魔道士の頭脳――驚愕の推理
過去の話にも、後書きにTipsを追加しました。
大した情報はありません。
「「「「「ヘイッ! ヘイッ! ヘイッ! ヘイッ!」」」」」
ここは秘密基地のリビングに設置された、ライヤーズ・プライドのドールハウス内。
その部屋の一つはバーになっており、カウンターの中では、三つ子がフレアバーテンディングを披露している。
フレアバーテンディングというのは、ボトルやシェーカー等を使ったジャグリングである。
カウンターで踊るようにジャグリングをしている三つ子を囃し立てるように、皆で掛け声を上げ、手拍子をしている。
冒頭の掛け声がそれである。
「ヘイッ! ヘイッ! すごいね、三つ子ちゃんカッコイイ!」
女性用のバーテン服を着こなし、華麗なパフォーマンスを披露する三つ子を、エルアナはキラキラした瞳で見つめている。
ちなみに、酒を呑むのは三つ子とリグレット、後はドワーフのリルバだけで、他の者達には、ミックスジュースが振る舞われる。
普段は金の節約のために飲酒を控えているリルバだが、ドワーフは十歳から飲酒が認められているのだ。
――パチパチパチパチ!
程なくしてパフォーマンスが終わり、フレイシア達の歓声が響き渡って、それぞれに飲み物が行き渡った。
「そういえば、ウルちゃん。ショーの時って、バンドの人達が居なかった?」
数種類のフルーツ果汁をソーダで割ったドリンクを飲んで一息ついた頃、フレイシアが言った。
「あー、彼女達は、一年ちょっと前に加入したメンバーッスよ。まあ、戦闘要員でなく、ショーの演出担当ッスけどね」
「へー、連れてきてくれればよかったのに」
「あんまり大勢で押し掛けても迷惑だと思って、今回は遠慮してもらったッス。また機会があったら紹介するッスよ」
「そっかぁ、じゃあ楽しみにしてるね」
話の切り口として、ちょっとした世間話から始まり、次第に、本題へと移っていった。
ウルがここに来た、本来の目的である。
「話というのは、聖者の怒りの事ッス。ある程度の情報は、ギルドで聞いたッスけど、シアちゃんから、詳しく聞きたかったッス」
「……聖者の怒り」
真面目な話とあって、他の者達も静かに話を聞いている。
そうした中、ブレの町での出来事を、あら方、ウル達へ話して聞かせた。
「これまで、スプリガンは偶然生まれると思われてたッスけど、どうも意図的に作り出してるみたいッスね。まったく……暴走してるはずのスプリガンを使役するなんて、普通じゃないッス」
「精霊を切り離すなんて、絶対に許せないよ」
宿主と精霊の絆を切り離すというのは、フレイシアのあり方とは真逆――相反する力である。
絆を大切にしているフレイシアにとっては、決して容認できない出来事なのだ。
「おそらくは、特異魔法ッスね。ミィちゃんが腕を切り落としたっていうダビー・ロンドか、それとも、他の構成員の能力かは、話を聞いただけじゃあ判断出来ないッスけど」
特異魔法というのは、フレイシアの調和魔法のような、他の者には使えない、特別な能力である。
「ダビー・ロンドは……多分違うと思う」
「勘ッスか?」
何故そう思うのかと問われれば、なんとなく、としか答えられないレベルの予感ではあるが、フレイシアは、特異魔法を持っている者は別に居ると感じていた。
「うん……」
「シアの考えは間違ってないと思うの」
そう言ってフレイシアの勘を後押ししたのはミーランである。
「特別な力を持った構成員が、迂闊にあんな所まで出てくるとは思えないの」
「言われてみればそうッスね」
「そもそも、あのダビー・ロンドは雑魚なの」
「……酷い言い草ッスね」
ダビー・ロンドを雑魚呼ばわりするミーランの言に、ウルは苦笑いを浮かべた。
「対峙した時に、何の凄みも感じなかったの。所詮捨て駒だから、一人で辺境の若手狩りをすることしか出来なかったの」
(……それにヤラれたあたしらは、たまったものじゃないがな)
辛辣なミーランの物言いに、リルバは誰に言うでもなく呟いた。
父の仇である聖者の怒りの一員のダビーに対して、ミーランが憎しみを抱き、この様な発言をしていると分かっているので、リルバがミーランに怒りを抱いたりはしていない。
と、そこで、ウルはシルクハットを深く被り直し、鋭い目つきで口を開く。
「ちなみにッスけど……ミィちゃんは、何処まで分かってるッスか?」
ウルはミーランの頭の良さを知っている、本当は、限りなく真実に近い、正確な推理をしている筈だと、探りを入れたのだ。
魔道士であるミーランは、映像、音声がそのまま記憶に残っており、いつでも、何度でも見返して、好きなだけ検証できるという強みを持っている。
ミーランが魔道士であることを、ウルは知らない、だが、その頭脳には一目置いているのである。
ごく短い時間瞼を閉じて、ミーランは推理を組み立てた。
「ダビー・ロンドはスプリガンを作ってはいないの。宿主と精霊の繋がりを断てるのであれば、魔力の感知能力にも長けている筈なの。それが出来なければ、切り離すどころか、繋がりを感じ取ることすら出来ないの」
ミーランはこの推理に確信を持っている。
それは、他者の精霊に干渉できる、フレイシアの親友であるからだ。
フレイシアはリルバをエレメンターに覚醒させた。
覚醒には、多量の魔力を保有するか、精霊と宿主の親和性を高めるかの、二通りの方法がある。
親和性が低い場合、多量の魔力を用いて、力ずくで覚醒にこぎつけるのだ。
大抵のエレメンターは、こうして覚醒している。
フレイシアの場合は、親和性を高めることで、効率よく、宿主と精霊の魔力が循環出来るよう改善する。
それによって、精霊が保有できるエネルギーが増え、覚醒に至るのだ。
親和性を高めて覚醒出来る者など、フレイシアくらいのものである。
魔道士のミーランから見ても、特殊な親友がいたからこそ、真実に近づくことが出来る。
もし、ダビーの魔力感知能力が高いのであれば――。
「広範囲設置型のミーランの領域に気づかないのはおかしいの。ダビー・ロンドはその範囲内に居たにも関わらず、その場から動こうともしなかったの。警戒した素振りもなかったの」
周囲を取り囲む魔力の粒子にも気が付いた筈なのだ。
「レギオスっていうと、確か……魔力の粒子を飛ばして、辺りを完全把握する魔法ッスよね? なるほどッス、他人の魔力が充満している空間に居ながら、それに気が付かないという事は、感知能力が低いって事ッスね」
「イエス、なの。それが、他人の精霊には干渉出来ない証拠なの」
そこまで証明出来れば、さらに深く推測を建てられる。
「能力者は何処かに潜んでいて、スプリガンを育てる構成員――仮にテイマーとしておくの。テイマーを各地に派遣して、多数のスプリガンを育てるために動いているはずなの」
「……テイマー……ッスか」
「おそらく、テイマーは複数いるの」
「それにも根拠はあるッスか?」
「オフコースなの」
ミーランが聖者の怒りの情報を集め始めたのは、三歳の頃から。
それは、両親と過ごした家を出て、フレイシアと出会うまでの頃だ。
「聖者の怒りは戦力を集めている節があるの。特に露骨なのは……魔道士狩りなの」
苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、ミーランの推理は続く。
フレイシアとエルアナも、心を握りつぶされるような感覚に陥りながらも、ミーランの言葉を遮ることはない。
リルバ達にも、まだ、ミーランが魔道士であることは伝えていない。
伝えているのは、子供の頃に聖者の怒りに襲われたという、漠然としたものだけだ。
「例え、産まれて間もない赤ちゃんのうちに拐われたとしても、魔道士には、眼が見えるようになる頃からの記憶が残っているの。自我が芽生えて、言葉を覚える頃になれば、自分が拐われたということも理解出来るの」
「それはすごいッスね、生物としての格が違うとは、よく言ったもんッス。でも、それが分かるなら、成長して力をつけるまでは大人しくしておいて、隙を見て逃げるって事も出来るんじゃないッスか? 寝首を掻かれるかもしれないのに、わざわざ魔道士を拐うメリットって……」
いくら戦力を欲しているとはいっても、魔道士を拐ってしまっては、育てば育つほどに、リスクが高まるばかりではないのかと、ウルは首を傾げている。
「奴らは支配力に長けているの……」
そこで一端言葉を区切り、今日一番の苦悶の表情を浮かべたミーランは、続く言葉を絞り出した。
「……洗脳してしまえば……ただの兵器なの……」
「「「「「――ッ!?」」」」」
一同は息を呑み、絶句している。
エルアナにちょっかいを出した諜報員が洗脳具を使ったことを、フレイシア達は知っていたし、ウル達にもその話を聞かせていた。
だが、そんな人道にもとる行為など、深層心理が嫌悪し、考えないようにしていたのだ。
「奴らは兵器開発に躍起になっているの。きっとスプリガンも同じ……いや、違うの……魔道士は希少な上に、確実に手に入るものではないの」
胸クソが悪くなるのを必死にこらえつつも、あえて、自分たち魔道士を兵器――物と言ったミーランは、拳を握りしめている。
それは、更におぞましい推理をしてしまっているからだ。
「だから……人から精霊を引き離すほうが容易いの」
「「「「「…………!!」」」」」
ただ推理を聞いているだけで、これほどの怒りが湧いてくるものかと、そのやり場のない想いが、一同から言葉を奪っていた。
「したがってテイマーは複数存在している筈なの。それぞれがスプリガンを複数体預かっているとすれば、百体、千体いたとしても不思議ではないの。聖者の怒りは、約六百年も暗躍しているのだから……」
「ミィ……もう、いいよ……」
フレイシアはそう言って、ミーランの肩に手を置き、そっと抱きしめた。
「そうッスね……ありがとうッス」
そうしてミーランの推理は終わり、しばしの間、バーを静寂が支配していた。
◆◇◆
「思っていた以上に、深刻な状況ッスね……どうりで彼女達が動く筈ッス」
しばらく続いた沈黙を破ったのはウルであった。
「彼女達?」
ボソリと呟き、独り思案しているウルに疑問を呈したフレイシア。
シルクハットのツバから真剣な瞳を覗かせながら、ウルはフレイシアに告げる。
「我らがプリンセス――四人の姫候補達ッスよ」
Tips:三つ子は様子を見ながら飲み物を追加している。




