白いノースリーブワンピース
やぁ、と、変わらない笑顔で挨拶をするものだから。
ずっと聞きたかった事なんて吹っ飛んでしまったんだ。
※ ※ ※
暑い。
アスファルトの熱がじわじわと体内に入ってくる。じっとりとした汗がシャツと肌に張り付いて気持ち悪い。
雲ひとつない空からはとめどなく太陽が降り注ぎ、それを遮る建物もないため、涼むことができない。
そういえば小学校にはエアコンなんて無かったのに、どうやって過ごしていたんだろう。
くらくらする頭をどうにか働かせても、思い出せるのは微かな夏の記憶くらいだった。
「アイス食べようよ」
ふいに前から声が聞こえ意識を目の前に移すと、彼女が振り返って僕を呼んでいる事に気がついた。
振り返りながらニッコリと微笑む顔に、暑さを苦しんでる様子が全くない。まっすぐな黒髪が肩より少し長く、さらさらと風になびいて涼しげだ。
「ね、早くいこう」
再度前を向いて歩き出した彼女に小走りで向かい、無言で横に並ぶ。昔は自分よりも僅かに大きかった記憶があるのだが、今は横に並ぶと麦わら帽子で表情が見えないくらいの身長差になっていた。
彼女が小学校に入学する時から行動を共にし走り回っていたのは、もう何年前になるのか。
地元の大学に通うと聞いていたのに突然東京に行くと言い出し、あっという間に居なくなってしまった。
2人の時間はあっさり消えた。
いつも自分勝手な人だとは思っていたが、これほど酷い事をする人だと思ったのは初めての事であり、酷い喪失感で食欲がなくなったのを覚えている。
東京のどこの大学で、どこに住んでいて、何を学んでいるか。聞いたのはすべて彼女の両親からで、都会に出た彼女からは電話も、手紙すらも一回も届かず、終いに卒業するまでに帰ってくる事はなかった。
気がつくと自分も有名な東京の大学を目指していた。
久々に彼女に会った時に見返してやろうと思ったのだ、驚く彼女の顔を見てやるんだと意気込み、それだけを勉強の活力にしていた。
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「うーーん。あんまり種類ないなぁ」
いつのまにか着いていた酒屋でお目当てのアイスを探す彼女は、夏に良く似合う真っ白なノースリーブのワンピースを着ている。
スカートは細いふくらはぎを僅かに見せる位の長さで揺れており、白いほっそりとした脚がのぞいていた。
「ねぇ、どれにするか決めた?」
「僕はなっちゃんと同じのでいいよ」
「えー、君はいつもそう言うんだから」
「いつもって、いつの話しだよ」
むーっとした顔を僕に向け、再びショーケースに顔を戻した彼女は僕の質問には答えず、数少ないアイスをこれでもないあれでもないと文句を言っている。
確かに昔はいつも彼女と同じものを選んでいた。
食べ物も、遊ぶ場所も、服の着方も、靴の種類も。
分かったのは彼女と離れてからで、その時には気持ち悪がられていたのかと少し落ち込んだものだ。
「これにしよう」
でも、彼女が選ぶ物はいつだって輝いていて、それが一番良いものだと思ってしまうのだから。
「僕もそれで」
もう僕は、どうしようもないのだ。
どう頑張って他の事を考えても、脳がそういう設定になってしまっている。
これはきっと自分で動かせない。頭に刺さり込んで固まってしまった。
そうそれは、きっと、夏の暑さで溶けたネジのように。歪んで深く沈んでいく。
前を見ると何も知らないかのような彼女の姿。
聞きたかった事など、たくさんある。
でも、きっとそんな事全てどうでもいい。
_______好きだよ。
貴方しか選べない。
それはきっと、揺らぐことなく。
お読みいただきありがとうございます。
この2人のお話は、中学生の時から頭にストーリーとして入っております。その一部を書かせて頂きました。
長編は、もう少し文章がうまく書けるようになってから書いてあげたいなと思っております。