揺れますけど? 取れますけど?
ステリアの説教が終わり、リビングに入った後。
マルティとルーリーをステリアに紹介し、少しの間歓談していた一同の元に、エルアナと、その母ベアータが、ピザを始めとしたイタリア系の食事を運んできた。
テーブル席とソファに分かれて座った所で、フレイシアとリルバが立ち上がり、ある報告をする。
「え~、皆さんにご報告があります」
フレイシアがそう言うと、皆の視線が集まる。
そこでフレイシアは、一度リルバと視線を交わし、うなずきあった後、指を揃え、そっと左手の甲を皆に向け、口を開いた。
「私達、結婚しま――(パン!)――スンッ!!」
「違うだろ!」
結婚会見の様な事を言いだしたフレイシアの頭を、リルバが叩いた。
「あーん、余興の漫才ねー。とうとうツッコミ役を見つけたのねー」
「エルとミィちゃんが相手では、ああはいきませんからね」
「あの子はまたふざけて……」
テーブル席のカレット、ベアータは呑気に感心し、ステリアは一人呆れていた。
その他の子供組には結構受けているようで、にこやかに見物している。
「ぐぅ……もうちょっとで既成事実が……」
「いいからちゃんとやれ」
ふくれっ面のフレイシアだが、いつまでも話が進まないと見て、リルバが先を促す。
ちなみに、この世界では同性の結婚も認められている。
長命な種族が多いためか、したければどうぞ、という具合に受け入れられているのだ。
ともあれ、気を取り直して報告の続きである。
「リルがパーティに入ります」
「さらっと言ったな? あたしとしては一大決心だったんだが?」
まだイジケているのか、フレイシアはなんの余韻もなくサラリと口にした。
リルバが不満に思っても仕方がないだろう。
だが、そんなリルバの胸元に、エルアナが飛びついてきた。
「リルぅ~! 入ってくれるの!? これからもずっと一緒?!」
「ああ、エルとミーランが良いなら、あたしも一緒に旅をしたい」
「ミーも歓迎するの。リル、入ってくれて嬉しいの」
エルアナの後から歩み寄ってきたミーランもリルバの加入を歓迎している。
これによって、リルバは正式にファニー・ポップに加入することになったのだ。
「リル、やっと決心したですね」
「良かったね、リル!」
マルティとルーリーも、リルバが前を向いて歩いていけるようになった事を喜んでいる。
「さあ、さあ。フレア、ついでに乾杯の音頭をとって頂戴」
食事前に盛り上がりの絶頂に達している子供組を窘めて、ステリアがフレイシアに乾杯の音頭を取るよう促した。
「それでは、私達の前途(意味深)を祝して……かんぱ~い!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
(うっ……なんだ今の寒気は……)
それぞれが想いを抱いた乾杯を終え、賑やかな食事が始まった。
エルアナが土産に買ってきたチーズを使ったピザなどを食べ、同じく買ってきたデザートを出し、ささやかな宴は過ぎていった。
テーブル席の大人三人は、フレイシア達が仲良く食事をしている姿に頬を緩めた。
デザートを食べる頃になると、エルアナはベアータの元へ行き、嬉しそうに、初めて見た外の世界の話を聞かせていた。
しばらくして。
宴もたけなわということで宴は終わり、フレイシア達子供組はステリア宅を後にし、寝泊まりする秘密基地へ向かった。
この世界でフレイシアを出産したノーリン・ハートが残した家は、少し歩いた場所にある。
ぼんやりと優しく光るハートの幻影に照らされながら夜道を歩き、一行は通称秘密基地に到着したのだった。
「……散らかしすぎだろ」
「……これはまた」
「……!? 体が……うずくぅ……!!」
秘密基地に入ると、ブレの町から来た三人はそれぞれ驚愕していた。
というのも、通された部屋の中には、おもちゃやぬいぐるみが散乱していたからだ。
「あの子が居なくなった時のままにしてあるの」
「ただ片付けるのが面倒だっただけだろ」
「ダメよ……私の右腕……押さえるのヨ……」
亡くなった子供の部屋を思わせる表現で言い訳をするミーランに、リルバはため息を吐いた。
そして、先程からムラムラしているのはルーリーである。
「ぬああああああ!! お願い! お片付けさせてえぇ~!!」
「「「「「――うわっ!?」」」」」
突然発狂したルーリーに、一同はビクリと肩を震わせる。
「ルーちゃん……どうしたの?」
「びっくりしたぁ」
「ルーちゃんはこう見えてもきれい好きなんです」
「さすがに、あたしもこれはどうかと思うぞ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ! お片付け! お片付けえぇ~!!」
「まずいスイッチが入ってるの」
興奮気味のルーリーを誰も止めることができず、一心不乱に、散乱した玩具類を整理整頓していく見事な手際に、声をなくして見入っていた。
そして程なく。
「……ふぅ。すっきり!」
「「「「「おおぉ~」」」」」
その、見事な手際は、皆に感動を与えるには十分なものであった。
ここ、秘密基地は土足厳禁で、皆靴を脱いでいる。
ルーリーが片付けた部屋の中央には低いテーブルが置かれ、今はフレイシアが入れたカフェラテを飲み、一息ついているところだ。
「そうそう、お母さんからこれももらって来たんだった」
そう言ってフレイシアが取り出したのは大皿に盛られた豆である。
「おぉ、エルフ豆か! あたしこれ好きなんだよ」
「このお豆はうちの庭で育てたんだよ」
水に溶いた小麦粉にスパイスを入れ、豆に絡ませて軽く揚げたものである。
「自家栽培かぁ、さすがエルフだな」
「甘いカフェラテにしょっぱいエルフ豆……最高です……」
「一仕事終えた後には格別だね~」
「久しぶりなの」
「おいしいねぇ~!」
名物のエルフ豆をつまみながら、今後の予定の話し合いが始まった。
「明日は、まずモニュメントプラザに行こうか。リルは初めてきたんだもんね?」
「ああ、悪いな、ここの座標をもってないのはあたしだけだから」
「気にしなくていいですよ、誰だって初めてはあるです」
「近くにマーケットがあるから退屈もしないしね」
――モニュメントプラザ。
そこには、ポートストーンという石碑型の転移装置が設置されている。
通称ポートと呼ばれるこの大きな石碑は、ピースに記録されている座標に転移することが出来、国内の主要都市に設置されている。
ピースに座標を書き込むには、石碑に空いている窪みにピースを嵌め込むことで行える。
したがって、一度赴いて座標を書き込まなければ転移することが出来ないのだ。
モニュメントプラザは、通常、マーケットパークという広場に併設されている。
その広場は、場所代さえ支払えば、誰でも露店を開き、商売を行える。
その土地の名産品から、各地の名産品、飲食の屋台まで、様々なものが取引されている。
マーケットパークに続く通りには、多くの店が軒を連ね、街の一部が巨大なショッピングモールの様に賑わっているのだ。
ちなみにマーケットパークは、感謝祭の期間中、祭り用の出店のみ出店出来る様になる。
「それじゃあ、明日はモニュメントプラザに行った後、マーケットを見て回るって事でいい?」
「「「「「うん」」」」」
随分漠然とした予定だが、年頃の少女達が六人も集まれば、マーケットでは平気で一日潰せるであろう。
そんな話をしている最中、フレイシアは、マルティが何やらそわそわしていることに気がついた。
「マルティ、おばあちゃんは、明後日なら時間があるって」
「――ッ!? ……ドキドキするです」
「マルティなら、きっと大丈夫だよ、私も一緒に行くし」
「マルちゃん、弟子入り出来るといいね!」
「頑張れよ!」
「や、やってやるです!」
緊張しているマルティに、ルーリーとリルバが肩をたたいて激励した。
弟子入りに向けて、マルティは決意を新たにした。
一通り落ち着いた所で、そういえばと、エルアナとミーランが立ち上がり、部屋の片隅から木馬を持ち出してきた。
「なんだ、それは?」
リルバが怪訝そうな表情をしているのは、その木馬が可愛らしい服を着せられていたからだ。
「秘密基地のボスを紹介するの」
ミーラン曰く、この木馬は、秘密基地のボスだそうだ。
「こちらがこの秘密基地のボス。Mr.デュラハンなの」
幼い頃のエルアナが遊んでいた木馬である。
「やぁ、諸君。俺様がみすたぁ~デュラハンだ!」
エルアナが手で木馬を揺らしながら、裏声でアテレコした。
「「……ジーッ……」」
フレイシアとミーランは、ジトリとした視線をリルバへ向けている。
(どうしろと……)
リルバの困惑は深まるばかりである。
僅かな間があって、リルバは意を決したように口を開く。
「初めまして……Mr.デュラハン……」
リルバが木馬に挨拶をした事で、エルアナは実に上機嫌である。
「ふふふ、中々見どころがあるようだな、いいだろう、俺様の背中に乗せてやる」
「ぇ……」
子供用の木馬に乗れと、エルアナは言うのだが、どう考えても、自分が乗ったらアンバランスすぎるうえに、滑稽ではないかと、実に嫌そうな表情をしている。
「遠慮することはないぜ、さあ来い!」
「う……ぐ……」
エルアナは、ターゲットにしたリルバを逃す気は無いようだ。
「さあ!」
「ぬぬぬぬぬ……」
部屋の空気は徐々に緊迫してゆく。
「「……ジーッ……」」
フレイシアとミーランのじっとりとした視線は、無邪気な妹を傷つけるなと語っている。
傍で見ているルーリーとマルティは、他人事のようにワクワクしていた。
(屈辱だ……)
(『主の誇りが……』)
意を決して木馬に跨るリルバは、目元に影を落とし、頬を赤らめている。
静観していたエレメントのホムラも、そんな主の姿に胸を痛めていた。
「「――ップ!」」
リルバが跨ると同時に、フレイシアとミーランの口から息が吹き出た。
(あいつらは後で殴る!)
その決意は、マルティの覚悟に匹敵するものかもしれない。
「中々の乗り心地だろう? ほら、こうして揺れることも出来るんだぜぇ?」
無邪気にして、奔放なエルアナはそう言って、木馬を前後に揺らしてみせた。
「わ……うわ~ぃ……」
(『主ょ……』)
やらいでか、そんな言葉だけが、今のリルバを支えていた。
「すごいなー……」
もはや、リルバの瞳に光はないのだった――。
◆◇◆
秘密基地の浴場で入浴を済ませた一同は、二人ずつに分かれて眠ることになった。
組分けは、フレイシアとミーラン、リルバとエルアナ、そしてマルティとルーリーである。
これまでは、フレイシア、ミーラン、エルアナの三人は同じベッドで寝ていたが、人数も増えたことだし、ということで、このように別れて部屋を使うことになったのだ。
リルバと一緒に眠るとエルアナが口にした際、フレイシアとミーランが泣きそうな顔をしていたのは余談である。
エルアナとリルバは寝間着に着替え、ベッドに入った。
横になるリルバの隣で、エルアナもそっと巻角を外して、寝支度を整える。
「――取れるのか!?」
「え? なにが?」
「いやいやいやいや!?」
コテリと首をかしげるエルアナに、リルバは驚愕しながら取り外した巻角と、エルアナの頭を、交互に何度もみやった。
「だって、寝る時は邪魔になるもん」
「そういう問題なのか!? だからって取れるのか!?」
「……?」
当たり前のように巻角を取り外したエルアナは、何がそんなに驚きなのかと疑問符を浮かせっぱなしである。
「そっか、いいよ!」
「へっ?」
エルアナは聡い子なので、リルバの意図するところをさっしたらしく、枕元の棚に置いた巻角を再び手に取り、リルバの頭に装着した。
「な、なんだとぉぉぉ!?」
「リルも似合うねぇ~!」
今日は翻弄されっぱなしのリルバであった。
Tips:ステリアとベアータは、普段、カフェで働いている。




