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 男達がヨタヨタとした足取りで逃げ出して後、エルアナは孤児院の少女達を送り届けた。

 少女達は気にするなと言うが、自分を標的にした者達のせいで、怖い思いをさせてしまった事への罪悪感は拭えず、孤児院の院長の前で、エルアナは改めて謝罪をしたのである。


 だが、この孤児院からは何人もの冒険者が出ていることから、外には悪い人間も居ることは散々聞いていたし、孤児たちは、何かしら辛い目にあったことも少なくないため、あの程度のことならトラウマにもならない、と、院長に言われた。

 それに、少女達には怪我もなく、表情も至って普段通りであるし、何よりエルアナも被害者であるため、それ以上自分を責めるものではないと、院長は茶菓子を出しながらエルアナを宥めた。

  世話焼きな院長は、エルアナが少女達に対して引け目を感じたまま別れることを危惧し、日暮れ前までは、このまま院内で少女達と過ごすように進め、エルアナもそれに応じることにした。

 

◆◇◆


 流れ者の冒険者達の前に立ちふさがった、三人の黒服の女性達――フレイシア、ミーラン、リルバは、捕縛し、予備のドールハウス(テント内の空間を拡張して広くしたもの)に収容して、軽く、極々軽く痛めつけた後、縛り付けてドールハウス内に軟禁した状態でギルドに入った。


 突然ギルドに入ってきた黒服の三人組に驚いた職員と冒険者達であったが、すぐにフレイシア達だと見抜いて苦笑するに留まった。


 そんな周りの目など気にも留めず、三人はカウンターにいた受付嬢のヘレンの前にやって来た。

 無言で近づいてきたフレイシア達に、ヘレンの苦笑は深まるばかりである。


「あのぉ……今日はどうしたんですか? それにその格好は……」


 なんだかよく分からないが、サングラスのせいで、妙な威圧感を放ち、少しだけ機嫌も悪そうに見える彼女達に、ヘレンは恐る恐る尋ねた。


「メイリアさんに会いたいんです」

「マスターに話があるの」

「ヘレン、ここは黙って通してくれないかい?」

「な……殴り込みですか?!」

「――違います!」


 そう勘違いされても仕方ない雰囲気を出しているフレイシア達が悪いのだが、フレイシアは心外とばかりに抗議する。

 フレイシアに任せておいては時間がかかると思ったのか、ミーランはドールハウスを取り出し、その中にリルバが入って三人の男達――よそ者の冒険者を引っ張り出してきた。


「なッ……!?」

 

 リルバが連れ出した男達は、顔中にコブを作り、面影を残さないほどに腫れ上がっており、大の男がヒクヒクとえずきながら泣き、怯えている。

 完全に心が折られているようだった。

 そんな男達を見たヘレンは驚愕し、絶句した。

 これは穏やかな状況ではないと、パトラスのパートナー、エルフのエバンズがやって来た。


「おいリルバ、こいつらはよそ者か? ……いったい誰にやられたんだ」


 男達が嵌めている二つ星冒険者の証を見て、エバンズは他所からやって来た冒険者であろうと当たりをつけ、そう聞いた。


「あたし等がやった」

「「「「はあ?!」」」」


 リルバは悪びれもせず言った。

 なんでもないように言うリルバに、エバンズ、ヘレンを初め、様子を見ていた冒険者達も一斉に驚きをみせた。


「お前らがやった……つっても……何があった?」


 少なからずショックを受けたエバンズではあったが、フレイシア達が、理由もなくこのような仕打ちをするわけがないと思い直し、一呼吸置いて経緯を尋ねた。


「こいつらはな……」


 リルバは経緯を説明した。


「そりゃあ、自業自得だな。この町のルールを無視しただけでなく、狙う相手もわりぃよ」

「この町で、マスターの頭越しに冒険者を引き抜くのは罪に問われますからね。フレイシアさん達は、現在、マスターの庇護下にありますし」

「「「「ブゥ~!!」」」」


 話を聞いたエバンズとヘレンはただ呆れ、周りの冒険者達はブーイングを行っていた。

 もはや満身創痍の男達を憐れむものは誰も居なかった。


「二つ星の証も随分と小奇麗だな……大方、二つ星になったのに浮かれて、調子に乗ったってとこか? 身の程を知るのは冒険者の基本だぜ」


 エバンズの見立てに、気まずそうに目をそらす男達、どうやら図星だったようで俯いてしまった。

 少し間があって、男達の一人が口を開いた。


「俺達は……どうなるんだ……?」

「ん~……まあ、まずは尋問だろうな、とは言え言い逃れは出来ないだろうぜ? 目撃者も多いだろうし、何らかの罰を与えられるだろうな。マスターの判断次第だが」

「禁固刑か……一つ星への降格、悪ければ、冒険者資格の剥奪なんかも……」

「――待ってくれ! 俺たちも悪気は無かったんだ! 反省だってしてる!」

「この町のルールだって知らなかったんだ……」


 大罪という程ではないが、男達二つ星冒険者にとっては、今後の生活にも関わるような罰が与えられるとあって、必死に弁解していた。


「知らなかったで済む問題じゃないんだわ、この町じゃな。お前達はどっから来た?」


 少し気の毒に思ったのか、エバンズは男達に対しての声音が優しくなった。


「俺達は――」

「――騒がしいわね、何を揉めているのかしら?」


 男がエバンズに応えようと口を開いた時、カウンター奥の階段を降りてきたギルドマスターのメイリア・ルーンが声を掛けた。


「おうマスター、ちょうどよかったぜ、こいつらなんだが……」


 カウンターまでやって来たメイリアに、エバンズが大まかに事情を伝えた。


「なるほどね、これはまたこっ酷くやったわね……詳しい話は奥で聞くわ。あなた達にもね」


 そう言ってメイリアはフレイシア達を見やった。


「はい」

「その格好については、聞かないほうが良いのかしら……? まあいいわ、あなた達は自分で歩けるわね?」


 やはりフレイシア達の黒服が気になったメイリアだったが、一先ずは置いておくことにしたようだ。

 床でへたり込んでいる男達を立ち上がらせ、メイリアはフレイシア達を伴って執務室に向かう。

 そこでリルバは立ち止まって、エバンズに向き直った。


「なあエバ兄、あんたはあいつらの見方なのかい?」


 エルアナの心を傷つけた男達に腹を立てていたリルバは、そんな相手に優しく接したエバンズを非難した。 


「そういうわけじゃねぇさ……ただな、リル。オレの勘なんだが、あいつらの話は、きちんと聞いておいたほうが良いと思うぜ?」

「どういうことだい?」

「いやな……あいつらの行動が、なんか釈然としないんだ。ただの勘だがよ」


 エバンズは、この町では兄貴分的な存在で、その勘の鋭さや洞察力には一目置かれているのである。


「エバ兄の勘か……分かったよ、少し頭を冷やすよ」

「ああ、尋問官はクールにやるもんだぜ」


 エバンズに諌められたリルバは、少しだけ冷静さを取り戻したようだ。

 そうしてリルバは、少し遅れて執務室に向かった。

 リルバを見送るエバンズに、今度は後ろから足音が近づいてきた。


「エバンズ! エルちゃんを泣かせ男達は何処に居る」

「パトラスか……どっから嗅ぎつけてきたんだ……」


 エバンズに声を掛けてきたのはパトラスであった。

 普段とは違う表情とその佇まいは、まるで騎士のようである。

 そんなパトラスを見ても、エバンズは動揺しないどころか、地獄耳な相方に呆れを見せる始末だ。


「あいつ等なら、リルバ達と一緒にマスターの執務室だ」

「ッチ……降りてきたら剣の錆にしてやる」

「はあ……お前は魔法使いだろうが、今はな」

(クールじゃねえのは、俺の相棒も一緒だな……しかしなんだ、この胸騒ぎは)


 頭に血が登っているパトラスに一つため息を着いて、エバンズは二階へ続く階段を見上げた。


◆◇◆


 執務室に入った一行、メイリアとフレイシア達はソファに向かい合って座り、男達は床に正座させられていた。


「さて、それじゃあ始めましょうか」


 そう前置きをして、メイリアは男達への尋問を開始した。


「まずは、あなた達が誰で、どこから来たのか」


 メイリアは男達の名前と出身地を尋ねた。

 男達が持っている、身分証のピースを読み込めば分かることではあるが、一応の建前である。


「俺はビルだ――です。こいつらは、イワンとランディ。三人共イースト・エイドのネガー村の出身です」


 メイリアの問に応えたのは、おそらくはリーダーであろう男――ビル。

 今更であるが、三人共犬獣人(どっぐす)である。


「ネガー村といえば、有名なワイン蔵があったわね……私もたまに飲んでるわ」


 などと言いながら、メイリアはワインの味を思い出すように目を閉じた。


「おお、そりゃあいい! 実はこのイワンの実家がそのワイン蔵なんでさあ」

「あらそうなの? でも、どうして冒険者になんて」

「俺は三男坊なもんで、蔵は兄貴達が継ぐんですよ」

「そうだったのね、まあ、他所様の事情に口出しするのも――」

「――マスター!」

「さっさと死刑にして欲しいの」

「あたしらは楽しくお喋りしに来たわけじゃないんだが?」


 メイリアは至って普段通りに振る舞っているし、ビル達は、少し前とはまるで別人のようで、メイリアと歓談する始末である。

 そんな様子を見て、黙って話を聞いていたフレイシア達の苛立ちは募るばかりであった。


「し、死刑って!? ちょっと待ってくだせえ!!」

「うるさいの」


 血は繋がっていないが、ミーランはエルアナを実の妹の様に愛している。

 その妹の心を傷つけたビル達に殺意を抱いてしまうのは仕方が無いことだ。

 それでも、自らの手で始末せず、メイリアに判断を仰ごうとしただけ良心的であった。

 ところがメイリアは、男達を責めるでなく、叱責するでもなく、極普通に会話をするだけ、フレイシア、ミーラン、リルバの中で、ミーランは最も腹を立てていた。


「少し落ち着きなさいな」

「マスターに相談に来たのは間違いだったの。ミーが片を付けるの」

「「「――ヒィッ!?」」」


 メイリアの言葉など耳に入らず、殺気を放ちながら席を立ち上がるミーラン。

 その殺気を受けて、男達は身を寄せ合い震えている。


「これを見なさい」


 メイリアは、頭に血が登っているミーランに一つため息を着いて、テーブルの上に何かを取り出した。

 ミーランは苛立ちながらも、それを見た。

 フレイシアとリルバもそれを見て首をかしげる。


「マスター、これは?」


 そう聞いたのはフレイシアだ。

 テーブルの上には、ピンバッジの様な大きさの、魔道具と思われるものが置いてある。


「効果は小さいけれど……これは洗脳の魔道具よ」

「洗脳だって?!」


 そう言って驚いたのはリルバだ。

 もしかしたら、これがエバンズが言っていた違和感なのかもしれないと当たりをつけた。


「もしかして、こいつらに?」

「そう。さっき外しておいたのよ。これの効果が完全に切れるには、少し時間が掛かるの。この子達の話し方が途中で変わったのがその証拠よ。あなた達も見ていたでしょう?」

「いつの間に外してたんだ……」

 

 この魔道具の事を知っていたメイリアは、フレイシア達が気付かないほどの手際で取り外していたらしく、フレイシア達への説明の手間を省くために、あえて普通に会話をしていたようだ。


「仮に洗脳されていたとしても、こいつらがやったのは事実なの」


 だとしても、ミーランの怒りの矛先が変わることは無かった。

 そこでメイリアは、確信に触れる。


「ミーラン、よく聞きなさい。この魔道具を使うのはね、聖者の怒り(ヴォルケーノ)の諜報員よ」

「――!?」


 ミーランは目を見開いた。

 その驚きはフレイシアとリルバも同様である。

 つかの間の沈黙を利用して、メイリアは更に続ける。


「奴らはこの魔道具を使って人を操り、それを離れて監視することで情報を集めるの」

「この町に来ていたって言うんですか?!」


 ビル達を監視するためには、諜報員もこの町に来る必要がある。

 フレイシアの疑問は最もだった。

Tips:洗脳具は、思考力を低下させ、暗示に掛かりやすくする。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
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