた。


 「そうそう――おねえちゃんがまほうつかいだったころ、わたしがなにをしていたのかしってる?」


 再びあどけない声で語り開けるナジェージダ。


 「……つまり、お前らは臆病風に吹かれたのか?」


 次いでドスの聞いた声を放つナジェージダ。

 聞き覚えのある口調。

 いや、リュボーフィーにとって、忘れようとしても忘れられない記憶が呼び覚まされる。

 魔王サルターンの軍隊に包囲されたイポニアの王都ヴォストクブルグの戦いの記憶を。

 三百人しかいない、それも負傷兵までも含めての王都で、五万もの大軍を前に、正々堂々と勝負を挑もうなどとトチ狂ったことを口にしたあの女勇者の怒声を。


 「これは人族の未来をかけた魔王との生死を賭けた一戦――お互いの力同士を正々堂々とぶつけ合い、この地へ伝説を創ろうじゃないか、そうは思わないか、みんな――!!!」


 そして白い光り。

 もう間違いない。


 (そんな、だって――)


 打ちのめされ、もうどうすることもできなくなってしまった彼女へと、ナジェージダは絶望を叩き込んでいく。


 「パーティを裏切った者へは制裁しなければならない……リーダーとしての、せめてもの責任を私は取る……魔法使いに栄誉ある死をっ!!!」


 (それじゃあ……私が、私がやったことは――)


 復讐を成し遂げたのは?

 アリカを名乗る幼女は、憎き女勇者の生まれ変わりではなかった?

 この事実に、リュボーフィーの頭は真っ白になり、全身の力が抜けていく。

 そして――紫の空を朝日が赤く染めていく。

 帝都を、ナジェージダを、そしてリュボーフィーを。


 「さあ、世界は私に微笑んだ! 処刑はたった今行われる――」


 ナジェージダが天に向かって手を伸ばし、白い光が帝都の空に輝いた。

 異常とも言うべき出来事に、帝都でかろうじて生き残っていた人々が目を覚まし、驚く視線を帝都の空へと注ぐ。

 次いで声が鳴り響く。


 『ニャポニカは天命を失った――』


 どこからともなく聞こえてくる声が、人々の頭の中へと直接語りかけていく。


 『異常ともいえる税、娯楽と化した残虐な処刑、幼い少女を毒牙にかける皇族、腐敗した国家。これらを味わって、それでなお、諸君らはニャポニカの存続を望むか?』


 街中がざわめく声であふれていく。

 だが、声は彼らに考える時間を与えない。


 『既に諸悪の根源である、皇族の二人は処刑した。これを見るのだ!』


 半壊した宮殿に残されていた梁に吊るされていたのは、エリクであり、エリーナだった。

 二人の姿を目の当たりにして、しかし街の声はまだ戸惑っている。


 『民なくして国家は存在しない! 民こそ財産であり、民草こそが最も偉いのだ! そう――諸君こそが国の主人である! 前を向け! そして圧制を自らの手で覆すのだ!』


 そして、声は宣言した。


 『今からその証拠を見せよう――ニャポニカの皇族を捕らえた。その走狗とともに! それをたった今から処刑する!』


 かろうじて残されていた宮殿の上から現れたのは、赤い髪の少女、その目は赤く、皇族の特徴を具えていた。

 首には赤い髪で結われた縄を提げている。

 その横からは、茶髪の少女と金髪の、茫然自失となった少女が連座していた。


 『さあ、これからニャポニカはなくなる! 自分の主人は自分自身なのだ!』


 扇動するかのような声が止むと同時に、屋根から体を突き飛ばされる三人の少女たちが、首を吊るされ――









 ――なかった。

 縄は途中で切られ、落下していった彼女らを、何故か唐突に姿を現した空を舞う絨毯が受け止める。

 そこに立つ人影に、ナジェージダは眉を寄せる。

 誰だ――と。

 銀色の髪、それに灰色の目、着ているものは殆ど用をなしていない、半裸に近い格好ではあったけれど。

 アリカだった。


 『今のイルザは金髪と青と赤の瞳を持っている、ナジェージダと名乗っていた。あいつから世界を守れ、斧の勇者――』


 魔王ドラクルの言葉を反芻しながら、アリカはこのイルザの生まれ変わりと対面を果たし、ドラクルへ返した自分の言葉を思い起こす。


 ――ボクは斧の勇者だった。でも今は違う――


 斧の勇者ではない。

 既にこの世にはそんな人物はいない。


 「ボクは、アリカだ」


 キッと宮殿を睨みつけて。

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