第10話 再邂逅
あれから2か月。今思えば、ずいぶんと長い道のりであった。伝説上の魔物を復活させ、人々の安全を脅かす魔王を討伐するため、この2か月間は仲間と共に戦いに明け暮れる日々であった。
目を疑った。まさか「魔王」とされている人物が、少女であったとは。
「あなたは…?」
目の前の少女に向かってそう言ったものの、質問する必要などなかった。自分はこの少女が誰なのか、知っている。
「おや、もう忘れてしまったのかい?私は保食神だよ。」
「あなたが、魔王なのか?」
未だに信じられない。なぜこの少女が魔王なのか。この少女はいったい何をしにこの世界まで来たのか。
「何が目的なんだ?」
「君は既に知っているだろう。この世界を終わらせるのが目的だよ。正確には、この世界と君が元いた世界の2つの世界を、だけどね。」
どうもつじつまが合わない。そもそもこの世界が邪魔だというなら、最初からこの計画にとりかかっていればよかったのではないか。これではなぜ自分とコーディリアの住む世界を入れ替えたのか、説明がつかない。
「元から滅ぼすつもりだったのなら、なぜ僕とコーディリアの住む世界を入れ替えたんだ?」
「それは君たちが邪魔だったからだよ。私にはね、未来が見えるんだ。君たちを入れ替える前に、それで未来を見た。するとこのままでは、君のいた世界では君に、この世界ではコーディリアに計画を阻止されることが分かった。だから、向こうの世界では君に邪魔されないよう、こっちの世界ではあの小娘に邪魔されないよう、君たちを入れ替えたんだ。」
「じゃあなぜ、その時に僕たちを殺さなかったんだ?邪魔なら、最初に僕たちを殺すはずだろう?」
「いや、殺す、というのは私にとってリスクが大きすぎた。私には『自分がこれ以上世界に関わらなかった場合の未来』しか見えない。私は君を殺すことで、計画が大きくずれるのを恐れたんだよ。」
「僕たちを殺さずに入れ替えれば、未来はそう変わらない、と?」
「ああ。少なくとも最初は、ほとんど変わらなかった。ほら、あの小娘は君の家に住んで、今までの君と似たような日常を送り始めただろう?そして君も、こっちの世界ではあの小娘と似たようなところへ行き、似たような活躍をした。」
確かにそうだった。この少女は、最初からすべて見通していたのだ。
「だが、それならなぜ入れ替えの際、僕たちに能力を与えたんだ?敵に塩を送るようなまねじゃないか。」
「君は一つ勘違いをしている。君には能力を与えていない。君の頭脳は最初から、元の世界にいたときと同じものだ。」
「なら、能力測定の時になぜ思考力があんな高い値になったんだ。」
「君に怪しまれないよう、私が書き換えたのだよ。ご存知の通り、私はこの世界のすべての魔力槽とつながっているからね。測定時に書き換えることなんて、どうってことない。」
「ならコーディリアの装置はどうなんだ。あれは正真正銘あなたが作ったものだろう。」
「あれは小娘が向こうで魔法を使えないようにするためのものだ。彼女に向こうで魔法を使われると困るからね。すべての魔力を通信に費やすよう、あの装置を渡したんだ。」
そういえばあの装置は、保食神の提案で渡されたものだった。これも仕組まれていた、ということか。
「最初から私たちを騙していた、ということですね。6年前から緻密な計画を組んで。」
コーディリアが憎しみのこもった声で言った。
「ああ。そういうことだ。6年前、私は転移魔法の開発に成功した。私の復讐劇はそこから始まったのだよ。」
6年前、2021年。空振が観測され始めた年だ。
「最初は2つの場所を入れ替える魔法だった。当時の転移魔法はまだ未完成でね。入れ替えた2つの場所で、大きな振動が起こってしまっていた。もちろんそれからはどんどん振動は小さくなっていったけどね。」
「それが空振の正体ですか。となると、同時に1か所でしか起こらなかった、6月17日の空振は…」
「その日は、私の魔法が次の段階に入った日だ。もうその時には2つの場所をほぼ完璧に入れ替えられるようになったからね。次は2つの時間を入れ替えたんだ。」
「時間?でも、対になるような別の時間帯の空振は観測されていません。どういうことですか?」
「それはこれから起こるのさ。私が入れ替えたのは、2027年6月17日3時11分のあの場所と、2027年9月12日18時6分の同じ場所なんだ。」
現在時刻は17時46分。つまり、いまからあと20分で、コーディリアのすぐ近くに大規模空振が起こることになる。
「コーディリア、今すぐその場から移動した方がいい。」
カクは忠告したが、それを無視してコーディリアは質問を続けた。
「では、神隠しはどうして起こしたのですか?これもあなたの仕業でしょう?」
「その通りだ。理由は2つあってね。一つ目は、これ以上世界に変化を起こさないため。人を殺すと、どうしても世界が大きく動いてしまうからね。二つ目は、君とカクを入れ替える練習さ。2人を殺さずにうまく世界を渡らせられるか、それで練習したんだよ。」
「それでうまくいって、7月1日に私たちを入れ替えた、と。」
「そういうことだ。だが私はまたしくじってしまったようでね。こちらの世界でもまた、カク、君に私の計画を台無しにされる未来が見える。」
「それならもう、諦めたらどうなんだ。あなたはそういう運命なんだよ。あなたには世界を終わらせることなどできない。」
「いやいや、君、さっき私が言ったことを覚えていないのかい?私に見えるのは、『自分がこれ以上世界に関わらなかった場合の未来』だよ。だから君をここで殺せば、また結末は変わる。君に邪魔されることなく、私は目的を果たせる、というわけさ。」
「できるものなら-」
そう言いかけた途端、胸が握りつぶされたような感じがした。口からは血を吐いていた。
「私は抜け目なくてね。ほら、君たちを入れ替えるとき、君に口移ししただろう?」
そういうことか。保食神にとって、最初から僕は警戒すべき敵であった。だから、いざとなったら僕を始末できるよう、あの時に仕掛けておいたのだろう。
もはや勝ち目はない。自分では、保食神に勝てない。
「せめて…コーディリアだけでも…生き…延び…て…」
最期の言葉であった。僕は、そこで息絶えた。




