繋ぐ力
今更気が付きましたが、ディアブロがディアボロになっていました。
知らない間に脳内変換されていたようです、お恥ずかしい……。
きっと昔カレイドスターが好きだった弊害です、きっとそうです……。
勘違いに気がつくのに半年位かかりました(´;ω;`)
「おお……結構当たったよ、ユイ……」
『そうだね、今の登場シーンは結構かっこよかったと思うよ?』
「そ、そうかな?」
颯爽と現れ、ガジル達に迫った氷柱の弾幕の殆どを撃ち落とし、場の視線を独り占めにする圧倒的な存在――に見えるフレイシアは、ボソリとそんなことを言っているが、シンと静まり返るこの場では、その声はよく響いた。
「マグレ感が半端ねえが……助かったぜフレイシア」
「マグレでもかっこよかったわよ~ん、シアちゃ~ん!」
「マグレだろうが、あの魔力は確かにすげぇな」
「マグレっぽくても、あんまり言っちゃあ可愛そうなんですよー」
「皆してマグレっていわないでよ!!」
冒頭のユイとのやり取りによって、結果、絞まらない登場となってしまったフレイシアであった。
「コホン!」
微妙な空気に居心地を悪くしたフレイシアは、わざとらしく一つ咳払いをして、ガジルと盾持ち冒険者の前に降りてきた。
「ここは私が押さえるから、ガジルさん達は怪我人を連れて行ってあげて!」
「だ、大丈夫なのか?」
「無理しなくていいんだぞ?」
改めて格好つけてこの場を引き受けようと買って出るフレイシアだが、ガジルも盾持ち冒険者も、どこか心配そうな視線をフレイシアに向けていた。
「――大丈夫だよ! いいから早く行って!」
「お、おぅ……」
目尻に涙を浮かべるフレイシアの抗議に気圧されて、時折、肩越しにフレイシアに視線を向けるガジル達だったが、滞りなく後方へ撤退を行った。
「クソッ……中々やるじゃないか……!」
そんなフレイシアは、まだ何もしていないスプリガンに八つ当たりをする始末である。
心なしか、スプリガンの表情にも、僅かに哀れみが見える気さえする。
「はぁ……何やってんだいあいつは……」
『ごしゅじん、げんきになったー!』
遠目に見ていたリルバにしても、気が抜けてため息までついている。
しかし、リルバについていた小結隊の一匹は、元気そうなフレイシアが見れてご満悦である。
そうこう言っているうちに、各地に散っていた小結隊も合流し、当然のようにリルバの膝の上に、ちょこんと座って寛いでいる。
「あんた達は行かなくていいのかい?」
『りるばまもるー』
『ごしゅじんのめーれー』
『りるばあったかーい』
『な~ご~む~』
『ス~、ス~……』
とんでもなく寛いでいる小結隊。
すでにこの場には、戦場らしい空気は残っていなかったのである。
立ち尽くすスプリガンは、その光景を見ていた。
主と共に戦うエレメントの姿を、エレメントと戯れる者の姿を、ただ見つめていた。
それは、憧れた光景。
いくら求めても、手に入らない光景であった。
――ギィィィヤァアアアアァァァァァァ!!
初めて見せるスプリガンの咆哮。
募る憎悪が、スプリガンの本性を露わにする。
やり場のない魔力が溢れ出し、その殺意は、目の前のエレメンターに突き刺さる。
が。
「すごい殺意だね……どうして君は、そんな風になっちゃったの……?」
そんな殺意を受けても、フレイシアは怯むことはなかった。
性質上、人の心に触れやすいフレイシア。
彼女はスプリガンの殺意を受け、その中にある深い悲しみを感じ取った。
しかし、力を暴走させるスプリガンには、そんな言葉は届かない。
「……仕方ないね」
やむを得ず、フレイシアはスノーナイトを構える。
オートマチック型ニ丁拳銃スノーナイト。
これは、フレイシアが初めて作った魔装で、連射と単発を切り替えて使える。
銃の見た目こそ知っていたフレイシアだったが、その構造は知らなかったため、ユイに保管してもらい完成した。
とはいえ、やはり、その構造は違う。
スノーナイトのマガジンには十二発、弾が装填されており、撃ち尽くしたら、ユイがフレイシアの魔力を使い、新たに弾を装填する。
この弾は先細りになった氷で作られており、その後部には魔力そのものが詰まっている。
トリガーを引くことで、弾に詰められている魔力で風の魔法が発動し、膨れ上がり、その空圧によって、弾が発射されるのだ。
スノーナイトは完成した当初より進化しており、当時六発までしか装填出来なかったが、今は十二発まで装填出来るようになっていて、弾自体にも改良が施されている。
当時は空気鉄砲の要量で球を飛ばしていたが、今は弾の後部より風を噴射させることにより、超小型のミサイルのようになっており、飛距離も段違いである。
そして何より、弾に使われている氷の強度も半端ではない。
難点があるとすれば、しばしば、着弾点がブレることである。
しかし、中距離での威力は、それを補って余りある。
フレイシアは、この中距離の戦闘を得意としている。
しばし向き合ったフレイシアとスプリガン。
痺れを切らしたスプリガンが、まずは様子見と、再度、濃密な氷柱の弾幕を張る。
それに呼応し、フレイシアもスノーナイトの連射で、ほぼすべてを撃ち落としていく。
手数ではフレイシアが圧倒しているため、適当にバラつかせて発射すれば、どれかが当たるのだ。
そうして、第三ラウンドが始まる――と思いきや、飛び交う弾幕の最中に淡い輝きが現れたかと思うと、その場にミーランとエルアナが現れた。
「み、ミステイクなの! 飛ぶ座標を間違ってしまったの!!」
「あわわわわ~! ミィお姉ちゃんのバカぁ~!」
突如として戦場のど真ん中、この戦場で最も危険な場所に出現した二人は、何やら叫びながら、両手で頭を抑えて、あわあわ、ジタバタと走り回っている。
そんな危険地帯で走り回っているというのに、二人には傷一つ無い。
「なんでアレで当たんねえんだよ……」
「つーかどっから出てきたんだっての……」
「えるちゃ~ん! アタシはここよ~ん♪」
「もー、あの子達どうなってるんですかー……」
「はあぁ……なにやってんだか……」
見ていた冒険者達も呆れ返っている。
折角張り詰めた緊張感は、欠片もなくなってしまった。
「ミィ! エル! なんでそんなとこに!? っていうか早くどいて! 危ないよ!!」
攻撃の手を休める訳にもいかないフレイシアは、どうやってか出現した二人に、早々に避難するように告げる。
「し、シアの懐中時計にマーキングしておいたの! エル! 急いで撤退なの~!」
「バカ、バカ! ミィお姉ちゃんのばかあああぁぁ!!」
あたふたする二人は、弾幕を避けながら蜘蛛の子を散らすように、迅速に撤退した。
危険地帯から脱した二人はフレイシアの元へ駆け寄って行く。
「ふぅ……なの。さっきまでは戦ってないみたいだったから、いけるとおもったの……」
「ミィお姉ちゃん……後でお仕置きだからね……」
ギルドにて情報収集をしていた二人は、フレイシアの気配から、おそらくは林に到着しているであろうことを察した。
そして、この場に現れた方法だが、これはミーランの魔装の能力の一つである。
今ミーランが手にしている白く分厚い魔導書。
その名は、|《グリモワールver.white》。
このグリモワールの各ページには、様々な魔法陣が描かれており、ページを切り替えることで、発動に時間の掛かる魔法も瞬時に行使できる。
今回使ったのは、その中の一つで、アイテムボックス。
この世界で作られた、オリジナルのアイテムボックスだ。
一般に普及しているマジックバッグは、鞄の中の空間を拡張してあり、入り口に手をいれるか、自らが中に入り、中身を取り出す必要がある。
しかし、ミーランが考案したこのアイテムボックスなら、手を触れずとも、ある程度の位置を指定して中身を取り出すことが出来る。
このアイテムボックスを再現して魔道具可させたのが、ミーランの母親である錬金術師のカレットである。
ともあれ、このアイテムボックスなら、出入り口を複数設定することが可能で、一度収納したミーランとエルアナを、こっそりとフレイシアの懐中時計にマーキングしておいたポイントを出口とし、瞬時に取り出す事で、空間移動を実現させたのである。
そして、ギルドに残されたグリモワールは、持ち主が離れた事によって、魔力に戻り、空中に霧散して消えている。
「……聞いてないんだけど」
「今言ったの!」
ドヤ顔である。
「エル、後で一緒にお仕置きしようね!」
「うん!」
フレイシアの誘いに、エルアナは天使の様な満面の笑みで答える。
「待って欲しいの……ミーは、シアのピンチに駆けつける……為に……なの……なの……」
後に待ち受けるお仕置きを想像し、徐々にしりすぼみになっていくミーランであった。
「まあいいや。二人が来たんならちょうどいい」
「――なんでもするの! だからお仕置きは無しなの!」
(……! エルは確かに聞いたよ……)
何やら頼み事をしたそうなフレイシアを見て、名誉挽回を図るミーランは即座に応じる。
そして、その隣でほくそ笑むエルアナ。
「ちょっとここをお願いしていい? 大事な用があるんだ」
「この状況でお出かけなんてどういうことなの……」
さすがのミーランでも、スプリガンとの撃ち合いの途中で何処かに行くなどと言われても、理解ができなかったのだ。
「いや別に、お出かけするんじゃないよ? ちょっとリルバさんのとこにね」
「あー、オーライなの。なら、スプリガンは倒さないでおくの」
「うん、お願いね」
言葉足らずの二人だが、長く付き添った甲斐もあって、通じているようだ。
そして何故か、ミーランがリルバの元へ走っていった。
特に話したことの無いリルバは、ミーランを見て首をかしげる。
「アンタ、フレイシアの仲間だろう? あたしに何か用かい?」
「ミーじゃないの。シアが用なの」
もしかしたら自分を呼びに来たのだろうかと思うリルバだが、まだ立って移動す出来るほどには回復していなかった。
「済まないが、まだ歩けそうに無いんだ」
「オーライなの。シアが来るの」
「ん?」
「『ミーランの領域』」
「おわっ!?」
突然の魔法の発動に驚いたリルバ。
ミーランが使った魔法、レギオスは、ミーランの魔装|《魔導錬金の白衣》から、粒子状の魔力を放射状に散布することによって、約半径六十メートル圏内を完全把握できるというものだ。
そしてなにより、フレイシアの調律により同じ波長を持つこの三人は、レギオスで展開された魔力を、自分の魔力のように扱うことが出来るのである。
「じゃあカウントするよ~!」
ほくそ笑んでいたエルアナも、気を取り直して、連携に参加する。
とは言え掛け声だけだ。
「5,4,3,2,1!」
「「スイッチ!」」
エルアナのカウントダウンを切っ掛けに、フレイシアとミーランが共鳴し、三十メートル程離れたその立ち位置が入れ替わる。
ミーランは最前線へ、フレイシアはリルバの目の前に移動した。
「おかえりお姉ちゃ~ん」
「ただいまなの」
そんな気の抜けた挨拶を交わしながらも、エルアナとミーランは氷柱の弾幕を処理していく。
二人の役割は、スプリガンをここに足止めするだけ。
フレイシアは、二人がスプリガンを倒すことを望んでいなかったためだ。
そして後方。
リルバの目の前へ転移したフレイシアは。
「――!? フレイシア!? どうやって……ああ、いや、それはまあいいか。それより、来てくれてありがとう、たすか――(パン)!」
黙ってリルバを見つめていたフレイシアは、座り込んでいたリルバの言葉を聞きながら目線をあわせ、そして、両手でリルバの両頬を挟むように叩いた。
「にゃ、にゃにすうんだ……」
両頬を挟まれたままのリルバは呂律が回らないままに、フレイシアに抗議する。
「にゃにじゃあないよ、にゃにじゃあ!」
いつかのリルバのように、フレイシアはリルバに怒鳴りつける。
にゃにと言っているのはフレイシアのせいなのだが、それは置いておくようだ。
「こんなとこに一人で来て! ほんと心配したんだからね! なんで呼んでくれなかったのさ! もう友達だと思ってたのに!!」
怒っているのか泣いているのか分からない瞳で、フレイシアは真っ直ぐにリルバを見つめて、そう言った。
「ふえい……しあ……」
フレイシアの真剣な表情に気圧されて、リルバは言葉が出ないでいた。
そしてフレイシアは、リルバの頬に置いたままの手をどけて、正面から腰に手を回し抱きしめた。
「ちゃんと生きてるよね……ここに居るよね……」
その存在を確かめるように、フレイシアはリルバを抱きしめている。
「ああ……生きてるよ……ごめん……ごめんな……」
そんな二人を、小結隊は小さな瞳をうるうるとさせ、三つ星冒険者達は顔を見合わせ微笑み、優しく見守っている。
フレイシアは少し体を離し、確信に触れる。
「倒したい?」
「……え?」
フレイシアの問いかけにリルバは呆けた返事を返す。
「自分の手で、乗り越えたかったんでしょ? そのために来たんだよね?」
「あ、ああ。そりゃあ、そうできれば一番よかったんだけど……でもあたしじゃあ、届かなかった。結局はこのざまさ……」
悔しそうにそう答えるリルバ。
しかしフレイシアは、あることに気付いていた。
「悔しそうにしてるのは……リルだけじゃないよ」
「それは……どういう……」
一瞬、他の冒険者達の事かと思ったリルバだったが、どうもそうではない気がした。
「……ウィスプが泣いてるよ」
「――!?」
ウィスプが泣いていると言う、今、近くで漂っているリルバの赤いウィスプ。
生まれたときからリルバと共に過ごしてきた下位精霊。
そのウィスプが泣いていると、フレイシアは言った。
「スプリガンを倒したい?」
改めてリルバに問う。
その覚悟があるのかと。
まだ魂は燃えているのかと。
リルバの答えは決まっていた。
「倒したい! あたしはアイツを倒したいんだ!!」
「……わかった」
リルバの返答を聞いたフレイシアは短く答え、身に纏う魔力の質が変化していく。
その魔力はリルバの体を優しく包み込み、その温もりは、リルバの心を満たしていく。
「『歪みの飽和』」
フレイシアは言霊を紡ぎ、魔法を発動させる。
調和の資質を持ったフレイシアの特異魔法の一つ。
その魔法は、噛み合っていない精霊と宿主の波長を調律する。
リルバには兆候があった。
それは覚醒の兆し。
前日にリルバと触れ合った時から、フレイシアは感じていた。
切っ掛けさえあれば、僅かな刺激を与えさえすれば覚醒する程に。
その切っ掛けを、フレイシアは与えることが出来る。
だからフレイシアは問うた。
敵を倒す力が欲しいのかと、誇りを守る強さが欲しいのかと。
同じ願いを持った精霊と宿主は今、確かな繋がりを感じた。
何かが噛み合う感覚を得たリルバから、嘗て無い魔力が溢れ出す。
負傷していた手足の痺れも完全に取れ、リルバは立ち上がる。
その身から溢れる魔力は炎となり、その身を包む。
それは赤黒い炎、赤く、赤々として、黒い豪炎。
溢れ出る魔力が安定し、その充実感に浸っているリルバに対して、誰かが声を掛けた。
『ようやくだな、我が主よ』
「――ッ!?」
驚いたリルバの視線の先にいたのは、赤黒い鱗を持った、膝丈程のリザードマン。
『我は焔、炎のサラマンドラ』
――覚醒したリルバのエレメントである。
Tips:スノー・ナイトにはライフリングが無い。




