1.転生
説明回です。
意識が戻り、まず最初に感じたことは体が濡れているということだ。目を開けると、生い茂る緑の葉の間から曇天が見える。地面の感触が嫌に生々しいと思い体を起こすと、なんと全裸の状態だった。そのままだと気持ち悪いので、立ち上がりあたりを見渡す。あたり一面は木々に覆われている。どうやら森の中にいるようだ。寒気を感じるが、自分がどこに行けばいいかすらわからない。
【目覚めたかい?】
すると、不意に声が頭の中に響く。驚いて周りを見渡すが人影一つ見当たらない。
【さっき私が言ったことは覚えているかな?】
さっき言ったこととは、自分が転生されたということだろうか。
「ああ。はっきり覚えてる。」
【よし。ならば一応転生は成功したことになる。さて、君のいる世界や君について説明することにしよう。】
まずはこの世界のことについての説明が始まった。この世界は、かつては人々はみな共存しあい生きていた平和な世界であったが、ある日その均衡が崩れてしまった。そのきっかけとなったのが『魔女』の出現だ。『魔女』とは『魔法』と呼ばれる不可思議な力を扱う女性のことだ。当初は『魔女』の数も少なく、その中でも『魔法』を上手く扱えるものも少なかったために彼女たちは人々の畏敬の念を集めていただけであった。
しかし、時が経つにつれその事情が大きく変わってくる。『魔女』は徐々に『魔法』の扱い方を熟練させていった。そしてついには『魔法』の使い方を人々に伝えるまでになったのだがなぜか『魔法』を使えるのは女性だけであった。そうして女性は徐々に男性よりも力を持つようになり、発言力も大きなものになっていった。しかも『魔女』は歳をとらず死ななかった、日に日に力を増していた。いつしか男性の立場はみすぼらしいものとなっていき、ついにその生活に耐えられなくなった男性は団結し、『魔女』率いる女性へ反旗を翻した。しかし『魔法』による圧倒的な力の差に男達は太刀打ちできず、その反乱はすぐに鎮圧される。そしてその責任として世界を統べる存在であった男、『王』を処刑し、世界の実権を『魔女』が握ることになった。
それからの生活は男たちにとって過酷なものだった。男は女より身分が低いものとされ、肉体労働と生殖活動のために生かされる存在となった。その生活は家畜以下のものであるので、多くの男たちは女性から逃げだした。しかし逃げ切れたのは世界中の男の約半数だけであり、その男たちも男だけでは子孫を残せないため、絶望の道をたどっている。
そこで、自分が男たちを救うために転生させられたのだ。女に対抗できる力を授かった自分が『魔法』の根源となっている『魔女』を倒せば、再び世界に均衡が訪れるという算段である。
【…ということだ。君はこの世界ではアドルフという名前で通してもらう。君のもといた世界では英雄だった者の名前だよ。…さて、そろそろ私とはお別れなわけだが、なにか質問はあるかい?】
「まあ聞きたいことは山ほどあるな。とりあえず俺はどこに行けばいい?寒いんだけど。」
【そこにいれば大丈夫さ。では私はお暇させてもらう。】
そういうと、それきりその声は聞こえてこなくなった。自分にくれた力のことなどもう少し聞きたいことはあったのだが致し方ない。とにかく、この体の寒気をどうにかしたかった。ここにいればいいとのことだがどのくらいいればいいのだろうか。
そう思ったとき、近くの茂みでガサガサとなにかがうごめく気配を感じた。
「うん?オトコじゃないか。なんでこんなところに?」
そこから姿を現したのは、自分の敵となる存在である、女性であった。