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キメラ

 幸い夜の間、進達はモンスター達の襲撃を受けることは無く、交代で睡眠を取ることが出来た。

 仮眠できるか徹夜かで翌日の体調が全く違う事を考えると素晴らしいプレゼントだ。

 お陰でスッキリとした頭で翌朝の状況分析を行う事が出来る。


「さあ、私たちはどうするべきか。夜中に入ってきた情報を纏めましょう」


 夜明けと共に用意された朝食を摂りつつ姫理香は言う。

 夜の間も遠くから戦闘騒音が聞こえてきたしスマホの電波も時折入っていたが、戦局は学園側劣勢のようだ。

 前進キャンプが陥落し、増援は間に合わず多摩川を挟んで交戦中。都内にいるのは自分たちだけのようだ。


「生き残った人員は西に向かってちりぢりになっている。横田の米軍基地跡には自衛隊の前進基地があるけどそこまでたどり着けそうにないわね」


 残存部隊を追いかけてモンスター達は西に向かっている。遭遇は即戦闘を意味するから避けたい。


「この少人数では下手に動いても何も出来ない。好機が訪れるまで情報収集と体力温存を優先する。出来れば多摩川を渡河して一直線に帰りたいわね。多摩川沿いを偵察するわよ」


 姫理香の方針に従って朝食後、進達は多摩川沿いの偵察に入った。

 後退する味方を負って西に向かっているのかモンスターに出会うことは無かった。


「地下鉄は完全に水没か」


 途中地下鉄の駅があり、地下鉄のトンネルを伝って逃げられないか考えたが無理だった。


「直ぐに多摩川があるからどっちみち行けないな」


 進達は地下鉄の駅を離れて多摩川に向かう。

 仲間になったソフィーを真ん中にしてツーマンセルで交互に躍進し互いを支援しながら前進する。


「待って」


 だが大通りに近づいた時、角笛のような音が響き渡る。全員が警戒していると何かが接近してくる音が響いてきた。


「隠れて」


 五人はそれぞれ物陰に隠れて大通りを伺う。

 やがて地響きを立てながら巨大なモンスターが通り過ぎていく。

 恐怖で五人は身を見開くが、息を潜め気付かれないようにひたすら留まる。

 モンスターは進達に気が付くことなく、通り過ぎていった。


「何なのよあれ山羊の頭をした化物なんて」


 遥香が言うと美咲が反論した。


「え、あれはライオンの頭を持った奴だのでは」


「どういうこと」


 食い違う意見を聞いて進は言う。


「この前の試験の問題に○と△は同じかどうかって問題あったよな。それと同じだ。見る方向が違うと別の形に見える」


「どういう事?」


「山羊の頭とライオンの頭を持っている。俺たちがキメラ呼んでいる化物だ」


「厄介なの?」


「それはソフィーが知っている」


 話を振られたソフィーが答えた。


「私たちがキマエラと呼んでいる魔物。魔物の中でも最強レベルの存在。自ら魔力を操り障壁を展開して防護することが出来る。知能も高く、厄介な相手だ」


「前の報告書でもそう書いてあったな。あのデカさと怪力だ。多分、大通りを掃除したのもこいつだな。この大通り、多摩川に沿って走っている。川を渡ってくる味方あるいは俺たちのように渡って逃げようとする連中を攻撃するんだと思う。大通りは高台の上にあるし」


 進の言った意味に気が付いた四人は黙り込んだ。


「さて、問題の続きだ。乗り越えられない障害が目の前に出てきて俺たちは川を渡れない。学園まで帰還不能だ。これの状況をどう乗り越えるか考えないとな」




「さて、分かったことを話し合おう」


 大通りから少し離れた建物に入った進達は作戦会議を始めた。


「あのキメラは周りに居るゴブリンやオークの指示に従って移動して攻撃を行っているようだ」


 戦況が不利なとき角笛で支援が必要な場所にキメラを誘導して攻撃させている。


「キメラは複数の頭と目を持っているため視野が広く、ミサイルや航空攻撃を簡単に回避できる。通常は大通り沿いに展開して、学園からの逆撃部隊を撃破してる」


 前進キャンプが陥落してから奪回のための部隊を送り出してきているようだが、多摩川を梳かしようとするとキメラの魔法攻撃による火炎攻撃を受けるため、前進できずにいる。


「航空攻撃で撃破しようにも通り沿いの建物に阻まれて有効な打撃を与えられない。砲撃も同じ」


 キメラは渡河してきた部隊へ迅速に近付き、攻撃。反撃される前に撤収する。

 戦術の教科書に載せたいようなヒットエンドランだ。


「前進キャンプを設置したときはどうやって渡河できたんですか?」


「確か厚木の学園までモンスター達を引きつけておいて東名を一気に駆け抜けて橋頭堡を作ったのよ。丁度、モンスター達の動きが鈍っていた時だったし。東京からの増援を絶って厚木周辺で各個撃破していったわ」


 当時の作戦に参加していた姫理香が答えた。


「そのまま東京へ突入しなかったんですか?」


「私たちも未知の疫病騒ぎで多数の傷病者を抱えていたから、前進キャンプを維持するのだってかなり無理をしていたわ」


 幸い、早期にワクチンが完成したが混乱は収まらず冬に突入し反撃の機会を失った。

 そのため現状では前進キャンプの維持と調査情報収集が主な活動となっていた。


「そもそも奪回するかどうか微妙な状況ね」


「そうなんですか?」


「ええ、モンスターの攻撃に晒されていて維持に膨大な力を掛けていたわ。こちら側へ来られたのも幸運に近いし来春の大反攻ならともかく今の学園に前進キャンプを奪回して維持する能力も意志もないわ」


 敵中にある味方の拠点は反撃の拠点となるが、同時に敵の猛攻撃を受ける。

 前進キャンプも度々攻撃を受けておりその損害は馬鹿にならなかった。

 だが、多摩川を防衛線に刷る事でその負担は幾らか軽くなる。


「立川や横田があるのだからそこを反攻拠点にするはず。前進基地は精々、学園が政府に補助金を振り込ませるための広告塔よ。反攻作戦が決まって援助が送られてきている今はあえて奪回どころか維持する必要も無い。情報収集に支障を来すけど、今まででも十分な情報は手に入れていた」


「つまり」


「学園が川を越えてやってくる事はない。自力でどうにする必要がある。あのキメラを黙らせてね」


 姫理香の言葉に全員が沈黙した。


「ソフィー。あのキメラをどうやって君たちは仕留めているんだ」


 建設的な議論をしようと進が尋ねた。


「大規模攻撃魔法を使う。ただ魔力障壁を打ち破る必要があるため、詠唱に時間が掛かる。予め魔方陣を構築しておけば瞬時に発動できる。普通は魔方陣を構築しておいてそこへ追い込む」


「餌か何かで釣るのか」


「いや、キメラは魔方陣を警戒している。攻撃で追い込む必要がある」


「魔方陣を隠すとかは出来る?」


「いや、障害物があると魔方陣は作動しない。魔方陣のみを描ける平面が必要。多少の凹凸ならともかく岩などで隠せば魔方陣は作動しない」


「……有効射程は? 例えば天井を打ち破って魔物を攻撃するとか出来るか?」


「威力を増せば可能だ。だが魔方陣の構築を大規模に行う必要がある。それだけの広大な空間があるかどうか」


「どれくらい?」


「昨夜我々が泊まった部屋ぐらいの広さが欲しい」


 進はニヤリと笑った


「何か考えがあるの」


「ああ、こんなのどうかな」

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