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消火ポンプ

 町中で見つけた進は近くの防災倉庫からD級消火ポンプを持ってくると載せられていたホースを掴み取り金具を上にして地面に置く。左手で立てつつ右手でメス金具を斜め上に引っ張り上げると、ゴムバンドが取れる。

 メス金具を地面に置き、下から出てきたオス金具を手に取ると地面に置かれたメス金具を右足で踏む。固定したらオス金具を指で摘まみホースを持ちボーリングのように転がす。

 ホースの束は真っ直ぐ転がり一直線の白線を地面に刻んだ。


「上手いですね」


 進の流れるような動作を見て美咲は感嘆の声を上げた。


「本職の消防官より上手い自信がある」


「マジですか?」


「本職だと捲いたホースはもう使っていないらしい。全部折りたたみ式でホースを引っ張るだけで出てくるタイプだそうだ。だから、本職でもこれをやらせたら下手かもしれない」


「それが出来るんですか」


「コツを掴めば簡単だよ。一寸やってみて」


「え、良いんですか?」


「何本も延長するから平気だよ。やってみて」


「は、はい」


 何本ものホースを一人で延長するのは骨が折れる。だから一人でも手伝える人間が欲しくて進は美咲にやり方を教えた。

 進が見せたやり方を真似して美咲は捲かれたホースを投げる。


「はっ」


 美咲によって飛び出ていったホースの束は、途中で傾き、右に逸れて渦巻きを描くようにして倒れてしまった。


「うわーん、やっぱり下手です」


「いや、しょうがないよ。コツがあるんだ。ホースを掴むとき下から添えるように持って前にホースを転がすのではなく持っているホースを上に引っ張り上げる感じでやってみて」


「は、はい」


 進に言われたとおりに美咲がやってみると、今度は傾くことなく、ホースは一直線に展開された。


「本当だ。これだけ真っ直ぐに伸びるなんて」


「ほら、簡単だろう。まあ、本職もコツを知れば直ぐに出来てしまうんだろうが」


 そう言ってもう一本のホースを階段下に放り投げ水面近くに展開させる。


「ここから水を引き上げるんですか?」


「いや、吸管が長くないからポンプを水面近くに持っていく」


「でもこの台車、重くありませんか。大きいですし」


「いやポンプだけ簡単に外せるよ」


 進はネジを緩めて金具を外し、台車とポンプを分離させた。


「一寸重いから手伝って」


「は、はい」


 二人はポンプを持って水面近くまで下ろす。ホースの金具をポンプに接続すると一度上がって吸管を持ってくる。


「ここは棒で纏めているのか。楽で良いな」


 吸管の先端に付いたロープで巻かれていた棒を取り外すと一瞬でロープがばらけて地面に落ちた。進は吸管を水面に投入し、先端のロープを階段の手すりに縛り付けると吸管の反対側をポンプに取り付ける。燃料コックを開いて後方を確認した後、リコイルスターターを引っ張ってエンジンを始動させる。レバー操作で給水しポンプの中を水で満たすと、バルブを回して水を汲み上げ始めた。


「流れている?」


「ええ、大丈夫です」


 放水の状況を確認しに階段を上がっていった美咲が大声で報告する。


「とりあえず大丈夫か」


 安堵した進はポンプを置いて階段を駆け上がる。


「よし、他にも防災倉庫があるからそこから見つけて同じように設置しよう」


「はい。でもよく知っていましたね」


「防災訓練で指導されたんだよ」


「防災意識が高かったんですね」


「いや、そうでもないよ」


 前世では家に籠もっていないで何か役に立つことをしろと言われて参加したのが町会の防災訓練だった。受けたときは実際の火事や大災害で役に立つとは思えなかった。だが、死んだ後こうして役に立つのだから何が幸いするか分からない。


「そういうボランティアをして何か良い事ありますか?」


「そうだな」


 進は少し考えてから答えた。


「運が良ければ国会議員と知り合いになれる」


「ご冗談を」


 真面目な顔して答えた進に美咲が笑った。進は何かを言おうとしたが、止めた。


「真面目にやりなさい」


 二人が話しているところを見た遥香が止めた。


「一寸した世間話だよ。こういうときは何か話していた方が気が紛れる。それにポンプで汲み出すには、周りから何台もポンプを持ってくる必要がある。操作する人間は多い方が良いよ」


 広大な用賀駅の地下空間に溜まった水を汲み出して、そこに罠を仕掛ける。消火ポンプの排水力は一寸したものだが小型なので時間が掛かる。

 だが複数の消火ポンプで排水すれば、時間は大幅に短縮できる。


「少しでもやり方を覚えて欲しいからね。色々話なら覚えさせている」


 同時に自分の仕事も軽減できると進は皮算用を弾いた。


「面倒ね」


「教育なんてそんな物だよ。だが叱りながらやるよりずっとマシだ。さて、それじゃあ、君もやって貰おうか。なにこの周辺の町会の防災倉庫からポンプを引きずり出して据え付けて稼働させるだけの簡単な仕事だ」




 キメラは退屈していた。

 先日は襲撃して大量の餌を食べることが出来、満腹となった。

 火炎の燃料も十分にあり盛大に対岸からやって来る小人とを焼き尽くした。

 時折鉄のすばしっこい箱も出てくるが、炎で妬いてしまえば問題無かった。

 だが、対岸にいるため食べることが出来ない。

 盛大に炎を放ったため腹が減っていた。

 しかし、ここから離れず小人に川を渡らせるなとマスターに言われては仕方が無い。それが余計にキメラを苛立たせた。

 ゴブリンやコボルトが小人が渡ろうとしている場所を教えてくれるので見落としは無いがひっきりなしに呼ばれるのに苛立ち、つい食べてしまう程に。

 何か退屈凌ぎは無いかと考えながら未知を歩いていると突然、轟音が鳴り響き顔の横で何かが炸裂した。

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