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囚われていた者達


「落ち着いたみたいだね、ミィはガジルさん達のところまで下がって休んでて」

「オーライなの。シア、大好きなの」


 そう言って、ミーランはもう一度フレイシアを抱きしめて立ち上がった。

 腰に下げたポーチ型のマジックバッグから布を出したミーランは、残されたダビー・ロンドの右腕の手首に布を当て、その上から掴んで、血抜きをしながらガジル達、三つ星冒険者達が控える後方へ向かった。

 はたから見ると、かなりショッキングな映像である。


「お、おい。そりゃあ……」


 ミーランを迎えたガジルも、その腕を見て少しひいていた。


「ヴォルケーノのエンブレムなの」


 ミーランは短く答えた。

 そう、この腕の肩には、公には知られていない、ヴォルケーノのエンブレムが刻まれている。


「なに!? ヴォルケーノのエンブレムだと!? これが……」

「すげぇ、初めて見た」

「随分皮肉めいたエンブレムですねー」

「大手柄じゃない、ミーちゃん!」


 初めて目にするそのエンブレムに、ガジルを始め、エバンズ、マルティ、パトラス達も、それぞれの感想を口にする。

 ミーランが手に入れたこのダビーの右腕によって、とうとう犯罪集団“聖者の怒り(ヴォルケーノ)”のエンブレムが、白日の元に晒されるのである。

 これまで、その実体を殆ど掴ませなかった裏組織の情報は、とてつもない価値を持っていた。

 そしてガジルは、ある疑問を口にする。


「てこたぁ、ヴォルケーノがスプリガンを操っていたってのか? いったい何のためにだ」

「おやっさんにも分からないんじゃあ、俺達に聞かれても分かんねえよ」


 古株であるガジルでさえ、その行動の意図を測りかねており、エバンズ達中堅冒険者には到底想像もつかないことであった。


「とにかく、帰ったらすぐにマスターに報告しなくっちゃねぇ」

「ですねー」


 パトラスが言うマスターとはギルドマスターの事である。

 各地に散らばるギルドマスター達は、嘗て五つ星以上のランクを持っていた者達であり、もしかすれば、何か情報を握っているかもしれないと言うのだ。


「ミー達はニュービーだから説得力が無いと思うの。報告の時、は口添えして欲しいの」

「おう! 任せときな!」


 冒険者登録をして一ヶ月も経っておらず、実績すら無いために、ガジルに口添えを頼んだミーランであった。


◆◇◆


 そして、スプリガンを見据えるフレイシア達は。


「多分、生命核(コア)さえ破壊してしまえばいいと思うんだよね」

「そもそも、なんでこいつらにはコアがあるんだ?」

「さぁ……」


 スプリガンとは宿主を失った守護精霊である。

 本来は、その宿主の命こそが、守護精霊にとってのコアであるはずだった。

 ところが、スプリガンは何らかの理由でコアを手に入れ、独立して行動している。

 リルバはその理由が知りたかったのだ。


「いつまでも考えてても仕方ないね」

「そうだな、氷の方はあたしにまかせてくれるんだろう?」

「うん、新しく来た二体の方は私とエルで相手するね」

「ああ、分かったよ」


 元々居た氷のスプリガンはリルバが、そして新たに出現した二体のスプリガンは、フレイシアとエルアナが、それそれ相手をすることに決まった。

 その旨をエルアナにも念話で伝えた所で、エルアナは三体の動きを抑えたまま少し移動する。

 場所は、氷のスプリガンと二体のスプリガンの中間辺りだ。


「リル。まだ覚醒した力に慣れてないだろうから、気をつけてね」

「分かってるさ、ありがとう、シア。ケリをつけてくるよ」

「うん」


 リルバは因縁に決着をつけるべく走り出した、途中すれ違う際に、エルアナが片手をあげたものだから、バトンタッチと言わんばかりに、手を叩いていた。

 そうしてリルバを見送ったエルアナは、氷のスプリガンに掛けていた重力を戻し、開放した。


「まずは注意を引かないとな。ホムラ、武器は出せるか?」

『無論だ。だが主よ、はっきりと具現化させるには、少し時間が掛かるぞ。今回は炎で仮の武装を象ってみてはどうか』

「なるほどな、今回はそれでいこう」


 開放された氷のスプリガンの元へ走りながら、リルバとエレメントのホムラは戦略を練っていた。

 ホムラとの軽い打ち合わせを終えたリルバは、左手に赤黒い炎の盾を、右手にも同じく剣を作り出した。


 その様子を見ていたエルアナは、フレイシアに向き直った。


「シアお姉ちゃん、こっちはどうするの?」


 と、この二体のどちらを請け負うのかとフレイシアに聞いた。


「うーん、やっぱりリルの事が気になるから、こっちはこのまま終わらせよう」

「そうだね、じゃあお願い、お姉ちゃん」


 力の扱いに慣れていないであろうリルバに万が一の事があっては寝覚めが悪いので、エルアナが重力魔法で押さえつけている内に、フレイシアがトドメを指すことに決まった。


「『涼風の双翼(クール・ブリーズ)』」


 フレイシアはまず、魔装の翼を出現させた。

 スプリガンは地面に体をめり込ませるほどに低い体勢をしているため、フレイシアの武器では少々狙いづらい、だからフレイシアは、スプリガンの頭上から攻撃をするつもりのようだ。

 

「雷の虎と……猿っぽい方は土の属性なのかな? ――うわっと!?」


 ところが、フレイシアが頭上に現れた途端、二体のスプリガンも抵抗を見せる。


 体が半分ほど地面にめり込んでおり、今までははっきりと窺うことが出来なかった二体のスプリガンの姿、頭上に移動したことで、はっきりとその姿が見えた訳だが、下手に近づいてしまったフレイシアは、危うく攻撃を受けそうになり、再び距離を置いた。

 エルアナが押さえつけているのは、雷を纏った虎型と、今フレイシアに地面から伸ばした岩の棘で攻撃を仕掛けてきた、猿型のスプリガンである。


『シア、油断しすぎ』

「ごめんユイ、だって今まで大人しくしてたもんだからさぁ」

『今までは射程外だったんでしょ? あれだけ近づいたら、そりゃあ攻撃されるよ』


 フレイシアの行動が迂闊すぎると、エレメントのユイが指摘した。


「でも、あの距離で攻撃してくるのかぁ……《スノー・ナイト》と同じくらいの射程みたいだね」


 この《スノー・ナイト》は氷の弾を飛ばす二丁拳銃の魔装である。

 あまり距離を開けると着弾がブレやすいため、ある程度は接近する必要があるのだが、それは相手のスプリガンにとっても、間合いの中であった。

 これでは二体のスプリガンの攻撃を避けつつ戦わなければならない。

 フレイシアとしては、そうなったとしても勝てる自身があるのだが、今はやはり、リルバの事が気になっているようで、別の手段を使うことにした。


「ユイ、《縁日の夜(サマー・ナイト)》を使うよ」

『ほいほい~』


 フレイシアはレッグポーチ型のマジックバッグから、新しい武器を取り出した。

 それは、白を基調としたボディに真っ青なグラデーションが美しい、空圧式マスケット銃|《縁日の夜(サマー・ナイト)》である。


 これは、フレイシアが十歳の誕生日の際にミーランが贈った魔道具で、幼少期にフレイシアに聞かせてもらった、夏祭りの射的にヒントを得て作られている。 

 弾は一発ずつしか射出できないが、その精度と貫通力は確かなものであり、片手で打てるスナイパーライフルのような性能だ。


 この銃に込められるのは、《スノーナイト》よりも縦長の弾で、トリガーを引く事で発動する魔法陣が空気を弾けさせ、弾を飛ばす。

 さらに、銃口から真正面の空間には自動的にポイントが設定され、当時より改良されたこの銃は、およそ六十メートルまでは確実に狙うことが出来る。


 ミーランがこの銃を改良するにあたり、ポイントを設定する際、『ミーランの領域(レギオス)』を発動させて正確な位置を割り出しているため、この距離になっている。

 ちなみに、スコープなどという気の利いたオプションは着いていないが、肉眼で見える範囲でしか使うことがないフレイシアにとっては、十分な性能であった。


生命核(コア)がある場所は大抵決まってるから、これでいけるはず……」


 フレイシアはそう言って、更に上空から、猿型スプリガンへ狙いを着ける。

 まずは頭、そして胸元、鳩尾、腹と順番に狙い撃ち、見事に、そのどれかが生命核(コア)を撃ち抜いたようで、猿型スプリガンは、為す術無く崩れ落ちた。


スプリガンの体には肉感がないためか、フレイシアはあまり抵抗なく攻撃を加える事が出来た。

 

 そして、続けて虎型スプリガンへ狙いを着けようと銃口を向けたフレイシアだったが――


「何……今の、声……」


 フレイシアの耳には、か細く、儚げな複数の声が聞こえていた。

 その声は、ありがとう、ありがとうと、繰り返し、フレイシアの耳に響いていく。

 何事かと思い、辺りを見回すフレイシアは、その正体に当たりをつけた。

 それどころか、確証を得ていたのだ。

 というのも、先程倒した猿型スプリガンの体から、複数の小さな光が、現れては消えていたからだ。


「――ッ!? あれは……」


 それは、スプリガンの手に掛かった者達の下位精霊(ウィスプ)だった。

 下位精霊(ウィスプ)達は取り込まれ、囚われていたようだ。

 

『この子達は、主と共に死ぬことも許されなかったんだね……』

「こんなの、許せない」


 ユイは、同じ守護精霊として、同情を禁じえなかった。

 そしてフレイシアは、守護精霊達に、このような仕打ちを与えた聖者の怒り(ヴォルケーノ)に対して、怒りを覚えていた。


『多分スプリガンは、他の守護精霊を喰らって力をつけていたんだよ……』

「だからヴォルケーのは人を襲わせていたのかな……力を付けさせてどうするつもりだったんだろう」

『それは分からない、でもシア、今はとにかく開放してあげて』


 他の守護精霊を取り込むことによって、スプリガンは成長するのではないかとユイは分析した。

 それを促しているヴォルケーノの思惑が、フレイシアには測りかねている。

 そんなフレイシアに、ユイは虎型スプリガンに捕らわれている守護精霊達も開放して欲しいと懇願した。


「そうだねユイ。考えるのは後にしよう」

『待っててね、すぐ自由にしてあげるからね』


 フレイシアは息を整えて、再度、虎型スプリガンへ銃口を向ける。

 先程同様、ピンポイントで数か所を打ち抜き、その体内に隠された生命核(コア)を撃ち抜いた。

 虎型スプリガンが動かなくなった事を確認したフレイシアは、その亡骸の元へ降り立ち、静かに黙祷を捧げた。

 

 程なく、やはり先程のように、その亡骸から、複数の下位精霊(ウィスプ)が、現れては大気に溶けるように消えてゆく。

 その下位精霊(ウィスプ)達の声を聞いていると、フレイシアは目の奥がじんわりと熱くなったような感覚を覚えた。


『ありがとう、シア。これで皆、主の所に行けたと思う』

「少しは……救いになったのかな……?」


 答えのない、そんな疑問だけが残ってしまった。


 その後フレイシアは、打ち抜き、砕けたスプリガンの生命核(コア)と、スプリガン化した際に生成されたであろう、魔石を拾い集めた。

 そしてこの魔石は、守護精霊が、心身共に、モンスターになっていた証でもあった。

 欠片と魔石を拾い集めたフレイシアは、エルアナの元へ向かう。


「お姉ちゃん、お疲れ様」


 エルアナにも下位精霊(ウィスプ)達の声が聞こえていたようで、少し元気がない。

 フレイシアは、そんなエルアナの頭に手を乗せて、優しく撫でながら口を開く。


「ありがとうエル。大丈夫だよ、皆きっと、主の元に、帰れたと思う」

「そうだよね、そうだといいなぁ」


 下位精霊(ウィスプ)が消えていった空を見上げながら、二人は冥福を祈った。


Tips:フレイシアの胸はミーランに育てられた。


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エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
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