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ヤマンバ危うし!? 飛べ!エルアラン!

 ブレの冒険者達からの指名依頼を受けることになったフレイシア達は、ガジルに伴われて受付に居る。


 依頼というよりは頼み事に近いものであったが、一応の体裁として、手続きをしているのだ。

 報酬については遠慮していたフレイシアだったが、失敗のペナルティは無しで、成功したあかつきには報酬を出す、と、ガジルら冒険者達が引かず、ミーランとエルアナの説得もあって、達成時の報酬は受け取ることになった。


「おはようございます。お話はこちらにも聞こえておりましたので、手続きの準備は整っております」


 受付を担当するのは、前日にリルバのことを教えてくれた二十代程の人間の女性、ヘレンである。


「おはようございますヘレンさん」

「ようヘレン。早速手続きを頼むぜ。嬢ちゃん達は初めての依頼らしいから、報酬もはずんでやらねえとな!」

「シアに掛かれば、人の心を開かせることは容易いの。報酬は期待してるの」

「そうそう! シアお姉ちゃんはすごいんだよぉ!」

「――ハハッ! そいつは心強ぇな!」

「あんまりプレッシャー掛けないでよ……」


 ごく自然にハードルが上がっていく状況に、流石のフレイシアも胃が痛くなる思いだった。


「大体、報酬だっていらないっていってるのに……。私は、リルバさんと仲良くなれたら、それだけで十分だよ」


 真顔でそんなことを言ってのけるフレイシアを見て、ギルド内の冒険者達が、コソコソと話し始めた。


「報酬は君の笑顔で。ってやつか? ……たらしだな」

「ジゴロよ……ジゴロがいるわ……」

「ありゃあ女ったらしになるぜ……」

「あたし男だけど……ドキッとしちゃったわ……」

「気持ち悪りぃから耳打ちすんじゃねえよ……それと触るんじゃねえ……」


 などと、受付のカウンターから少し離れたテーブルでは、そんな風に冒険者達が盛り上がっていた。


「――そんなんじゃないから! 変なこと言わないでよ!」


 隠す気もない内緒話だったため、カウンターに居るフレイシアにも聞こえていたのだ。


「シアはいっつもそうなの。無意識に女の子を攻略してしまうの。……天性のジゴロなの」

「そっかぁ、だからシアお姉ちゃんは女の子にモテモテなんだね!」

「二人までやめてよ! …………ん? どうしたんですか、ガジルさん?」


 妙に盛り上がっているギルド内だが、ガジルだけは何か引っかかっているような難しい顔をしていた。

 フレイシアはこれを利用して、話題を変えようとガジルに話を振ったのだ。


「…………あ? あー……いやな。ちょっと昔のことを思い出してな」

「昔のことですか?」

「ああ。なあフレイシア。お前、家名はあるか?」


 昔を思い出していたと言うガジルは、何故かフレイシアの家名が気になったようで尋ねてきた。

 首を傾げるフレイシアだが、特に隠す理由もないと、ガジルの問に応じる。


「家名ですか? ありますよ。ハートです。フレイシア・ノーリン・ハートです」


――ガタッ!


「水色の髪……エルフ……ハート……ジゴロ……」

「あたしとしたことが……どうして気が付かなかったのかしら……」

「言われてみれば……そうか……」

「あれから十数年……確かにありえる……か……?」


 フレイシアの名を聞いて、中堅からベテランの冒険者達が、一斉に反応を見せた。

 名を名乗っただけでこのような反応をされるなどと思っていなかったフレイシアはもちろんのこと、ミーランとエルアナも首を傾げている。


「え……なに? なんなの!?」

「みんなどうしたのかなぁ?」

「……シア。なにをしたの……」

「やってない! 私はなにもやってないからね!? ……どうなってるんですか、ガジルさん!」


 フレイシアは、どこか救いを求めるような――説明を求めるような目でガジルを見た。


「いやまあ……。ちなみにだが、そのミドルネームは?」


 ガジルは説明を置いておいて、フレイシアのミドルネームについて尋ねた。


「これは……お母さんの名前です……私を産んだ時に命を落としてしまったらしくて。私がその名前を受け継いだんです」

「……悪いこと聞いちまったな……済まない!」


 フレイシアの生みの親であるノーリン・ハートが、出産の際に命を落としていることを無遠慮に聞いてしまったガジルは、知らず、デリカシーのない質問をしてしまったことを素直に詫びた。

 ヒソヒソと、何やら話していた他の冒険者達も、すっかり大人しくなっていた。


「いえ、気にしないでください。それで、私の名前がどうかしたんですか?」

「あー、そうだったな。いやな、ハートって言うから、てっきりステリアの娘かと思ってな」

「お母さんを知ってるんですか?」

「「「「「お母さん!?」」」」」


 ステリアを母と呼んだフレイシアの言葉を聞いて、ギルド内が再び騒然とした。


◆◇◆


 ステリア・ハート。

 元冒険者であり、ノーリン・ハートの妹であり、フレイシアを育てた、エルフ族の女性である。


 彼女が冒険者として活動していた期間は然程長くはないものの、彼女と、彼女が所属していたパーティの実力と功績は、旧世代の冒険者達の中でも軍を抜いていたのである。

 同じ時代を歩んだ冒険者達には、憧れや嫉妬、そして、時には恐怖を抱かせた。


 憧れや嫉妬はともかく、恐怖を抱かせる原因となったのはその美貌である。

 長い時を生きるエルフは、その生涯の殆どを若々しい姿で過ごす。

 その見目麗しいエルフ達の中でも、ステリアの美しさは秀でていたのである。


 美しい美貌、更には、男よりも男らしい男気を持った彼女は、男女、種族問わず、モテたのである。

 ところが、そんな彼女自身、あまり色恋沙汰に興味がなく、冒険者活動に没頭していたため、言い寄る者達をことごとく振っていたのだ。

 そして、中にはしつこく言い寄ってくる者、力ずくで自分のものにしようとする者もいた。

 そんな者達を、あまりにも無慈悲に返り討ちにしていたステリアは、結果として、ごく一部の人種に恐れられることになった。


 かくして、彼女と、そのパーティメンバー達は、様々な武勇伝を残しているのである。


◆◇◆

 

 しばしの間、ガジルから大まかにステリアの過去の話を聞いたフレイシアは今、両手で頭を支え、悶ていた。


「お母さんなにやってんのぉ……!」

「さすがステアママなの」


 ガジルから聞かされた話は、身内からすると顔が真っ赤になってしまうような出来事であったため、簡単には立ち直れずにいた。

 フレイシア達は、ステリア本人から冒険者としてのあり方や、戦い方などの手ほどきは受けていたが、冒険者時代の話は殆どしてもらえなかった。

 それは、ステリアとしても若気の至りで色々とやらかしていたため、本人の中で黒歴史のような位置づけになっていたのである。


「聞いたことなかったのか。いやぁ、すごかったんだぜぇ。五つ星目前で、突然パーティが解散した時にゃあ、ちょっとした騒ぎになったもんだ」

「うぅ……あァ……」

「なんだか新鮮な話なの、旅の途中で、ママ達の武勇伝を集めるのも面白そうなの」

「イヤァ……もぅやめてぇ~……」


 ミーランがママ達と言ったのは、ミーランの母親であるカレットも、当時のメンバーの一人だったからである。


「ふふふ……なの。旅の楽しみが増えたの」

「ぐぅ……なんでミィは平気なのさ……」

「シアが悶え過ぎなの。ミー達はとんでもない武器を手に入れてしまったの……ふふふなの」


 故郷へ帰省した際、各地で集めた武勇伝を披露し、普段は毅然としているステリアを、今のフレイシアのように悶えさせようというのがミーランの狙いであった。


 旅に出るまでの間、フレイシア、ミーラン、エルアナと、それぞれの母親達は、六人で暮らしてきた。

 それぞれの父親がいない理由は省くが、六人は、気兼ねなく冗談が言い合えるほどに、良好な関係を築いて生活してきたのだ。


 だが、そうした生活の中で、母親たちの弱みを握り、イジる機会に中々恵まれていなかったこともあり、今のミーランは輝いていた。

 皮肉なことに、ミーランが手に入れた武器は両刃の剣であり、フレイシアにまでダメージを与えてしまうのだが、それはそれで美味しいと、ミーランはウキウキである。


 そんな風にフレイシアが悶え、ミーランがツヤツヤしていると、再びガジルが話に入ってきた。 


「話を聞いてて気になったんだがよぉ、ミーランの母ちゃんも、あのパーティのメンバーだったのか?」

「そうなの。でもミーのママはおっとりしてるから、イジり甲斐がないの……」


 そこで言葉を区切り、なにやら力をため、普段は眠たそうにしている瞳を目一杯輝かせたミーランは、力強く拳を握り、宣言した。


「だからミーはハート家をイジるの!!」

「お……おぅ……」


 無駄に気圧されたガジルは、少し前から膝を抱え、顔を埋めたまま動かなくなったフレイシアに、同情の視線を向けた。


「ま……まあ、なんだ。冒険者なんてやってれば、辛い目にもあうもんだし……な?」

「もうやだ、冒険者こわい……」


 何故だか、身内からの攻撃で、とんでもないダメージを負っているフレイシアであった。


(しかし、あのステリアとカレットが育てた子供達か……。それにあのディアブロの子も……こりゃあまた騒がしくなりそうだ)


 ガジルは当時を思い出しながら、今後の冒険者業界が楽しみだと頬を緩ませていた。


 フレイシア達がカウンターで騒いでいる間、エルアナはギルド内に併設されている酒場の席に居た。

 ガジルがステリアの武勇伝を話している最中、酒場の女性冒険者達に招かれて、可愛がられている。

 お姉さんにも、オネェさんにも大人気である。

 テーブルには様々なスイーツが並んでおり、冒険者達に食べさせてもらっている。

 すっかりマスコット扱いであった。

 ギルド内の酒場ではスイーツは取り扱っていないのだが、大急ぎで、どこからか調達したようである。


 そういう具合に。

 ここしばらく沈んでいたギルド内の雰囲気が随分と和んでいることを、ブレの町の冒険者達、ギルド職員達が心地よさを感じていた頃。


「あのー……そろそろお手続きをお願いしたいのですが……」


 手続きの途中ですっかり脱線してしまっているフレイシア達に、受付嬢のヘレンは苦笑いであった。


 しばらくして。


 何はともあれ、フレイシア達はようやく手続きを終えた。


「ふぅ。ありがとうございました。これで手続きは完了いたしました。依頼が依頼ですので、あまり焦らず、じっくりとお願いしますね」


 この依頼は人の心を開かせるという、通常、冒険者に依頼されるような類のものではない。

 ブレの町のギルドでも前例のない依頼であることと、ヘレン個人としても、リルバの事を心配しているため、くれぐれも慎重に当たって欲しいと、フレイシアに念押ししていた。


「もちろんです! リルバさんのことは任せてください!」

「ふふっ。頼もしいですね」


 息を吹き返したフレイシアは、力強くヘレンに答えた。


「シア、緊急事態なの」


 そんな折、ミーランが真剣な表情でフレイシアに告げる。


 そう言ったミーランが手にしているのは“ピース”である。

 これは、この世界の身分証のようなもので、名前、年齢、職業、冒険者であれば、ランク等の情報が記録されているものだ。


 そして、ピースには他にも機能があり、親和性をもたせた相手のピースに極単純な干渉を行え、何パターンかの色に発光させることが出来る。

 その中でも、赤色、黄色は危険信号で、自分に何か危険が迫っている事を意味している――事が多い。


 今回、ミーランのピースは黄色に発光していた。

 緊急事態だと言ったのはこのためである。

 しかし、この状態では誰から送られてきた信号なのか判別が出来ないため、ギルド等の公共施設が管理している、ピースの情報を読み取るための板状の魔道具、“ディスク”に空いている窪みにはめ込んで、発信者を特定する必要がある。


「これは緊急連絡ですね、ピースをこちらへ」


 ヘレンの対応は手慣れており、すぐさまディスクを取り出した。

 情報を読み取ったヘレンは、ミーランへ告げる。


「発信者はヤマンバ族の方ですね」

「――!? 大変なの! ヤマンバさんに何かあったら大事なの!!」

「お、落ち着いてミィ! まだ危険が迫ってるって決まったわけじゃないし――」

「――そんな悠長なことを言っていられないの! 今すぐ行くの!」


 旅に出て最初の友人の危機とあって、フレイシアの静止を跳ね除け、ミーランは今にも飛び出して行きそうな勢いであった。


「お気持ちは分かりますが、集落に向かうにしても、きちんと準備してからでないと……」

「そうだよ、まずは落ち着いて」

「……ふぅ。ソーリーなの……取り乱してしまったの。……オーケー、行ってくるの」

「だから待ちなさい!」


 少しは頭が冷えたかと思えたミーランだったが、頑として飛び出そうとしていた。


「シアはあの子の事があるからここに残るの。集落にはミーとエルが行くの」


 一応、少しは冷静な部分も残っていたようである。


「でも……」

「オーライなの、もし二人でも危なそうなら、赤で連絡するの。信じて欲しいの」

「うぅ……絶対だよ? 無茶しちゃダメだからね!」

「オーライなの」

「シアお姉ちゃん、エルも頑張ってくるよ!」

「エル……」


 もはや何を言っても止まりそうも無いミーランとエルアナを見て、結局は、フレイシアの方が折れるのだった。

 長く苦楽をともにしてきた二人の戦闘能力は、フレイシアが一番良く知っていた事もあって、最悪の場合でも逃れることは出来るだろう、という信頼もあったからだ。


「ここから飛んでいくの。シア、お願いなの」

「「「飛んでいく!?」」」


 飛んでいくと言うミーランの言葉を聞いて、聞き耳を立てていた回りの冒険者や職員が一斉に驚きを見せた。


「やっぱりか……この前目撃されてた空飛ぶ三人組はお前らだったか……」


 と、呆れたセリフを吐いたのはガジルである。

 フレイシア達が町に入る前に飛んで移動しているのを目撃した通行人達が、先日この町に到着した際、あちこちで言いふらして噂になっていたのである。


「あははぁ……」


 そんなガジルに対して、フレイシアは乾いた笑いを返すのが精一杯であった。

 しかし、ミーランとエルアナは外野の驚きに構うことなく、ギルドの出入り口から外へ出た。

 フレイシアも少し遅れてギルドを出ると、出発の準備を済ませた――エルアナの腹部に後ろから手を回し、抱きついているミーランの姿を捉えた。


「やっぱりそれで行くんだ……」

「当然なの。これが一番早いの」


 これは三人の連携によって実現するユニゾン魔法だ。

 まず、エルアナの重力魔法によって合体した二人の体を軽くする。

 しかし、それだけでは空中での制御が出来ないため、必要になるのがミーランの空間魔法。

 これにより、進む進路をミーランが指定したラインに固定することで、あたかも線路を進むかのように、決められたルートを通ることが出来る。

 ルートを固定したら、フレイシアの風魔法による強力な竜巻によって上昇気流を発生させ、その推進力によって二人を発射するという、無駄に息の合った、三位一体の人間砲弾。


 その名を――

 

「エルアラン!」

「発進なの!!」

「……おー」


――ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!


 エルアナ、ミーラン、フレイシアの順に掛け声をかけ、やる気のないフレイシアの強力な竜巻に乗って、二人は発射されたのだった。


「「「エェー……」」」


 そのあまりにもな光景に、ギルドの外に居た通行人を含め、ギルドの者達も声を失っていた。

 

 唖然とする人々の中心には、居心地の悪そうなフレイシアだけが取り残されたのだった――。

Tips:エルアナの羽は柔らかく伸縮性がある。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
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