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エルアナの友達


 フレイシア達がブレの町を発つまで後数日となった頃。


 エルアナはミクスの町で暮らしている家族へのお土産を探して、グレーの長い髪を揺らしながら、独りブレの町を散策していた。


「ん~、何が良いかなぁ?」


 難しい顔で独りごちるエルアナは、店が建ち並んだ一角の軒先を歩きながら、立てた人差し指で、小さな顎をトントンと叩いていた。


 エルアナが一人で行動する事にフレイシア達は心配していたが、彼女には、どうしてもそうしなければならない理由があった。


 それは、彼女が冒険者だからである。

 冒険者は、一人で外を出歩くのは当たり前。

 買い物だって一人で出来る。

 たとえ彼女が十歳だとしても――

 馴染みの浅い町だったとしても――

 冒険者なのだから、お土産くらい、一人で買いにいけるのである。


「マンマ達が喜ぶもの……」

 

 とはいうものの、母親たちが喜びそうなお土産はなんだろう、と、眉間に皺を寄せて悩んでいた。


「なんであたしまで……まだ武器の魔装も作ってないんだぞ……」

「かわいいエルの為なの」

「二人共静かに、エルの感知圏内にも入らないようにね」


 フレイシア、ミーラン、リルバは、エルアナの意志を尊重した――(てい)で、黒いスーツに身を包み、サングラスを掛けて、後方の物陰で気配を殺して見守っている。


仮装変幻魔装(かそうへんげんまそう)》――それは、いわゆるコスプレである。


 この世界でフレイシアを産んだノーリン・ハートが残した家で、フレイシア、ミーラン、エルアナは度々三人で集まり遊んでいた。

 ある日、フレイシアが地球で見た服装を魔装で再現してみせた際、それを面白がったミーランとエルアナが真似をしたことで生まれた全身魔装である。

 特に能力などは持たない、ただの見た目装備なのだが、イメージさえしっかりと思い描く事が出来れば、大抵の衣装を身につけることが出来る。

 ごっこ遊びにはもってこいの魔装だ。


 今回はエルアナの尾行の為に、リルバにも急いで習得させていた。

 自分の武器の魔装を未だ作っていない事と、エレメンターとは戦闘のプロフェッショナルだと思いこんでいたリルバは、今回のことに少々面食らっているようである。


「大体、こんな格好してたら余計目立つだろう……」


 ブレの町には、彼女達のように、シークレットサービススタイルの住人は居ないのだ。

 物陰に隠れていようと、サングラスを掛けていようと、フレイシア達はここ最近、この町での知名度が上がってきている事も手伝って、否応なく通行人達の視線を集めていた。

 しかしながら、フレイシアとミーランは気にしていない。

 エルアナのお使いのほうが心配なのである。


「モナは何が良いと思う?」


 妙案が浮かばないエルアナは、左手に嵌めているサソリをモチーフにしたブレスレットに魔装化している、エレメントのモナに相談した。

 ちなみに、冒険者の証の鉄のブレスレットは右手に嵌めている。


『それをオイラに聞くのかい? エル、こういう物はね、気持ちが大事なのさ。エルがちゃんと選んだものなら、きっと喜んでくれると思うよ?』


 などとモナは言うのだが。 


「エル知ってるよ、そういうのを煙に巻こうとしてるって言うんでしょ?」

『――なッ、なにを言ってるんだい……オイラはエルの為を思って……だね……?』


 声色から判断するに、図星だったようである。

 もちろん例外はあるが、エレメントと宿主の思考は似通っている。

 エルアナとモナの思考も似ているのであった。


「……ジーッ……」

『と――とにかく、どこかのお店に入ってみたら良いんじゃないかな! ピント来るかもしれないよ?!』


 桃色の左眼でジーッと見つめられていたモナは、どこかうろたえた様子でエルアナに告げた。


「もぉ~……ユイもノアも、こういう時は頼りになるのになぁ~」

『うぐ……あの子達と比べられても……』


 ユイというのは、フレイシアのエレメントの白いフクロウで、ノアは、ミーランのエレメントのリスだ。

 フレイシアが覚醒したのは二歳の頃で、ミーランに至っては、産まれた瞬間――というか、初めから覚醒した状態で産まれている。

 エルアナが覚醒したのが二年前の八歳だという事を考えると、年季が違うのである。

 今のエルアナの発言に、モナは結構グサッと来ている。


「……ちょっと言い過ぎたよ、ごめんね」

『ううん、いいよ。オイラもエルも、まだ幼いからね、これから一緒に成長していこうよ』

「うん!」


 エレメントと深く繋がっているエルアナは、モナが傷心していることも敏感に感じ取れた。

 流石にひどい言い草だったと反省したようだ。

 モナはエルアナからの謝罪を受け入れ、すぐに和解していた。

 時折、喧嘩のようなこともする彼女達だが、今回のように失敗を繰り返しながら、共に成長しているのである。


 そんなエルアナを見守るフレイシアとミーランだが、なんだか、サングラスの奥が光ったような気がした。


「あんたらは過保護すぎるんだよ……」


 そしてリルバは呆れていた。


「じゃあ、このお店に入ってみようか」


 ちょうど雑貨屋の前に来ていたエルアナは、一先ず店内を物色する事にした。

 然程大きな店ではないが、店中にはちょっとした置物から便利グッズまで、様々な商品が並べられていたが、どれも地元の雑貨屋と然程変わらないような品揃えで、残念ながら、お土産を探しているエルアナのお眼鏡には適わなかった。

 しかし、ちゃっかりというか、自分用のフワフワのクッションを購入してマジックバッグに入れていた。

 五千メルン程の品物だったが、今のエルアナには然程痛手ではない。


 スプリガン討伐の際の報酬を、エルアナも受け取っているのだ。

 見たこともない額が振り込まれていたのを確認したエルアナは、混乱のあげく、お菓子屋さんを買ってくると言って、リルバに慌てて止められるという一幕もあった。


 ともあれ、今日は随分と悩んだエルアナは、噴水のある広場のベンチに腰掛け、おやつに持ってきていた焼き菓子を食べて一息ついていた。

 遠足におやつは必須なのである。


「もぉ~、考えすぎて分かんなくなっちゃった……」

 

 甘いものを食べても気持ちは晴れないらしく、ディアブロ族特有の蝙蝠の様なこぶりな羽も、なんだかシュンとしている。


『考え過ぎもよくないよ? この町で見つからなくても、ヤマンバのフェアリーファームで何か見繕っても良いんだからさ。気楽にいこうよ』


 泥沼に嵌っていくようなエルアナを見ていられず、モナは妥協案を提示した。


「――それだよ! マンマはフェアリーファームに行ったこと無いって言ってた! 美味しいアイス買っていったら絶対喜ぶよ! それと、チーズも買っていこう!」


 モナの発言は、エルアナにとっては盲点だったらしく、とてもにこやかな表情になった。

 初めてのお土産ということで、気張りすぎていたようだ。


『アハハ……この町で買って帰る事に拘ってるのかと思ってたよ』


 灯台下暗しというか、案外あっさりと解決してしまったことで、モナは力なく零した。


「エルちゃ~ん!」

「なにやってるの~?」

「まいごなの?」


 その時、数人の子供達がエルアナの元へ駆け寄ってきた。

 この子供達は、リルバが世話になっていた孤児院の後輩たちで、十歳前後の少女達だ。

 少し前に、リルバに連れられて孤児院に遊びに行って知り合っていたのだ。

 リルバは報酬の殆どを施設に寄付した。

 院長は受取を渋っていたが、元気そうなリルバがどうしてもと言ってくれるのも嬉しくて、最終的には受け取ったのである。

 リルバの寄付は、施設の資金や、子供達の小遣いになっている。


「迷子じゃないよ! お土産を探してたの!」

「おみやげ~?」

「ひとりで?」

「子供がひとりで町を歩いちゃだめなんだよ~!」

「エルは冒険者だからいいの!」


 エルアナは、右手に嵌めている冒険者の証を見せながら、迷子呼ばわりされたことの撤回を図った。


「そっか~、冒険者だったね~」

「そうだよ! もう二つ星なんだもん、一人でお出かけも出来るんだよ!」


 そんな風に背伸びをしているエルアナを影で見守るフレイシアとミーランは、その愛らしさに悶えていた。

 リルバが呆れていたのは言わずもがな。


「ファニー・ポップとやらのディアブロ族ってのはこのガキか?」


 と、子供達をベンチに座らせて一緒におやつを食べていたエルアナの前に、見知らぬ男達がやって来た。


「多分な、ディアブロ族なんざ滅多にいねぇからな」

「まあ、見た目は悪くねぇな、わざわざこんな辺境まで来た甲斐もあった」


 当のエルアナを差し置いて、何やら話している男達の話しぶりから察するに、この町の冒険者ではないようだ。

 その乱暴な言葉づかいと容姿に、孤児院の子供達は少し萎縮している。

 通行人達も目をそらし、我関せずといった様子だ。

 助けを期待できそうもない。


 この町で出来た友人達が怖がっている様子を見て、エルアナは立ち上がった。


(エルちゃんダメだよ……)

「大丈夫」


 小声でエルアナを止める少女に振り返り、優しい声音で応えて、男達と対峙した。


「エルに何か用なの?」

「はあ?」


 臆しもせず、自分達に声を掛けてきたエルアナに面白くないものを感じたのか、乱暴に返事をする男。

 一言二言仲間と言葉を交わして、男はエルアナに向き直った。


「まあいい。お前、俺達のパーティに入れ」


 高圧的な態度で、男は言った。

 その物言いは、威圧さえすれば、力の弱い子供など、すぐに従うと思い込んでいるような、身勝手なものだった。


「あいつら、ふざけた事を! あたしが追い払ってや――」

「待ってリル」

「何言ってんだ! もし何かあった……ら……」


 男達に腹を立てたリルバは出ていこうとするが、それをフレイシアが引き止めた。

 何を悠長なことを言っているのかと歯がゆく思ったリルバだったが、フレイシアの真剣な表情、そして、ミーランも拳を握りしめ、肩を震わせながらも黙って見守っている姿を見て、言葉を詰まらせた。


「大丈夫だよ、エルなら、大丈夫」

「…………分かったよ」


 リルバを諌めるフレイシアの瞳にも確かな怒りを感じた。

 そんなフレイシアでさえ我慢しているのだからと、リルバは息を整えて、一端様子を見ることにした。


「イヤ。エルはお姉ちゃん達とパーティ組んでるもん」


 高圧的に命令されたエルアナは、毅然とした態度で拒絶した。


「んだと、ガキが! 俺達が可愛がってやるっツッてんだから、黙って言うこと聞きやがれ!」

「数年もいい子にしてりゃあ、いい目見させてやるんだぜ?」


 容姿端麗なディアブロ族は、種族を問わず人気があり、幼い頃から手懐けておこうとする輩も、少なからず存在するのである。

 まさにこの男達のように。


「ほら、良いから来いよ。あんまり我儘言ってると、そこのチビ共がどうなってもしらねぇぜ」


 男達の一人がそう言って、孤児院の子供達へ目を向けた。

 その視線を受けて、子供達は更に怯え、震えていた。

 男としては、冗談で言ったのかもしれないが、子供達が感じた恐怖は本物だった。


――許せなかった。

 

 外の世界で初めて出来た、同年代の友人を怯えさせるこの男達が。


「ぐお△$#&……」

「おぇ%○$@……」

「うおぇ∇∞≠$……」


 目の前にはえずく男達。

 気づけば右眼の眼帯を外していた。

 狂人の血を封じ込めた紫の右眼。

 普段はただ色が違うだけの右眼だが、今は違う。

 三本の爪痕の様な模様が浮かび上がり、その見据える先にいる男達はえずき、嘔吐しながら地に蹲っていた。


「あれは……何をしたんだ?」


 離れてみていたリルバには、エルアナが何をしたのか分からなかった。


「《悪魔の爪痕セーニョ・ディ・グラフィオ》、エルの魔眼なの」

「聞いてはいたが……あれが……」

「リル……怖い?」


 魔眼の話はリルバにもしていた、が、まだ見せたことは無かった。

 エルアナも、フレイシアも、ミーランも、リルバがその力を知れば、エルアナを見る目が変わってしまうのではないかと躊躇していたのだ。

 リルバが見ているとは知らず、エルアナは怒りに任せてその力を使ってしまった。

 慕っているリルバには、見せたくなかった、その力は――


――拷問のためだけに生まれた様な、恐ろしい力なのだから。


 この魔眼は、見た相手の体内の数十箇所を対象に、バラバラの方向へ重力を掛け、三半規管を狂わせて、強制的に酔わせる。

 この力を行使されれば、いとも容易く体の自由を奪われてしまうのだ。


 いたずらにこの魔眼を使わないと己に誓うために、普段は眼帯をしていたのである。

 エルアナの気持ちを知っているフレイシアは、それを目にしたリルバの気持ちを確かめずには居られなかった。

 ミーランも耳を傾け、リルバの返答を待っている。


「何を怖がるって? エルは力を制御してるんだろ? 大切なものを守るために使ったんだろ? 怖がるわけ無いじゃないか」


 フレイシア達の不安などくだらないとでもいうように、リルバはあっさりと言った。


「そっかぁ」

「安心したの」

「あんたらは本当に心配症だな」


 あっけらかんと笑うリルバの表情には何の違和感も無かった。


 しかし、エルアナはそんなやり取りは知らず、悶え苦しむ男達を見下ろしながら、少し冷静になり、魔眼を閉じ、眼帯を着け直した。

 

「ごめんね皆、怖がらせて……ごめんね」


 守るためとは言え、こんなものを見せてしまったのだ。

 もう、友達では居てくれないだろうと、そう思った。

 涙を抑え、そう言ったエルアナだが、後ろにいる子供達を振り返ることは出来なかった。

 そして、未だ苦しんでいる男達を連れてここから去ろうとした時。


「ううん、エルちゃんすごかったよ!」

「やっぱり、冒険者はかっこいいね!」

「警備隊の詰め所につれていくの? いくらエルちゃんが強くても、三人はもてないとおもうよ?」


 と、少女達の言葉は、至って明るく、何より、普段と変わらない、暖かさがあった。

 エルアナを怖がっているものなど一人も居なかったのだ。

 よく周りを見渡してみれば、目をそらしていた一般人達も手を叩いて、エルアナをたたえていた。


「――ハハッ! さすがあたしの妹達だ!」


 そんな少女達を見て、リルバは愉快そうに笑っていた。


「なんかすごい町なの……」

「よかったね……エル……」


 賞賛こそすれ、エルアナを畏怖する者が居ないことは、フレイシアとミーラン、それにエルアナには嬉しい誤算だった。

 終始見守っていたフレイシアとミーランは安心して、また、瞳を潤ませていた。


「怖く……ないの……?」


 恐る恐る振り返るエルアナだが、少女達はにこやかに笑っているだけだった。

 

「う……うぅ……ッ!」


 安心したのか、エルアナはその場にへたり込み、涙を流していた。

 少女達は、そんなエルアナに近づいて、頭をなでたり、肩を叩いたり、背中を擦ったりと、甲斐甲斐しく慰めていた。


 少しして、なんとか立ち上がれる様になった男達は、一部始終を見ていた住人に罵声を浴びせられながら、ヨタヨタと逃げていった。

 

 そして、男達が角を曲がった所で、何も無かった目の前に、三人の黒服の女性たちが突如現れた。


「お兄さん達、ちょっとツラ貸してもらいましょうか」

「ただで帰れるとは思わないで欲しいの」

「あたしらが出口に案内してやるよ」


 凄まじい怒気を孕んだ三人の黒服の圧倒的な威圧に、男達は為す術無く囚われたのである。


 その後。

 黒服の怖いお姉さん達に連れられて、男達は何処かへと消えていったのだった。


Tips:エルアナは知らない町でもお買い物にいける。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
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