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丸い小鳥は親鳥を呼ぶ


「突っ込むぜぇ! 援護は頼んだ!!」


 まずは、ガジルが口火を切った。

 リルバとの戦闘のように、スプリガンは氷柱の弾幕を張るが、遠距離と中距離職の後衛冒険者達がその弾幕を相殺していく。


「どらあァァァァ!!」


 それにより開けた道を通って、ガジルは一気に距離を詰め、拳を叩き込んだ。

 ガジルの拳を、顔と思われる部位に受け、スプリガンは突き飛ばされた。


「男ねぇ! そんな姿見せられたら、アタシも燃えちゃうわぁ~!」

「んげぇ……てめぇ、パトラス! その気持ちわりい性格、マジでなんとかしろっての!」

「あらヤダ、エバンズったら焼いてるのぉ~? そ・れ・と♪ アタシの事はパティって呼んで!」

「うっせぇ……」


 垂れた長い耳の兎獣人(ラビッツ)であり、中性的な顔立ちで、無駄にセクシーな色気を仄めかせる魔術師の男性に、いつも行動を共にしている弓術士のエルフの男性が悪態を吐く。

 そんなやり取りをしつつも、息の合った連携で、二人は前衛組の援護を行っており、今も、突き飛ばされて仰向けに倒れているスプリガンに、火の魔法と、炎を纏った矢で追撃を加えている。

 

「あのー……お兄さん方? これって、結構命がけの戦いなんだと思うんですよー」


 パティとバンズ、ハンバーガーのように相性の良い二人のやり取りに割って入ったのは、十代後半程の猫獣人(キャッツ)の女性マルティ。

 彼女の職は介助人(メディカー)、衛生兵の様な役割である。

 この世界で回復魔法を使える者はあまり多くなく、彼女のように、多少の医学の知識を持って、メンバーの世話を焼く者の方が一般的である。

 ともあれ彼女は、リルバの手当をあら方済ませて合流したのである。

 

「おお、マルティ。リルバの具合はどうだ? こっちに合流したってことは大丈夫なんだろうが」

「さっき肩を貸した時にざっと見たけど、致命傷なんて無かったわよん」

「あっそ」

「――冷たいわぁ~!」

「えー……っとー……。コホン。細かい切り傷は沢山ありましたけどー、上手くいなしてたみたいで、跡が残る程の物は無かったですよー。ただ、左腕と左脚には随分な衝撃を受けたみたいで、もうしばらくは立てそうに無いですねー」


 相変わらずの二人の掛け合いに一つ咳払いをして、マルティはリルバの状態を告げた。


「そうか。まあ、あの位離れた位置なら、巻き込まれもしないだろう」

「――ッお兄さん方って何よ!?」

「遅ぇよ! うぜぇよ!!」

「あははー……」


 三人がそんなやり取りをしてる中、先輩冒険者達にバトンを渡し、今は後方で休んでいるリルバは、木々の間から、先輩たちの戦いぶりを見つめていた。

 自分一人では手も足も出なかったスプリガンを押さえ込んでいるその姿を見て、やはり初めから頼るべきだった、塞ぎ込んで一人で背負うべきではなかったと、改めて反省していた。


「さすがだな……あたし達も……あんな風になりたかったんだったな……」


 戦闘を見つめるリルバは、嘗てのパーティメンバー達と語り合った夢を思い出し、少し寂しそうな表情をした。

 どんな冒険者になりたい、どんな冒険をしたい、お金を溜めたらどんな装備を買いたい。

 駆け出しの冒険者なら、誰もが夢見る光景を、彼女達も思い描いていたのだ。

 

「たかだかマジックバッグ一つ手に入れた位で、随分とはしゃいでたな……」


 手荷物を圧縮出来るマジックバッグは、多くの人々が所持している。

 とはいえ、駆け出しの冒険者達にとっては決して安くない買い物である。

 その為、パーティで一つのアイテムバッグを共有することもザラであった。

 リルバ達もそうだった。

 ランクの低い依頼をコツコツとこなし、生活に必要な経費、装備の手入れに必要な経費などを差し引いて、少しずつ少しずつ溜めたお金で、ようやく手に入れた。

 嬉しいあまりにガジルにせびり、お祝いをしてもらったくらいだ。


「……楽しかったな……本当にもう……会えないんだね……みんな……」


 愛おしい過去を想い、知らずリルバは、涙を流していた。


 その時、戦場には似つかわしくない、子供の様な、不思議な声がリルバの耳に届いた。


『見つけたー、りるばりるばー!』

「――ッ!? なんだ!? 何処から……」


 突然聞こえてきたその声を探して、辺りを見渡すリルバ。

 しかし、前後左右見渡してみても、その正体を見つけることは出来なかった。

 すると、そんなリルバの前に、小さな鳥が舞い降りた。

 その様相に、リルバは既視感を覚えた。


「お前……まさか……!?」

『りるば!』


 地面に降り立ち、トテトテとリルバに歩み寄ったその小鳥は、ぴょんと跳ねてリルバの膝に飛び乗った後、器用に羽で指差して、もう一度名を呼んだ。


 リルバが驚いたのは小鳥が喋ったからではない。

 その小鳥が、昨日フレイシアに見せてもらったユイにそっく(・・・・・・)()だったからだ。


「ユイ……なのか?」


 昨日フレイシアに見せてもらったユイよりも随分と小さく、それでいて、まん丸なボディラインを見ると、どうしても首を傾げてしまう。


『ちがうー。でもそー。似たようなものー? ごしゅじんもくるー』


 あまり要領を得ない返答ではあったが、ご主人が来ると言うのは、きっとフレイシアの事だろうと当たりを付けると、リルバは不意に頬が緩んだ。


「ふふッ……あのお人好しめ」


◆◇◆


 人目を憚らず、フレイシアがギルド前から飛び立ってしばらくした頃。

 高速で飛行していたフレイシアの眼前にも、件の林が見えてきた。


「ユイ、道なりに飛んできたし、あの林で間違いないよね?」

『ん~。多分そうだと思うよぉ。ユイも初めて来るからねぇ~』

「うぅ……。急がないとリルバさんが……」


 エレメントのユイと埒が明かない会話を繰り返し、もどかしい苛立ちが募っていくフレイシア。

 言い知れない焦りが心を侵食していく中、ついに林の入り口に到着した。


「思ってたより広い……見渡しも悪い! あぁもう! 何処に居るの!?」


 国内最大の森林であるホイープ森林で暮らしてきたフレイシアにとって、この程度の林は大した広さではない。

 だが、林というから、もっとこじんまりとしていて、木々も疎らで、空から見渡せば、簡単に見つかるだろうと楽観視していたフレイシアは、ざっと見渡しても、リルバ達の居場所に検討が着かなかったことで、更に動揺してしまった。


『落ち着いてよシア。小結隊(こむすびたい)を飛ばして探せばいいでしょ?』


 そんな主を諌めるべく、エレメントのユイが妙案をだした。


「――! そうだった! お願いユイ!」

『ほいほい。おいでみんな~!』


――ポン、ポン、ポン、ポン、ポン!


 小結隊。

 エレメントであるユイが作り出す魔装の一つ。

 手のひらサイズのまん丸な子供フクロウであり、ユイの分身……ではなく、何故か、それぞれに自我がある。

 行動範囲は三km程で、同時に五体まで呼び出せる。


 ちなみに、小結隊の由来は、ユイと同じく、全体的に白い羽をしているのだが、眉間から尾羽にかけて黒いラインが有り、その小さく丸いボディラインも合わさって、後ろから見るとオムスビに見えるからと言う理由で、フレイシアが付けたのだ。

 更に余談だが、ユイを傷つけないために、この名前の由来も秘密にしてある。


『ごしゅじん怖い顔してゅ』

『きっとあの子が心配なんだお』

『ごしゅじん、わらってー?』

『おにごっこする? たのしいよ?』

『ねーごしゅじん、元気だしてー』


 顕れた小結隊のメンバー達は、普段はフレイシアの中で眠っている。

 しかし、精霊は宿主とのパスがある為、その精神状態も伝わってくるのだ。

 そういう訳で、小結隊は、主であるフレイシアの心配をし、元気づけようとあたふたしている。


「……ごめん。大丈夫だよ。それより、お願いしたいことがあるんだよ」


 小結隊に心配を掛けたことを素直に反省したフレイシアは、気持ちを切り替えた。


『整列!』

『『『『『ぴしーっ!』』』』』


 ユイの号令により、小結隊のメンバーは綺麗に整列し、器用に右翼で敬礼してみせた。

 一応は精霊である小結隊は、翼などなくとも滞空できるのだ。


『君達に司令を出す! 君達は林に入ってリルバちゃんを探して来て!』

「リルバさんは、昨日会った、赤いポニーテールの人だよ。お願いね」

『見事見つけ出せたら、大好きなご主人が元気になるぞー!』

『ごしゅじん、元気になぅの?』

『みつけるー、りるばさがすー!』

『いそごー、いそごー!』

『ごしゅじん! いってくるー!』

『ごしゅじんにわらってもらうー!』


 フレイシアが元気になるというユイの言葉に、小結隊の士気は最高潮である。


『よし! では行ってらっしゃい!』

『『『『『おー!』』』』』


 やる気に満ちた小結隊は、号令を受け、散り散りに林に散開して行った。


 風と氷の属性を司るエレメントのユイ。

 この小結隊は、ユイの司る風の成分によって構築されている。

 その為、小結隊の飛行能力は、通常の鳥とは比べ物にならない。

 なにせ、風と同化していると錯覚するほどに、器用に風に乗り、飛行出来るのだ。

 しかも小柄で小回りがきく為、偵察にうってつけなのである。


 風のようにするすると木々をかき分け、林の中をまんべんなく探索していく小結隊。

 その成果は数分で現れた。


『見つけたー、りるばりるばー!』


 林に散開した小結隊の一羽から念話が入った。

 フレイシアの魔力と、ユイの成分を受け継いでいる小結隊は、二人に念話を送ることが出来るのだが、あまり習熟していないのか、同時に口に出してしまう癖がある。


「おお! さすが小結隊だね! ユイ、すぐそっちに向かうよ!」

『うん!』


 パスが通じている彼女達は、お互いの居場所を感じ取れる。

 念話で報告を受けたフレイシアは、すぐさまリルバを見つけた小結隊員の元へ飛んで行った。


◆◇◆


 ユイに似た小鳥の登場でリルバの気が持ち直した頃。

 とうとう戦場にも変化があった。


 パトラスとエバンズが魔法と弓で、中衛冒険者達がクロスボウなどで追撃を加えていたスプリガンが、そんな攻撃屁でもないとばかりに、ノソリと立ち上がった。


「ったく……全く応えてねえってか」


 追撃中に追いついてきた、盾持ちの冒険者の後ろに控えていたガジルが、忌々しげに歯噛みする。

 よく見ると、氷の体に攻撃を食らい、削れた端から再生しているようであった。


「クソッ! これじゃあ火力が足りねえのかよ……コアを見つけねえと。おい! 攻撃をばらつかせ――うッ!?」


 スプリガンの体の何処かにあるコアを見つけるために、攻撃の着弾点をばらつかせるように指示を出そうとしたガジルだったが、その瞬間、スプリガンの反撃が始まった。

 

 それは何の芸もない力技。

 先程までの氷柱の弾幕を更に厚くし、狙いさえつけていないのではないかと思える程、手当たり次第に撒き散らした。


 スプリガンと戦うガジル達は少し開けた場所に居る、遮蔽物の少ないその場所では、木の陰に隠れて攻撃を凌ぐのが困難な場合もあり、不意を突かれた中衛の数人が負傷してしまった。


「動ける奴は脚をやられた奴を連れて後方に下がれ! 後衛は弾幕を厚くしろ! 前衛組はアイツの気をそらして撤退組を逃がせ!」


 ガジルは指示を出し、盾持ちの一人と連れ立って、スプリガンに向かって行った。


 もとより犠牲は覚悟でここまでやってきた三つ星冒険者達。

 それでもやはり、傷ついた仲間を見捨てることだけは出来なかった。

 リルバを守るため、失った後輩たちの仇を打つためにやって来た彼らだ、傷ついた仲間を見捨ててしまえば、本末転倒である。


 とはいえ、そんな気概だけで倒せるほど生易しい相手ではなかった。

 盾で凌ぎながら前進するガジル達だが、ある位置を堺に、前に進めなくなってしまった。

 スプリガンから放射状に広がっていく弾幕は、スプリガンに近づけば近づくほどに、受ける氷柱が増えていく。

 

「『ヘイル・バラージ』!」


――パパパパパパパパパパン!!


 空から声が聞こえたと同時に、空気が弾ける音と、氷が砕けるような音が、ほぼ同時に辺りに響いた。

 ガジル達を襲っていた弾幕の殆どが砕け、欠片が光を弾くその光景は、幻想的ですらあった。

 突然の出来事にスプリガンは攻撃を止め、大きな翼と、見慣れぬ武器を持ち、十数メートル上方から己を見下ろしている者へ、視線を移した。

 尋常ではない魔力を纏い、スプリガンに加え、冒険者達の意識を釘付けにするその人物。


 フレイシアが戦場に到着した。


 フレイシアが両手に持っているのは、雪の舞う夜空を連想させるボディの、オートマチック()ニ丁拳銃、(めい)は《スノー・ナイト》。

 フレイシアの魔装だ。


――フレイシア・ノーリン・ハート。


 銀青の頭髪に、青空の様な水色の瞳、スラリとしたスタイルに凛とした立ち姿、エルフであり、エレメンター。


 彼女は転生者である――。

Tips:パトラスが本気を出すと、耳が立つ。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―プロローグフレイシア達の幼少期の話です。 →のリンクに飛んでくだされば、外部サイトに投票されます。もしよろしければ一票ください!小説家になろう 勝手にランキング
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