反省会
『演習終了』
格納庫を改造した屋内演習場にアナウンスが流れた。
紅く染まり床に倒れた遥香がすすり泣いている。
「お疲れ様、貴方の事はよく分かったわ」
バディを組んでいた姫理香が遥香に言う。
演習場で一通りの基本行動、銃剣術、格闘術、射撃の技術を一人一人見る。互いの力量を把握しなければ即戦死だ。
特に連携は徹底的に行われ、互いの呼吸を確認した。
二時間にもわたり四人の連携を確認した後、第三班は二チームに分かれて姫理香と遥香は進と美咲のバディと模擬戦を行う事になった。
それぞれ演習場の端から入り、相手を探しに行った。
模擬戦開始後は最初は進が単独で突出しているのを見つけた遥香が姫理香と連携して仕留めようとした。
だが、これは罠だった。
見通しの良い場所に引き出された遥香は物陰に隠れていた美咲に狙撃され、一発で仕留められてしまった。
遥香が戦死したのを確認した姫理香は即座にその場を離脱して退避ししギブアップ。勝負は進と美咲の勝利となった。
「済みません」
「前に出過ぎね。向上心があるのは良いのだけれど、空回りしていて危険ね。下手をすれば、死ぬわよ」
遥香を置いて離脱した姫理香だが、戦死を確認し、一対二となった状況を考えればやむを得ない。寧ろ最善の判断だ。
進の姿を見て突出して、殺されたこともあり、遥香は文句も言えなかった。
「冷静で居られませんでした」
「まあ、初めての時は舞い上がるものだから。それに演習は失敗して経験を増やすことに意義があるから、本番でミスをしないように。二度目は無いと思って」
「……はい」
ようやく衝撃が収まった遥香は立ち上がりペイントの付いてベトベトになった頭髪を摘まむ。
「直ぐにシャワーを浴びた方が良いわね。演習場にはシャワーがあるからそれを使いなさい」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、俺は隊のシャワー室を使うよ」
「あ、そこは私たちが使うわ」
「……なに?」
「ここのシャワー室はシャワーが一つしか無いの。隊の方は私たちが使うわ」
「俺は何処でシャワーを浴びれば良いんだ」
「自室のを使えば良いでしょう」
「遥香と共用で遥香側からロックされていて使えない」
「じゃあ共同浴場を使えば」
「ノンビリ出来ない」
「別に良いでしょう。シャワーに入っても汗を流すだけなんだから。広い風呂の方が好きでしょう」
「まあ、そうだけど」
姫理香の指摘に進は渋々認めて大浴場に向かった。
「さて反省会を始めましょうか」
それぞれが身を綺麗にしてから第三班の待機室に集まり演習の内容を確認し始めた。
「では、負けた方の私たちから、遥香。あなた最初から前に出すぎ。結果突出して撃たれて死んだわ」
「済みません」
「バディは必要以上に離れてはダメ。互いに援護できないと真っ先に死ぬわ」
「身にしみて理解できました」
「ええ、弾の衝撃とペイントの不快感を覚えていれば本番で死ぬことは無いでしょう。あなた結構動きが良いから。思い切りも良い。博打を打つ場所を間違えなければ十分に使えるわ。でもそれは進達も同じよ」
「まあ、酷いかな」
他人事のように進が答えると姫理香は予想していたかのように淡々と話し始めた。
「ええ、酷いわね。貴方たちも。一人を囮にしてもう一人が狙撃なんて危険すぎる」
「あの状況では最善だったよ」
「その通り。私たちから見て左側から現れて右側に逃げていったのも見事ね。でも本番では違う。もし、突出している最中に美咲が襲撃されたらどうなっていた?」
姫理香に指摘されて美咲は身体を強ばらせた。
「進は美咲の狙撃の援護があったけど、美咲の援護は何も無かった」
「あの、私、隠匿には自信が」
「確かに、狙撃と隠れることに関して美咲が優れているのは知っているわ。けど、進には狙撃中の美咲の護衛も任務の内に入るのよ。狙撃に入ると周囲への警戒が疎かになるでしょう」
「勿論、注意しています」
「周囲に注意を配れば、狙撃へ集中が出来ないでしょう。集中できるよう周囲警戒を行うのも護衛の仕事よ。それを忘れた進の責任」
「でも」
「ダメよ。事実なんだから」
尚も進を庇おうとする美咲に姫理香は言い含ませた。
美咲の才能、狙撃の腕を買われて今回の作戦を提案し実行してくれた進に報いるために、執拗に弁護している。
「美咲ありがとう。大丈夫だよ」
尚も弁護しようとする美咲を進が止めた。
「でも、先輩」
「いいんだ。勝つためとは言え、演習の状況を見て本番、現実を無視した作戦を立てた僕が悪い。そこは指摘され、注意されても仕方ない」
「でも」
「結果的に勝てた。でも、その中に本番での失敗に繋がるミスがあったのなら見つけ出して直さないといけないよ」
「……はい」
「よし。でも、ありがとう。弁護してくれて」
進の言葉にようやく美咲は笑った。
「まあ、こんな所かしら。それぞれ欠点はあるけどとりあえず合格ね。本番でもこのバディで望みましょう。では反省会は以上。明日は完全休暇を渡すから十分に休んで疲れを残さないように。では解散。あ、進だけは残って一寸打ち合わせがあるから」
遥香と美咲が出て行った後、二人きりになったあと姫理香は流し目で進を見てきた。
「ねえ」
「ああ」
進はその意味を理解してポケットにあったタバコを取り出した。
姫理香は無言のまま差し出されたタバコを手に取り咥えるとライターで火を付けた。
火の付いたタバコを姫理香は吸い、肺で十分に堪能して煙を吐き出す。
その様子を納得した表情で進は見ていた。
姫理香も進の表情を見て確信し尋ねた。
「進。あなた転生者ね」




