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取り戻した平穏

 ガジルとギルドマスターであるメイリア・ルーンが執務室での話を終えた頃、フレイシア達は、宿の食堂で少し遅めの朝食を摂って、今は部屋で寛いでいる。

 時刻はもうじき午前十時。

 食堂で鉢合わせしたリルバも部屋に呼び入れ、四人で集まっていた。


「あんた……本当に大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないの……リルは薄情者なの」


 目の下に隈を作ったミーランを気遣ったリルバだが、昨夜、救いを求めたミーランの手を取らず、そそくさと宿に戻って行ったことを、ミーランは根に持っていた。

 余談だが、昨夜の宴会を堺に、ミーランとエルアナも、リルバを愛称で呼ぶようになっていた。


「いや、悪かったよ。でもな、心配をかけた者は、それなりのケジメを付けないといけないのさ」

「むぅぅ……」


 悪いとは思っていたリルバだが、至って真面目にミーランを諌める。

 リルバは、仇を前に我を忘れていたミーランが、どこか自分と重なって見えて、少し親近感を覚えているようだ。

 リルバの仲間を殺めたのは氷のスプリガンであったが、もとを正せば、それを操っていたのは聖者の怒り(ヴォルケーノ)であり、そういう意味でも、ミーランに対して、他人とは思えない感情を抱いている。


「昨日ミィお姉ちゃんはなんでもするって言ってたもん。ね、お姉ちゃん」


 そんなことを言ってフレイシアに同意を求めるエルアナは、リルバの膝の上に座っている。

 すっかり懐いているようだ。


「そうそう、あれくらいで許してあげたんだから、むしろ感謝して欲しいよ」

「……アンフェアーなの。あんなのひどすぎるの」


 まだ文句を言っているミーランを見て、フレイシアはそっと筆を取り出した。


「おや~? まだ反省が足りないのかな~?」

「――ヒッ!? ちゃんと反省してるの! それを持ち出さないで欲しいの!!」


 一体この筆で何をされたのか、それは彼女達だけの秘密である。


 それはさておき。


「ねえ、リル。女将さん達とはちゃんとお話出来たの?」

「まあな、女将さん達とは……」

 

 リルバは、昨夜あったことを話して聞かせた。

 一足先に宿屋に帰り着いたリルバは、その帰りを待っていた女将を初めとした従業員に迎えられた。

 林での戦闘が行われていた頃には、この宿にもスプリガン出現の報告が届き、リルバが飛び出していった事も伝わっていたのだ。

 その情報を得てからというもの、従業員一同、ろくに仕事が手につかないほどにリルバを心配していた。

 そして、日が暮れた頃にやって来たメイリアの使いのギルド職員によって、リルバの無事が知らされた事で一度落ち着きを取り戻し、残っていた仕事を大急ぎで終わらせて、普段、夜の九時には帰宅していた従業員も宿に残り、リルバの顔を見ることを楽しみに待っていたのだ。


 フレイシア達が宿に帰り着いた頃には、皆が食堂で談笑しており、邪魔をしないように、こっそりと部屋に入り、ミーランを部屋に設置したドールハウスに叩き込んで、筆を使ったということである。


 いや、その話はともかくとして。


 リルバは、これまで心配を掛けたお詫びと、待っていてくれた礼を言ったのだ。

 黙って話を聞いていた従業員達は、それぞれがリルバを労い、少しは自分達を頼れと叱責もした。

 それが嬉しくて、リルバの頬にも涙が伝い、そして女将さんに抱きしめてもらったそうだ。


「とまあ、こんな感じだよ」


 話をしていたリルバは、ほんのりと頬を赤らめながら、そう締めくくった。


「そっか、皆いい人達だね」

「グッドプレイスなの」

「エル達の事も頼っていいんだよ?」

「……ありがとな!」


 照れ隠しにエルアナを撫でながら、リルバはニカッと笑っていた。


 それから少し雑談して、これからの話しになった。


「ねえリル、しばらくは私達と一緒に依頼受けない?」


 フレイシアがリルバを部屋に呼んだ本題はこれであった。

 フレイシアの本心としては、自分たちのパーティに入って一緒に旅をして欲しいと思っている。

 しかしながら、昨日、この町の冒険者達と共に涙を流し、笑い合うリルバを見てしまった。

 この宿で働く者達の笑い声も聞いてしまった。

 そんな彼女を引っ張り込むのは野暮であると感じたフレイシアは、せめてこの町にいる間だけでも、共に活動したいと思ったのだ。


「ああ、そうだな。あんたらが良いって言うなら、そうさせて貰おうかな」

「やったぁ~! よろしくねぇ~」

「よろしくなの」

「よかった、よろしくね、リル!」


 そんなリルバは、この提案をあっさり快諾した。

 一時的とは言え、共同で活動出来ることを、フレイシア達は素直に喜んだ。

 そして、膝の上から自分を見上げ、無邪気な笑みを向けるエルアナを一つ撫でて、リルバも応える。


「よろしくな!」


 その後、フレイシア達四人は早速ギルドに向かった。

 スプリガンの件を片付けたばかりなので、依頼を受ける事はしないが、昨日報告した件が気になっていたためである。

 フレイシア達がギルドの扉の前まで来ると、中から賑やかな声が聞こえてきた。

 昨日の騒ぎとは違い、明るいものである。

 まさか、今まで宴会をしていたのかと訝しむフレイシア達は、扉を開け、中に入った。


「流石に宴会してたって訳じゃないみたいだね」

「今日はどうしたのかなぁ?」

 

 彼女達が中を見渡せば、カウンター側に集まっている冒険者達が目についた。

 気になって近づいていけば、その中心に居たガジルがフレイシア達を見つけ、近づいてきた。


「おう、お前らじゃねえか。今日ぐらいゆっくり休んでりゃあいいのに」


 あれだけの大立ち回りをしたのだからと、フレイシア達を気遣うガジルだが、どこか昨日と違うような違和感を感じて、フレイシア、ミーラン、エルアナは首を傾げた。


「おやっさん、それ!」


 そんな中、リルバは目ざとく、ガジルの左手首に嵌めてある銀のブレスレットを見つけた。


「ああ、これか。実はな……」


 特に隠すようなこともないので、ガジルは四つ星冒険者になったことを告げた。

 今回の騒ぎは、フレイシア達がまだ部屋で歓談していた頃に、ギルドで発表された四つ星への昇格が元で、ガジルは他の冒険者達に囲まれ、お祝いを言われていたのだ。


「さすがおやっさんだな! おめでとう!」

『『『『おめでとう!』』』』


 リルバを初め、元パーティメンバー達が宿るペンダントからも、祝福の声がした。

 それがガジルの琴線に触れたのか、昨日から緩みっぱなしの涙腺から、またしても涙が溢れ出していた。


「ありがとな、お前ら……ありがとな」

「「「「「……親ばか」」」」」


 そんなガジルを見ていた、取り囲んでいる冒険者達から一斉に呆れられた。


「っせ~ぞ、てめえら!!」


 ガジルは照れ隠しに怒鳴りつけて、冒険者達は茶化しながら散らばっていった。


「ったく、あいつら……」

「まあまあ、でも、おめでとうございます、ガジルさん」

「おめでたいの」

「おじさんおめでとぉ~!」


 ガジルを諌めながら、フレイシア達も祝福した。


「おう、ありがとよ!」


 それで、と、ガジルは話を戻す。


「今日はどうしたんだ?」

「昨日報告した件はどうなってるかと思いまして」

「あー、その事か」


 執務室に呼ばれた際、ガジルは少し話を聞いていたようだ。


「マスターが愚痴ってたぜ、ニュービーがスプリガンを倒して、しかも聖者の怒り(ヴォルケーノ)に手傷を追わせて追い返したって事を、本部の連中が疑ってるんだとさ」

「あ~、なるほど……」


 この件に関しては、メイリアが本部に話を着けるまで、もうしばらく掛かりそうである。


「それとな、リルバ」

「ん、なんだい?」

 

 突然真剣な顔で話を振るガジルに、リルバは疑問符を浮かべる。


五色精霊(フィフス)の件は、あんまり口外するな」


 五つの精霊を宿すということは極めて異例であり、いらぬトラブルに巻き込まれないためにも、ガジルは忠告せずには居られなかったのだ。


「……そうだな、気をつけるよ」

「おう」


 ぶっきらぼうにそう言って、この話はここまでとなった。


「にしても、すっかり仲良くなったんだな」


 四人揃ってギルドへやって来たことからも、それは決定的である。


「はい! しばらくは一緒に活動することになったんですよ!」


 それを聞いて、ガジルは少し寂しそうな表情をしながらも、すぐにいつも通りに戻った。


「そうか、仲良くしてやってくれよ! リルバも、あんまり迷惑掛けねえようにな」

「もちろん!」

「おやっさんは心配しすぎなんだよ」


 親離れしていく子供を想う様なガジルの心境は知らず、フレイシアもリルバも、至って明るく振る舞う。


「これなら依頼は達成でいいな! 完了の手続きも済ませちまおうぜ」

「ん? 依頼ってなんだい?」


 フレイシア達が初めて受けた依頼、それは、リルバの心を開かせ友達になること。

 もちろんリルバはそんな話は聞いていなかったのである。


「やっぱり報酬なんて貰うのは、悪い気がしますね」

「何言ってんだ、俺達からの気持ちだからよ」


 と、リルバを置いて話を進める二人。


「なあ、おやっさん……フレイシア……」

「おん?」

「はえ?」


 いつのまにか、顔に影の差したリルバに名を呼ばれ、二人はとぼけた返事を返す。


「……あたしは聞いてないんだが!?」

「「えっ……あ~……」」


 言われてみれば、今ここでこの話をするのはまずかったかもしれないと、事ここに至ってようやく気がついた二人。


「お、俺達はただ……お前を心配して……だな……」

「リルバさ~ん……これはですね……話の流れで……ですね?」


 そしてリルバは言霊を結ぶ。


「ホムラ……《モード・サラマンダー》」

『ぬえぇっ!? しょ、正気か、(あるじ)!?』

「正気だァ!」


 どう考えても正気ではないが、ドスの利いた声でそう言われてしまえば、ホムラに抵抗は出来なかった。

 心の中で手を合わせながら、ホムラは魔装を発現させる。


「「な、なんとおおおぉー!?」」


 体の各部に赤い鱗を窺わせ、赤黒い特攻服を身に纏ったリルバは、ガジルとフレイシアのそれぞれのこめかみを両手で掴んで握りしめる。

 灼熱のアイアンクローである。


「「痛い痛い痛い痛い! 熱い熱い!!」」


 とはいえ、それなりに手加減しているのと、ギャグパートであるため、傷は残らない。

 そうとは知らない他の冒険者達は震え上がっている。

 ミーランとエルアナも体を寄せ合い、ガチガチと震えていた。


「あたしを何だと思ってんだああああぁぁ!!」

「「す、すいませんしたーっ!」」


 平穏を取り戻したブレの町のギルドには、明るい悲鳴が木霊するのだった。


Tips:ミーランの空間魔法は宙属性。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
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