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試験の答え

「何なのよ、この試験は」


 遥香は溜息を吐く。

 先ほど終わった試験は、カオスだった。

 スマホでカンニングよし、いやしなければ答えられないとか斬新すぎて付いていけない。

 試験中に進が出て行った後、他の受験者達も続々と出て行き、試験会場は試験官を除いて無人になってしまうなど、他の試験ではあり得ないだろう。

 遥香自身も場に流されて図書館に行ってしまった。

 そして蔵書を手に取り、少なくとも解けるところは解いて試験時間ギリギリまで粘り、先ほど提出して試験を終えた。


「……早く帰って寝よう」


 良かったのか悪かったのか、手応えの無い苛立ちを早く消したかった。

 自分の寮に向かって歩き始めた時、隣室の進が話しかけて来た。


「やあ、試験はどうだった?」


 答えたくは無かったが、目的地は自室の扉前まで同じ。その間無言でいるのも気まずいので遥香は気分転換も兼ねて答え始めた。


「へんなやり方で戸惑ったけど、何とか。共通は問題無く出来たと思うけど、選択問題は解けるところを解いただけよ」


 とりあえず自分の分かりやすい問題を選び図書館に入って蔵書の中から関係しそうな本を見つけ出して解答用紙に書くいた。

 ただそれが正しい答えかどうか遥香には分からなかった。


「共通問題はどう答えたの?」


「え? 普通に答えたわよ。問一は七羽から一羽を引いて六羽でしょう」


「いや、零羽だよ」


「……はあ? なんで?」


 引き算すら出来ないのかと驚き言葉を喪い、遥香は進の方を見るが、進は真面目に答えた。


「いや、当たろうが当たるまいが銃声を聞いた鴨は驚いて逃げるよ。銃声を聞いても逃げない鴨なんてどんな訓練を受けているんだよ」


 進の言葉を聞いて再び遥香は衝撃で声を喪う。

 言われてみればだが、確かにそんなことはない。


「……じゃあ、問二はどう答えたの?」


「平均歩行速度四キロとして八時間くらい、六キロならば六時間、自動車が使えるなら平均三〇キロとして一時間。途中に障害があった場合、永遠にたどり着けないと書いたよ」


「条件分けをしたの」


「計算よりどのように考えるか、問題が起きたときどんな発想をするか見るための試験だったんだろうね」


「でも計算がおかしくない? 時速六キロで歩けるなら五時間で到着出来るでしょう」


「一時間に五分は休憩し、三時間に三十分は休憩しないと歩き続けるなんて無理だよ。途中でバテたり、疲れで道を間違えたりする。適度に休養を入れないと危険だ。その休憩に必要な時間を含めて書いた。勿論、そのことも回答に書いたよ」


「問三は?」


「△と○は同じ場合もあると答えたよ」


「なんで?」


「円錐の側面と底面はそれぞれ△と○だから。同じ物体でも別々の視点で見ればそれぞれ違うように見えるよ。三次元の物を二次元で見ている可能性もあったからね」


「……問四は?」


 自分と全く違う回答、それでいて一定の説得力を持った回答に遥香は驚きを隠せない。恐る恐る次の問題を尋ねた。


「こんな風に答えたよ」


 そういって進は、解答用紙のコピーを差し出した。


「殆どイラストじゃないの。と言うよりこの書き込み何」


 書き込まれた内容に遥香は驚いた。市場から八百屋が商品を購入し客に売るという主旨の文章を遥香は書いていた。だが進はそれをイラストで関係図を書いた上に衛生指導を行う保健所、営業認可を行う役所、税務関係の税務署、果てはネットショップまで書いてあった。


「税金も衛生も営業に関わるだろう。ネットショップもお客さんを奪い合う商売上のライバルだ。こうした事は文章にすると複雑になって纏まらないからイラストにして明快にした方が良い」


「でも答えを書いていないでしょう」


「いや、描いたよ」


「問題文には<書け>とあったでしょう」


「いや<カケ>だ。<文章を書いて>も良いし<絵を描いて>も良いという事だよ」


 再び衝撃を受けて絶句する遥香に進は更に問いかける。 


「選択問題は聞きに行かなかったの?」


「え?」


「だから問題の作成者に聞きに行かなかったの?」


「どういう意味?」


「問題の作成者に聞きに行って答えを聞かなかったの?」


「出題者に聞きに行くの」


「そういうことだよ」


「試験の意味が無いじゃない」


「足切りとして考えるならそうだね。けど、学園の選抜試験は足切りじゃなくて適正判断なんだ」


「どういう事?」


「この学園は絶対防衛線を越えたところ、グレーゾーンにある。外からの情報で学園の中を各コースの様子を知ることなど不可能だ。入ってみて思ったのと違ったら大変だ」

 実感のこもった声で進は言い切る。入った寮が売春宿も同然だったなどここに来て初めて知っただけに説得力があった。


「だから選抜試験の名を借りて各コースを見学させるのが目的だ。選択問題はその切っ掛けだ」


「何で知っているの?」


「フライトプラン作成の件で尋ねに行ったときに教えて貰ったんだよ。見所があるし、コースに是非来て欲しいとお墨付きを貰ったついでに。だから合格だ。試験の意味についても教えてくれたし、フライトプランも一緒に考えて提出させて貰った」


「じゃあなに、試験は全て出来レースだったの」


「少なくとも現場に足を運ぶかどうかで本気度を測っていたんだろう。学園としても後でコースの振り替えをやるより手間が省ける」


「出題者がワザと漏らして受験生を引き入れたら大変でしょう」


「出題者は合格者を引き取る責任があるからね。無能が入ってくると自分が仕事をするときに足手まといを背負うことになる。だから合格者は慎重に選んでいるよ」


「そんな。じゃあ試験なんて意味が無いでしょう」


「逆に聞くけど君の言う試験に何の意味があるんだい?」


「え?」


「君が言う試験は小中高大学の受験だろう。精々知識を問うだけで足切りする、いや受験させる事だけが目的だろう。受験料が手に入るからね。そして学校環境を悪化させないお利口な生徒だけを入れれば良い。そのためには十分な価値が入試にはあるね。だが、ここは学園だ。異世界からのモンスターがやって来る無法地帯。学校という御伽の国の夢想事は通用しない場所だ。高校受験の範囲の中から適当に問題を出して地頭の良い生徒だけを選り好み、入学後に自校の雰囲気に染め上げる。そんな事をこの学園は求めていない。少なくともこの学園は自ら動かない人間に用はないよ」


 進はひと息吐いてから言った。


「君は合格すると思っていたけど、勘違いだったようだ」


 進の予言は当たり、遥香は不合格だった。

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