股間に宿りし聖剣
ムンドゥスと呼ばれる世界があった。
そこには人族、獣人、長耳族、人魚族、土人、魔族とさまざまな種族が一つの国の中で平和に暮らしていた。
しかし、ささやかなきっかけを境に彼らの仲は悪化してしまい、次第には種族ごとに別れて戦争を起こすまで発展していく。
それを見かけたのは当時賢者と呼ばれし者。
人でありながらも優れた魔力を持つ彼は争いを止めるために神に頼み、その身を生け贄にすることで種族ごとに大陸を作り上げ、彼らをそこに住ませた。
それから――千年後。
「……違う……これも……だがこれは……いいやそうじゃない」
ぶつぶつと独り言を口にしながらも城内にある書庫の奥に隠された魔導書と禁書を読み漁り、読み終えるとすぐさま違う本に手を伸ばす頭部に捻くれた角を持つ男性。
やがて、すべての本を調べ終えた男性は決意した。
「旅に出るか」
魔族と七人の魔王を統べる覇者――大魔王はもともと隠居していたため、誰にも行方を知られることなく姿を消した。
後日、七人の魔王の内の一人が自ら大魔王を名乗り上げ、他種族を蹂躙することを各大陸に宣戦布告を行った。
場所は聖堂。
この奥には聖剣が眠っており、それを手に入れるために聖騎士は課せられた試練をたった一人で乗り越え、ようやく辿り着くことができた。
聖堂の奥には森林が広がっており、頭上にはどういう仕組みなのか絶えることなき光が降り注いでいる。
歩き出せば自然と道が開かれ、導かれるように聖騎士は歩む。
その先にあったのは、岩に突き刺さる聖なる剣。
「これが……聖剣か……!」
大魔王を討伐するためには、これがないと太刀打ちできない。
仲間たちと共に一度だけ対峙し、かすり傷さえつけることもできずに敗北を味わった聖騎士は古くから伝わる伝承を村人たちに教えてもらい、ようやく辿り着いた。
これさえあれば、大魔王に勝てる。
討伐した暁にパーティーの魔法使いに告白し、新しい人生を始めるのもいいかもしれない。
または彼女と一緒に違う大陸に渡って、未知なる生物、文化、歴史を調べる生活にしても悪くはない。
煩悩のまま、彼は聖剣を引き抜き――
「何じゃこりゃ――?!!」
雄叫びを上げた。
聖剣を無事に手に入れることができた聖騎士は普段から身に纏う鎧を脱ぎ捨て、紅いマントと兜のみのまま仲間たちと再会を果たした。
聖騎士になる前からずっと肩を並べて戦ってくれる親友の剣士、幼馴染の魔法使い、はげ頭の僧侶、それと最後には捻くれた角を持つ大魔王。
大魔王は七人の内の一人が野心を持っていることを知りながらも、止めることせずに放置した結果がこれだと旅の途中でその噂を耳にしてから聖騎士たちとともに行動している。
しかし、大魔王の恰好はひどいものだ。
鍛え上げた筋肉と漆黒のマント。下には下着だけの状態だけども、意外と頼りになる。
そう、いまの聖騎士と同じ格好でもある。
「……やってしまったか」
憐れむように、聖騎士の事情を知る大魔王はそれだけ口にした。
剣士、魔法使い、僧侶は何ついてなのかは知ることもできず、大魔王は聖騎士に鍛錬を行うと声をかけて人気のない場所に向かう。
聖騎士は彼の誘いを断るできず、あとを追う。
やがて帰ってきた二人が妙に汗まみれで、魔法使いがとんでもない方向を思考したものの、口にすることもなく顔を赤くしながら眠りについた。
その後、彼らは大魔王と名乗りを上げた魔王こと獣王が治める国まで一直線に向かった。襲い掛かる魔族や魔物はみな獣王に操られているのではなく、平和な世界に飽きて血を血で洗い流すことが好きな者たちばかり。
大魔王は己の民をためらうこともなく葬り続け、聖騎士たちも後に続く。
途中で耳長族、土人たちと出会い、彼らとともに襲いかかる者たちを蹴散らして――聖騎士一行は獣王がいる謁見の間に辿り着いた。
剣士、魔法使い、僧侶は疲労しており、長時間戦い続けることは厳しいと判断した聖騎士は大魔王と共に獣王の前に立つかと思えば――
「これが修行の成果だっ!!」
二人そろって両手を翼のように大きく広げ、堂々と鍛えられた胸板と股間を強調し、片足を上げ、全体重をつま先に乗せた。
へ、と誰かが声を漏らした。
「何をしている、聖騎士。それだけでは終わらん」
「わかっている、わかっているぜ……!」
達観した表情を浮かべる大魔王と対照的に聖騎士は羞恥にまみれた顔で必死にいやらしいことを想い浮かべ――られない。
「な、なにをしている……!」
この場にいる中でもっとも驚いている獣王は警戒しつつ、両手の爪に闘気を纏わせていく。
「ふっ、決まっておろう。聖剣、魔剣を召喚するためだ」
「知るか?!」
獣王が叫ぶ。
聖騎士も敵がそう考えていることに安心した。
聖騎士と大魔王がお互いに手に入れたのは聖剣と魔剣。しかし、これを召喚するためにはいくつかの条件をクリアしなければならない。
まずは鎧を纏うことを禁ずる。
次にいやらしいことを妄想する。
たったこれだけ。
しかし、剣ばかりの日々を送って来た聖騎士はいまだに女を抱いたことがない生粋の童貞。なにを、どのように妄想すればいいのかわからないのが本音だ。
妄想力が高ければ高いほど剣の威力は上がる。
つまり――担い手が興奮しなきゃいけない。
もっとも、大魔王の場合は呪われている武器の研究をしていたため、何の拍子か呪術が発動してしまい、股間に魔剣を宿してしまった。
「……仕方のない男だ」
つま先立ちをしていた大魔王は僧侶に渡していた物をもらうために彼に近付き、それを手にした彼はわざわざ聖騎士の前に立つ。
獣王はいまだにどうすればいいのかわからないまま困惑している。
「括目せよ、春画に刻まれている中身を」
「ぐおおおっ……!」
春画を広げれば、目にした聖騎士の股間に光が集い――特大の光線が大魔王と獣王の横をかすめ、壁に大きな穴を開けた。
童貞である聖騎士にとって、春画に描かれている内容はあまりにも刺激的過ぎて鼻血が噴き出す。
「な、なんだと……!? いまのは、なんだ……!」
「興奮度が高くなければ出ない技の一つだ」
「くっ、なんという変態技だ……!」
「仕方あるまい。あれが聖剣だからな」
獣王と魔王は何かを言い合っているのを聞けないほど、聖騎士はショックを受けていた。あれがそれの中に入って、掻き混ぜて……。
つま先立ちをやめた聖騎士が振り返ってみると、今更ながら魔法使いの恰好に気付く。破れたローブ姿からのぞく脚のラインは素晴らしく、突き出たお尻の丸みはたまらない。
「うぐっ……」
股間が滾る。
うめき声を聞いた獣王は引き攣った笑みを浮かべ、射程内から逃れようとしたが聖騎士が件のつま先立ちを行い、滾る股間の先を彼に向けた。
「畜生、畜生、畜生!」
最後にもう一つだけ条件がある。
それは必殺技を口にしなければならない。でないと、先程のように暴発してしまうからだ。
「必殺、童貞弾っ!」
「なんつう必殺技だっ?!」
「必殺――巨峰弾」
「そこの大きさを自慢するような必殺名とかおかしいだろう?!」
お互いにつま先立ちとなった聖騎士と魔王は滾る股間から光と闇の光線を迸らせ、まともに戦闘できずに獣王は消え去り、奥にあった王座さえも吹き飛ばしてしまう。
あっけない幕切れとなり、聖騎士と魔王はようやく終わったことに安堵していると涙目の魔法使いに杖を向けられた。
杖の先端に集う魔力は凄まじく、ぷるぷると魔法使いは身体を震わせる。
「ぶさ下がっているもん、さっさとしまえ――!!」
防御することもなく、聖騎士と魔王は魔法使いの必殺とも呼べる一撃を喰らう。ああ、春画がっと嘆く僧侶の声を最後に二人は地面に叩きつけられ、気を失った。
この後、無事に獣王を討伐できたことを剣士は人々に告げ、彼は魔法使いとともに新しい生活を始めた。
僧侶は一カ所に留まるようなことをせず、思春期の子供たちに正しい性知識を教える旅に。
――大魔王と聖騎士は今日もまたどこかでつま先立ちとなり、戦う術を持たない人々のために光線を迸らせ、聖剣と魔剣の解除方法を探す旅に出ている、という風の噂が流れている。
こうして、世界は再び平和を取り戻したのだった――