表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

守りたい日常


「まあ、実際に接触があってから考えても良いんじゃないッスか?」


 フレイシアが悩んでいるのは、見ず知らずの誰かを利用する、という漠然としたものだ。

 なおかつ、まだ姫候補が目の前に現れた訳でもない。

 聖者の怒り(ヴォルケーノ)にしても、ただ警戒をされているだけかもしれず、ここまでの危機感を抱く必要も無いのかもしれない。


 すべて妄想と言ってしまえばそれまで。

 

「確かにそうだな。人となりも分からないし、話してみたら、案外、気が合うかも知れないしな」

「ミーも少し気が急いていたの、大事なことだから、じっくり考えたほうがいいの」


 勝手なイメージで、姫候補は名を挙げるためなら手段を選ばない者達だから、逆に利用しよう、などと考え始めていたが、まずは会ってみない事には始まらないのである。

 実態の掴めない、凶悪な敵の影がチラついている事で、皆不安を抱えているのだ。


「姫候補の事は、今は置いておこう。それより、私達のレベルアップが必要だと思う」


 他人の力を当てにする事に引け目を感じていたフレイシアは、より確かな防衛策として、自分達を鍛え直すことを提案した。


「それはミーも思っていたの。同世代では強い方でも、やっぱり、上には上が居るの」

「だな……あたしもまだ、この力を使いこなせてない」

「エルだって強くなるよ!」

「みんな……」


 ミーランも、リルバも、エルアナも、力不足は自覚していた。

 他人に頼る前に己を高める。

 メンバーの意識は今、同じ方向を向いている。


 そして、もう一人。


「シアちゃん、私も……」


 ボソリと、そう零したのはマルティだった。


「マルティ?」


 マルティを見やるフレイシアは首を傾げていたが、いつかのように自分を見つめるその瞳には、なにがしかの決意が窺える。


「時間は掛かると思うです、けど……」


 僅かに表情を陰らせたマルティだが、一つ息を整えて、再び口を開く。


回復術師(ヒーラー)になれたら、私も、パーティに入れて欲しいです!」

「「「「――!?」」」」


 ウル達はキョトンとしているが、幼馴染のルーリーを含め、フレイシア達は驚いていた。

 それは、彼女が、これまでパーティを組まずに活動していた事を知っていたからだ。


 より多くの経験を積む為に、色々なパーティに同行していたのだが、場数を踏めば踏むほどに、傷の悪化を和らげるくらいが精々な介助人(メディカー)という役割に、もどかしさを感じるようになっていた。


 そんな己を高めるべく、この町へ来たのだが、最近になって、少し、気持ちに変化があった。

 弟子入りが果たせたとして、回復術師(ヒーラー)の口伝を授かったとして、その後どうするかということだ。

 

 再び、ブレの冒険者ギルドで活動するのもいいが、身につけた力を活かし、なおかつ、より濃密な経験を積むには、やはり、町を出て、旅をする方が為になるのではないかと考えた。

 気の早い話ではあるが、先を見据えることで、間近の試練にも、いっそう身が入るというものである。

 もちろん、ここ数日、行動を共にしているフレイシア達との生活に、心地よさを感じているのも動機の一つだった。


「私は嬉しいけど、ほんとにいいの?」

「いつか義理を果たすと言ったですよ……だからその日まで、無茶はしないで欲しいです」

 

 ウル達がいる為、言葉をぼかしているが、ライバルであり、親友だったリルバの元パーティメンバーである回復術師(ヒーラー)の女性と、再び言葉を交わせるようになった事への義理である。

 更に、その後に付け加えた言葉には、無茶な戦いをして、傷つかないで欲しいという想いが込められている。

 短い付き合いとはいえ、寝食を共にしてしまえば、情も湧こうというものである。


「ありがとう、マルティ……ちゃんと待ってるからね」

「約束ですよ」


 フレイシアに続いて、他のメンバー達もマルティを快く受け入れ、約束の日まで、決して無茶はしないと誓っている脇で――ルーリーだけは、少し寂しそうな表情をしていた。


(リルもマルちゃんも居なくなっちゃうんだ……やっぱり寂しいな……)


 宿屋の同僚であるリルバの旅立ちについては、薄々、そうなりそうな気がしていた為、覚悟していたルーリーだったが、マルティが弟子入りするために町を出るという話は寝耳に水で、未だに心の整理がついてはいなかった。


 あとどれくらい一緒に居られるか分からないが、この旅行の間だけは笑顔で過ごそうと、ブレの町で旅支度をしている時に決めていた。


 だとしても、二人との別れが現実味を帯びてきた今、否応なく心が揺れ始めていた。


「ルー、どうしたの……?」


 ふと、ミーランがそんな事を言えば、ルーリーに皆の視線が集まる。


「「「「「……!?」」」」」

「エッ……あれ……あれッ……」


 ルーリーの頬には、知らず、涙が伝っていたのである。


 彼女に戦闘能力は無い、共に行きたいと思っても、足を引っ張るだけだという自覚がある。

 まして、フレイシア達を脅かしているのは、国内最大級の犯罪組織である。

 自分のような非戦闘員が側に居たのでは、最悪、弱点として利用されることもあるかもしれない。


――迷惑を掛けてしまう。


 そんな事を思ってしまえば、一緒に居たいなどと、口にできる筈もなく、ただ、黙って二人を送り出してあげようと、自分に言い聞かせて来たのだ。


 だからといって、簡単に割り切れるものではない。

 例えそれが門出だとしても、寂しいものは寂しいのだ。


 自分の中の葛藤に決着を付けることが出来なかった彼女は、ついに決壊してしまった。


 一度溢れてしまえば、その涙は、簡単に治まるものではない。

 今まで抱え込んでいた感情が、抑え込んでいた願望が、溢れ出して止まらなかった。


「ルーちゃん!」

「ルーリー!」


 付き合いの長いマルティとリルバは、俯いて涙を拭っているルーリーに駆け寄り、身を寄せた。


「グスッ……ごめんね……ゴメンねッ! ホントは、笑って、送り出そうと、思ってたのに……ズズッ……でも……やっぱり……寂しいよ……! ……ズズッ」

 

 感情を吐露するルーリーに寄り添う二人は、その言葉を黙って聞き届けている。


「私は戦えないから、ついて行っても、足手まといになるし……グスッ……迷惑、掛けちゃうかもしれない……それでも、一緒に居たい! マルちゃんとも、リルとも、ミーちゃん達とも、もっと一緒に居たい!」


 そう出来ればどれだけ幸せだろうと思いながら、胸の奥に押し殺していた想いを、彼女は、吐き出さずには居られなくなっていた。

 独り取り残される孤独を思えば、今、手を伸ばさずには居られなかったのだ。


 もしかしたら――その小さな希望が残されている今なら、まだ間に合うかもしれない。


 だから思いを口にしたのである。


「……お姉ちゃん」


 フレイシアを見上げるエルアナには、覚えがあった。

 今のルーリーが抱えている不安を知っていた。

 限りなく近い感情を抱いた経験があったのだ。


 ディアブロの先祖返りであるエルアナは、宿している精霊と反発し合い、覚醒出来なかった。

 フレイシアとミーランの旅に付いていくための条件として、エレメンターへの覚醒を提示されていた彼女は、慕う姉達に置いていかれないように、必死にあがいていた時期があるのだ。


 その頃を思い出したエルアナは、今のルーリーの気持ちが、痛いほどに伝わってくる。

 不安げにフレイシアを見上げている彼女の心中は、二人の姉にも伝わっていた。

 優しく微笑んでその肩に触れるフレイシア。

 ミーランもそっと、その頭を撫でている。


 静かに涙を流しているルーリーに、エルアナの肩に手を置いたまま、フレイシアが言葉を掛ける。


「ルー、ゴメンね、気付いてあげられなくて」


 一言そう言って、ルーリーの視線が自分に向かうのを待ち、更に続ける。


「よかったら、ルーも一緒に来ない? お料理とか手伝ってくれる人が居てくれると、助かるんだけどなあ」

「ぇ……!?」


 一瞬、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情になったルーリーだったが、少しずつ、その言葉を咀嚼して、ようやく口を開いた。


「良いのッ?! 私ッ……良いのッ?!」

「「「うん!」」」


 驚きでうまく言葉を発せないでいるルーリーに、フレイシア、ミーラン、エルアナは、笑顔で頷いてみせた。


「やったですね! ルーちゃん!」

「ああ、一緒に行こう! ルーリーの料理は、あたしも好きだよ」

「マルちゃん……リル……でも私、戦えないよ……?」


 マルティとリルバはルーリーが加入することを喜んでいるが、やはり戦えない事に引け目を感じている様子のルーリーに、今度は、カウンター席に座っているウルが声を掛ける。


「良いと思うッスよ? うちにも四人、非戦闘員が居るッスからね」

「そうだよ、一緒に戦うだけが仲間じゃないよ。支えてくれる人も、大切な存在だからね」


 ウルの言葉に更に重ねて、フレイシアも、サポート要員の必要性を説いた。


 ルーリーがフレイシア達の顔を見渡せば、皆、温かい笑顔を向けてくれている。

 気づけば、先程までの心細さが無くなり、胸の中も暖かくなっていた。


「あの……不束者ですが、よろしくお願いしますッ!」

「「「「「よろしくッ!」」」」」

 

 マルティが正式にパーティに合流するのは、まだまだ先になるだろうが、ルーリーがメンバー入りしたこの期に、メンバーに加入しておく事が決まった。

 こうして、ファニー・ポップのメンバーは六人になったのであった。


「シアちゃん、いいメンバーを揃えてるッスね」

「ええ、これなら団長が心配していたようなことにはならないでしょうね」


 フレイシア達がルーリーを囲んで笑い合っている姿を、カウンター席でドリンクを飲んでいるウルとリグレット、そしてカウンター内の三つ子も、温かい目で見守っていた。


「とっても信頼できる仲間が居れば、不安で潰れたりはしない」

「限りなく仲睦まじくてうらやまし」

「究極に様子を見に来て正解だったもん」


 ウルがここへやって来たのは、もちろん、ただ会いたかったという気持ちもあるが、追い返せたとはいえ、犯罪組織に関わってしまって不安を抱えているだろう、という心配があっての事だった。

 フレイシア達は、自分達の置かれた現状をよく理解していながらも、身を縮めて怯えたりはせず、前を向いて強く生きようとしている。

 その姿を見られただけでも、来た甲斐があったと安堵していた。


◆◇◆


「長居しちゃったッスね。年明け位までは滞在してるッスから、また会いに来るッスよ」

「うん! いつでも来てね!」


 時刻は夜の九時を過ぎている。

 余り長く居座るのも迷惑だろう、ということで、この日は解散となり、ウル達を玄関先の門まで見送っている所だ。


「そうそう、宿はここッスから、何かあったらいつでも来て欲しいッス」


 そう言って、ウルはメモを取り出し、フレイシアに渡した。

 とそこへ、リグレットが付け加える。


「昼間はパークでショーをやると言っていたじゃないの」

「アッ、そうだったッス、宿に居ない時はパークを探して欲しいッス!」


 ウル達が言っているパークとは、マーケットパークの事だ。


「分かった、ありがとね」

「それじゃあ、また!」

「またねー!」


 そうして、投影の魔道具により幻想的に照らされる夜の町へ、ウル達は消えていった。


 明日はいよいよ、マルティの弟子入りが試される時である。


◆◇◆


 少し遅い時間になってしまったが、翌日に寝坊をしないように、さっさと入浴を済ませようという事で、フレイシア達六人は脱衣所に来ている。


「あたし達のレベルアップもだが、まずは明日だな」


 医師のミケット・ハートの診療所に向かうのは、フレイシアとマルティの二人だけという事になっている。

 病人が集まる場所へ大勢で押し寄せるのは迷惑になる為、他の者達は遠慮したのだ。

 だからといって、やはりマルティが心配ではある。

 診療所について行かない面々は、それぞれがマルティにエールを送って激励している。


「皆ありがとです! なんとしても、第一歩を踏み出してみせるですよ!」

「その意気だ!」

「マルちゃんならやれるよ!」


 特に付き合いの長いリルバとルーリーに励まされると、マルティにも力が湧いてくるようだ。

 緊張はしているが、それよりも気力が充実しているように見える。

 余り心配はいらなそうだと、皆肩の力を抜いていた。


 さて、新しいメンバーも加入し、マルティへの激励も終わり――服も脱ぎ終わった。


「――クソッ! またか!」


 フレイシアが、リルバの後ろから抱きついたのである。

 なぜかと問われれば、そこに、スタイルの良い女性が居たからである。

 引き締まった肉体に惹かれたからである。


 必死に引き剥がそうとするリルバだが、今日のフレイシアは、なにか様子が違っていた。


「ダメッ! 離れたら見えちゃうッ!!」


 頬を赤らめてそう叫びながら、リルバの背中に、執拗に胸を押し付けているのだ。


 名付けて――水着が流されちゃった作戦である。


「――ッ!? …………ん? ……!! 別にいいだろ! 女ばっかだぞッ!!」


 一瞬なるほど、と思ったリルバだが、ここには女性しかいない事を思い出した。

 そんなリルバの太ももに、今度はエルアナも抱きついてきた。


「だめッ! 離れたら見えちゃう!!」


 エルアナも真似したくなったのである。


「もうその時点で見えてるからなッ!」


 リルバの太ももがたくましいとはいえ、エルアナのは辛うじて隠れていないのである。

 と思ったが、ミーランがそっと、後ろから手を回して隠してあげている。


「ミィお姉ちゃんのエッチ!!」

「――誤解なのぉ~!」


 姉妹同然に育ってきたとはいえ、直に触られるのは、流石に恥ずかしいようであった。

 そこで、傷心中のミーランを養護すべく、フレイシアが助け舟を出す。


「でもね、エル。ミィが手を離したら、リルに見られちゃうよ?」

「――!? うッ……」


 フレイシアが指摘すれば、エルアナは頬を赤らめ、恥じらう様子を見せる。

 ちなみに、未だにフレイシアはしがみついたままである。


「いや……もう何度も見たことあるんだが……」


 そんなリルバのセリフは、この姉妹達には聞こえていない――事になった。


「でも……リルになら……いいょ?」

「ぬッ……」


 桃色と紫の双眼で上目遣いしながら、モジモジと言葉を紡いだエルアナ。

 恥ずかしいけど頑張ったのである。


 リルバは確信した、エルアナがこうなってしまったのは、主にフレイシアのせいだろうと。


「私だって……いいよ?」


 肩越しにリルバを見つめるフレイシアが便乗してきたことから、それは間違いないであろう。


「――やめんかァ!」


 そんな具合に戯れている四人の脇で、マルティはすでにペロペロされている。


「マルちゃん……シュルッ……これからも、ペロしくね」

「よろしくされるのはイヤですぅぅぅぅ!!」


 漠然とした不安を押し殺すためか、六人それぞれが、日常を満喫していた。



Tips:ミクスの住人は、十一月中に大掃除を行い、年末をのんびりと過ごす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ