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第4話 宿の中で

戦略


「今日は快勝でしたね~」

 宿屋の部屋に案内されるや否や、コーディリアが話しかけてきた。

「さぁ、どうして勝てたかじっくり聞こうではありませんか」

 コーディリアは自分の戦略に興味津々なようだ。

「ではまず相手の戦略から解説しようか。」

挿絵(By みてみん)

 僕は机に羊皮紙を広げた。

「相手の戦略は、『直前の相手の手に負ける手を出す』というものだ。」

「あぁ、じゃんけんの勝率が上がるって有名な戦略ですね。」

「そう。だが相手の狙いはそこじゃあない」

「どういうことですか?」

 コーディリアが訝しむ。

「これは『直前の相手の手に勝つ手を出す』という戦略に勝つための戦略だ。そして、『直前の相手に勝つ手を出す』という戦略は、『ずっとグーを出し続ける』とか、『ずっとチョキを出し続ける』というような、出す手が連続する戦略に勝つための戦略だ。」

「ええとつまり、『あの荒くれものが同じ手を連続して出す可能性が高いだろう』とカクさんが考えると思って、あの荒くれものはさらにその裏をかくような戦略を取った、ってことですね?」

「そう。つまり裏の裏をかいた戦略、ってわけだ。」

「じゃぁ、カクさんの『あらゆるものの裏をかく戦略』というのはどんなものなんですか?」

「相手の1つ前の手と2つ前の手の内、負ける方の手を出す、という戦略だ。ただし例外が2つあって、相手の1つ前から3つ前までがすべて同じ手なら、それに勝つ手を出す。2つ前と1つ前だけが同じならそれに負ける手を出す。」

「ややこしいです…」

「実際に試してみるとわかるよ。まずは相手がずっと同じ手の場合を考えてみて。」

「ええと、相手の1つ前から3つ前までがすべて同じ手なので、4回目以降はずっと勝ち続けます。」

「じゃあ次は、グー、チョキ、パーの順で出す相手を考えてみて。」

「3回目以降ずっと勝ち続けます。」

「じゃあその逆順、つまりパー、チョキ、グーの順で出す相手を。」

「これも3回目以降勝ち続けます。」

「今度は適当な2つの手を交互に出してみて。」

「あらら、これは負け続けちゃいますね。」

「『直前の相手に勝つ手を出す』という戦略をとる相手の場合は?」

「これもぎりぎりで負けちゃいますね。…これ、本当に勝算があったんですか?」

「もちろん」

 自信をもって答えた。

「だって相手が用意したルールだもの。相手は事前に戦略を用意しているはずだ。そんな状況で、『2つの手を交互に出す』なんて単純な戦略を取ると思うか?」

「たしかに、もっと凝った戦略で行きたい、って思いますね。それだと勝率が5分になるとおもいますし。」

「それに、『直前の相手に勝つ手を出す』なんていう戦略を出す可能性も低い。」

「どうしてですか?」

「戦略を考えるとき、僕に時間を3分与えただろう?もし『直前の相手に勝つ手を出す』という戦略にするんであれば、相手には『ずっと同じ手を出し続ける』みたいな戦略であってほしいわけだ。もしそうなら、戦略を考える時間は10秒くらいしか与えないはずだ。」

「相手が単純な戦略しか考えられないようにするためですね。」

「その通り。3分というのは、僕に一ひねりした戦略を考えさせるための時間だったんだ。」

「ところがカクさんはその間に何十ひねりもしてしまった、と。」

「まあそういうことだ。フハハハハ!」


使い魔


 僕はひとしきり笑ったあと、部屋の明かりを消し、ベッドに入った。すると、もにゅん、と何かに触れた感触がした。

「そういえばお前を忘れていたな」

 ペットにしたスライムだ。ここまでついてきたらしい。

「あのー、もしかしてまだスライムを連れているんですか?」

 コーディリアはまだスライムをペットにすることに否定的らしい。

「どうやらそのようだ。」

「それなら、いっそのこと使い魔として登録しちゃったらどうですか?」

 聞きなれない単語が飛んできた。

「使い魔って?」

「主に召喚士の子分となって戦ったり働いたりする魔物ですよ。」

「なるほど。つまりその召喚士とやらになって、スライムと契約みたいなものを交わせばいいのか。」

「だいたいそんなところです。厳密には召喚士にならなくてもいいんですが、なった方が色々と便利なので。」

「それで、使い魔にするとどんなメリットがあるんだ?」

「スライムが成長します。」

 成長、といったか。こいつはすでに3Lくらいはあるというのに。

「これ以上大きくなられると困るんだが」

「大きくはなりません。スライムの大きさは生まれたときからずっと同じです。」

「となると、成長というのはどういうことだ?」

「いろんなスキルを覚えて強くなる、ということです。」

 またまた知らない用語が飛び出してきた。そもそもこの液体が強くなるとはどういうことなんだ。

「すまない、スライムが強くなるなんて実感がわかないんだが」

「やってみればわかりますよ。まあスライムを使い魔にするなんてもの好きはカクさんくらいでしょうが。」

 失敬な。よし、コイツを強くして見返してやろう。僕はそう心に決めた。

「それじゃあお休み、コーディリア。」

「おやすみなさい、カクさん。」

 こうして、互いにとっての異世界での、初めての一日が終わった。

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