撃退
「初弾命中」
自分の放った榴弾が命中したのを確認して進は細く笑った。
M16に再びM203を装備して放ったもので、キメラの気を引くのが目的だった。
最悪、足下に落ちてもこちらに気を向けてくれれば良かったのだが、命中したお陰でヘイトが向けられている。
「おっとやばい」
キメラが火炎を放とうとする行動を見て、進は大急ぎで建物の影に隠れる。
爆発音をバックサウンドに、隠して置いたバイクのエンジンを始動させる。
そこら辺に置いてあったバイクだが乗り捨てたバンから外したバッテリーを使いジャンピングさせ再使用出来るように仕上げた。
「さあ、付いてこい!」
スロットルを全開にして前輪を上げて発進すると同時に背後からキメラが現れ再び火炎を放ってくる。
「おっと」
直ぐさま進はハンドルを切って路地の中に入り躱す。
自分を傷つけた獲物――進が逃げるのを見てキメラは怒り執拗に追いかける。
「結構早いな」
思った以上に俊敏なキメラに進は驚いた。予め道路の状況を確認して路上に落ちる障害物、コンクリートや電柱、車の残骸を認識していなければ接触して転倒していただろう。
「やばい、そろそろ追いつかれるか」
だが、巨体ながらもキメラは動きが早かった。しかも巨体のため多少の障害物は乗り越えられるため、バイクよりも機動力があり徐々に距離が詰められていく。
カーブの旋回で何とか追いつかれずに済んでいるが障害物の多い直線道路ではキメラが有利だった。
「不味い」
進は必死になってバイクを操り、目的の地点へ向かう。
迫るキメラに焦り、無我夢中でハンドルを操りバイクを走らせる。
その間にもキメラは徐々に進との間を詰めて食いつこうとした。
その時、一発の弾丸がキメラの頭部を捉えた。美咲が狙撃した一発の銃弾が当たったのだ。
致命傷では無かったが突然の攻撃にキメラは歩みを止めて周囲を警戒する。
そこへ日女香のグレネードが放たれる。
再びの攻撃にキメラは一歩、下がりグレネードを避けた。
しかしそれは姫理香によって誘導されたことだ。
「今よ! やって!」
姫理香が無線でソフィーに連絡を入れるとキメラの足下、道路の下から光が溢れてキメラを覆った。
地下鉄の駅でソフィーの作った魔方陣が発動し、地面を超えてキメラを攻撃した。
ギッシャアアアアアアッッッ
威力抜群の魔法攻撃の前にキメラの魔法障壁もなすすべなく貫通されキメラは絶命した。
光が収まった後には、巨大な穴だけが残り、キメラは消滅した。
「や、やったの」
ソフィーの警護をしていた遥香が尋ねた。
「やったぜ!」
進が無線を通じて大声で叫ぶ。直ぐさまスピンターンで反転しキメラを消滅させた場所の前へ行く。
ソフィーが魔術を発動させた場所は地下の駅構内へ続く大穴が空いていた。
「凄まじい威力だな」
「普通なら発動までに時間が掛かるが予め魔方陣を書き、準備出来たから良かった。魔物でも魔方陣を警戒し近寄らない」
駅構内で隠れて待機していたソフィーが遥香と一緒に上がってきて合流した。
淡々と語るソフィーだが、安堵の感情が滲み出ている。それだけキメラが恐ろしい魔物である事を彼女が知っているからだ。
『さて、上手く行ったわね。無線で救援を呼びましょうか。ヘリがやって来てくれる位は期待できるでしょう』
狙撃ポイントで観測手をしていた姫理香がそういって無線機のチャンネルを切り替えようとした。
『逃げてください!』
ボタンを押すより一瞬先に狙撃ポイントにいた美咲の悲鳴がスピーカーから流れた。先ほど倒したばかりのキメラが口を挙げて進達を攻撃しようとしていた。
「掴まれ!」
進が叫ぶとソフィーは進の身体にしがみついた。フルスロットルでバイクを走らせつつ何が起きたか分からず立ち尽くす遥香の身体を掴むと進はバイクで逃走。
一瞬後に彼らがいた場所は業火によって焼き尽くされた。
仕留め損なったキメラはなおも追いかけてきたが、美咲の狙撃によって気を逸らされ、進達を見失うと周囲に数発の火炎を撒き散らした。
「何なのよ。どうして倒したはずのキメラがあそこに居たの」
進達は逃げ延びた後、姫理香達と前進キャンプの跡地で合流した。
だが、遥香はまだショックで情緒不安定だった。
「恐らく、別個体。二体居たんだろう。バディを組んでいたのかも」
単純な計算だったし、あり得ることだった。
進達が二人一組で交互に見張りと休息を行うようにキメラ達も、二体で交代交代に見張りをしていたのだろうと進は考えた。
「まさか」
「まあ推測だけど、ありえなくはない。だが重要なのは俺たちが相手をしなきゃならない相手がもう一体増えたことだ」
進の言葉に五人の間に重い沈黙が走った。
「とりあえず、何か使えそうな物が無いか探そう」
襲撃された前進キャンプは魔物によって荒らされていて略奪も行われていた。
しかし、八島や日本にとって重要な橋頭堡であり来たるべき反攻作戦の拠点となるため、おびただしい量の物資が置かれていた。
その中にいくらかはまともに使える物があるだろうと期待を持って進達は中を漁った。
「やれやれ食い散らかしやがって」
床構わず物を捨てたり、壊したりしている。
「おや?」
緩やかな傾斜が付いた四メートルほどの堤の向こう側の建物が荒らされずに残っているのが見えた。
「運が良さそうだな」
頑丈な扉に南京錠が掛けられておりゴブリンでは破壊できず残したのだろう。進はチェーンカッターを見つけ出してくると南京錠を切断して開く。
「普通なら電子ロックとかなんだろうが物不足で警備がおざなりだな」
部屋の中に入ると予想通り、弾薬が大量に保管されていた。
万が一失火で爆発した時に備えて周囲への被害が最小限で収まるように土壁で囲われている。
ゴブリンが襲撃しなかったのもわざわざ土壁に囲まれた建物の中に入ろうとは思わないからだろう。
進は他のメンバーを呼び集めた。
「みんなパーティーグッズが手に入った。プラスチック爆薬が数キロに雷管多数何とかなりそうだ」
「その程度の爆薬でどうにかなるの?」
小銃の弾薬は豊富にあるが思ったよりも爆薬は少なかった。現状は偵察のみで建物を破壊するような作戦は想定して居らず配備していなかったのかもしれない。
だが進にとっては些細なことだ
「なに、その辺のありきたりの品で爆薬は作れる」
「出来るの?」
「ああ、ちょいとあの学園に戻ろう。一つ作戦があるんだ」




