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第一章 6話

 「律」

 八尋の声に、律花は急いで飛び退く。それとほぼ同時に律花が居た辺りに黒い影が飛び掛かった。

 ジンが目を覚ましたのはすぐだった。

 律花は鎖を引いて、聞き分けのない犬を散歩させるようにして連れて歩いているのだが、ずっとうなり続けているこの獣は、しばしば、思い出したように鋭い牙の生えた口を開けて、律花に飛び掛ってくる。

 だが、律花はまるで気づかず、その度に八尋が棒を噛ませて留めることになり、ついに八尋が腹を立てた。それで編み出された打開策が、ジンが飛び掛かって来そうになったら律花に告げて、律花が自分で避けるというものだった。

 「それにしても、よく分かるねぇ」

 またもや標的を逃して悔しそうに唸るジンを再び引っ張って歩かせながら、律花は感心したように言う。

 八尋は律花の前を歩いていて、つまり、こちらを見もせずにジンの様子が分かるのだ。

 「分かるもなにも、殺気を丸出しではないか」

 「殺気なんて感じられるもの?」

 漫画や小説などではよく見かける言葉だが、律花にはさっぱり感じ取れない。

 「少し剣術を齧っていれば分かる事だ」

 当たり前のように言ったところで、また「律」と言った。律花はまたもや慌てて飛び退く。

 「いい加減、疲れてくれないかな」

 げんなりした様子で律花は言うも、「覚悟の上だったのだろう」とにべもなく言われてしまった。

 その時、ふと気づいたように八尋は顔を上げる。

 「どうしたの?」

 「そろそろ夜が明ける」

 律花は首を傾げる。辺りはまだ、真っ暗だ。

 「どうして?」

 「鳥の声が聞こえるだろう」

 言われて耳を澄ませば、確かにいつの間にやら、ちゅんちゅん、という鳥の声がせわしなくしていた。

 「ホントだ……」

 段々と辺りが薄暗くなって、やがて明るくなっていく。

 「ねえ、もしかしてこのまま休みもなしに歩き続けるの?」

 相も変わらず歩き続ける八尋の背中に声を掛ける。

 夜が明けた、ということは、それだけ時間が経っているという事だ。お腹もそろそろ減ってきた。

 「律が疲れたと言うのなら休んでも良いが、眠いのか?」

 「それよりもお腹がすいた」

 律花は正直に言う。睡眠は気を失っている間にたくさんとったが、目が覚めてから口に入れたものといえば、あの老婆がくれた不味い緑色の液体だけだ。

 「なるほど」

 頷いて八尋は足を止める。そうして八尋が振り返って、律花は初めて日の下で八尋の顔を見る事となった。

 律花は息を呑む。

 涼しげな目元は印象的に鋭い。律花は特に人の顔を覚えるのが得意というわけではないが、それでも彼の瞳は余りにも強烈で脳裏に強い印象を残していた。

 『助けてもらったのに礼も言えぬか』

 そういえば、あの人も八尋と同じに偉そうな喋り方をしていた。

 呆然とする律花に八尋は眉を顰める。

 「どうしたんだ?」

 この様子では、彼は律花があの時自分が助けた女だとは気づいていないのだろう。

 ではしかし、それなら彼を助けたのはお互い様ということだ。

 ―――ああ、それでは八尋に一緒にいてもらえる理由がなくなってしまった。

 黙っていた方が得策だ、とは思ったが、それもフェアじゃない気がする。

 そう考えて、律花が覚悟を決めてそれを口に出そうとした時、八尋がハッとしたように「律」と言った。考え事に気を取られていた律花は、即座にその言葉が何を意味するかを判断し損ねた。

 ―――あ、そうか。ジン。

 気づいたときには飛び掛ってくるジンが眼前に見えた時だった。これではもう、間に合わない。

 律花は、訪れるであろう痛みに備えてぎゅ、と目を閉じた。

 だが、その痛みはすんでのところで回避された。

 乱暴に腕を掴まれると、そのまま強い力で引き寄せられる。驚いて律花が目を開いた時には、律花は八尋の腕の中に囲われていた。

 またもや標的を失ったジンが悔しそうに唸る。律花を抱き寄せた腕を放すと、八尋は溜息をついた。

 「先程まではちゃんと避けられていたのに。やはり疲れが出ているのか」

 しかたがない、と言って律花に座るように言う。

 「何か食えるような物を見繕ってくる。そこで待っていろ」

 そう言って、さっさと歩いて行ってしまう。これではどちらが臣なのか分からない。

 残された律花は、こちらに向かっていまだ唸っているジンを少し睨んだ。

 「キミのお陰で、話すタイミングを逃しちゃったじゃないの」

 そう言いながらも内心ホッとしている自分に律花は少し、呆れたのだった。


 八尋が持ってきたのは、山に生えているキノコや木の実、芋などだった。そうして、懐から火打石を取り出して、火を焚く。律花が火の焚き方を知らないと言うと、呆れながらも教えてくれた。

 「八尋、ジンが食べないんだけど」

 八尋が持ってきてくれた木の実を差し出しても、ジンは相変わらず唸るだけだった。

 「ヤマイヌは肉食だからな。食わぬかも知れんとは思った」

 八尋は言いながら、適当に木の棒に刺して焼いたキノコを律に差し出した。衛生面が少し気にはなったが、この場合、そういうことを気にしてはいけない、と思いなおし、それを口にする。何しろ、何も調味料もないのだからお世辞には美味しいとは言えなかったが、それでも、この空腹感をおさめられると思えば、贅沢は言っていられなかった。

 「でも、そうしたら弱っちゃうでしょう?」

 「そうなる前には何とかなる。急いで山を下りれば良い事だ」

 言って八尋は自分もキノコを口にする。

 結局、ジンは何も口にすることはなかった。


 それからまた、長い距離を歩いて、2人はやっと山のふもとの方まで下りてきた。

 その頃には、律花もだいぶジンの行動を読めるようになってきた。ジンは飛び掛る前に、独特の低い声で微かに唸るのだ。それを、注意して聞いていれば良い。

 ふいに、八尋が足を止めた。

 「運が良かったな。集落がある」

 言われて見れば、少し離れているが、確かに、いくつかの家が並んでいる。

 「律、コイツと一緒に待っていられるか?」

 「え?なんで?」

 八尋の言葉に律花が驚いて聞き返すと、八尋はジンを指して言う。

 「ヤマイヌの子供など連れて村に入ったら騒ぎになるだろう」

 「そうなんだ?」

 そんなものか、と納得して、律花はジンを見る。とりあえず、飛び掛られる時に自身で避けられるようになったから、大丈夫だろう。

 「多分、大丈夫。この辺で待ってれば良いの?」

 「ああ。すぐに戻ってくる」

 そう言って、八尋は村の方角に向かって行く。

 律花はその場に座り込んだ。

 長い間歩いたので、足がぱんぱんに腫れていた。それでも、八尋が気を遣って足を遅めてくれたお陰で、痛みはそう酷くはなかった。偉そうな割に、八尋はそういう気遣いが細やかで、律花はそれに感謝したのだった。


 それから少し経った時だった。ふいに、耳慣れない音が聞こえて、律花は耳をそばだてる。

 がやがやというそれは、どうやら人の話し声だった。野太い男の声ばかりが複数聞こえてくる。

 目を凝らすと、遠目にだがいかにも風体がよろしくなさそうな、体格の良い男達が、5、6人、何事かを話しながら歩いている。それぞれ、腰にはボロボロの布で乱雑に刀やら斧やらが結び付けてある。

 ―――これは、みつかるとヤバイかもしれない。

 どう見ても、温厚そうだとは言い難い人物たちだ。遠目に見ても、人相の良くなさそうなのが分かる。

 律花は慌てて木陰にうずくまる。この距離で行き過ぎてくれれば、まず見付かる事はないだろうと思った。

 だが、律花は重大な事を忘れていた。

 隠れなければいけないのは、自分一人ではない事を。隠れた拍子にうっかりジンの鎖を離してしまったのだ。それを見逃さず、ここぞとばかりにジンは駆け出して律花から逃れようと、鎖をじゃらじゃらと引きずりながら駆ける。

 慌てて追おうとした時は遅かった。

 「お?何だ?」

 野太い声がそう言うのが聞こえた。続いてじゃらり、という鎖の音。

 「おい、見てみろよ。ヤマイヌのガキが繋がれてるぞ。こりゃ、誰かが調教したんじゃねえのか?」

 その声に反応して、笑い声や興味深げな声が響き渡る。

 律花は木の陰からそっと様子を伺った。

 男に鎖を掴まれ、囲まれたたジンは、周囲を囲む大男たちに向かって威嚇するように牙を剥き出して唸っている。

 「珍しい事もあるもんだな」

 男の1人がそう言いながら、ジンに手を伸ばす。

 あ、と律花が思ったときには遅かった。

 次の瞬間、男の悲鳴が山にこだました。ジンの鋭い牙が男の手に食い込んでそこから赤いものがぽたぽたと垂れている。

 「コイツ、噛みやがった」

 男が怒りに満ちた声でそう言うと、反対の手で思い切りジンを殴りつける。ぎゃん、という声と共にジンが地面に叩きつけられた。次いで、男は乱暴に刀を抜く。完全に逆上しているのだ。

 ―――このままじゃ、殺されてしまう。

 思ったときは、律花は行動していた。

パッと木陰を飛び出してジンに気を取られていて律花に気づかなかった男達の中に飛び込んで行き、ジンを拾って抱きかかえるとそのまま後ろも見ずに駆け出した。

 ハッと我に返った男達が怒鳴りながら追ってくるのが聞こえる。

 ジンが抱えた腕の中で身じろぎをした。

 ―――良かった。生きてる。

 先ほど殴られて強く地面に叩きつけられたから心配していたのだ。

 だが、安心したのも束の間だった。次の瞬間、律花は腕に強烈な痛みを感じた。それでも走るのを止めずに、走りながら見ると、律花の腕にジンが噛り付いていた。着物に赤いものが滲んでいる。

 「助けてやったのに、噛みますか」

 少し腹が立ったが、かといってこの状況でどうしようもない。幸い、律花はジンの腹を抱えるようにしていたので、ジンは体をくの字に折り曲げて無理な体勢で噛み付くしかなく、そこまで強く噛めないようだった。

 ―――とにかく、走るしかない。

 そうはいっても、いくら小回りがきくといえども散々歩き回って足の方は疲労が激しい。

 しばらくの後、もつれた足は木の根に躓いて、律花は簡単に転んでしまった。

 男達は律花を囲むようにしてにやにやと笑いながら近づいてくる。

 「こんなところに女がいるとは、オレ達もついているな」

 「しかも結構上玉だ。餓鬼なのが残念だが」

 律花は木を背にジンを胸に抱き寄せ、キッと男達を睨んだ。他に、出切る事はもうない。

 弱気なところを見せればこの男達の思い通りのような気がして、それは嫌だった。

 「とりあえず、ソイツを渡してくれねえかね。オレはソイツに噛まれて頭に来てんだ」

 一人の男が言いながらジンを指す。

 「嫌」

 律花が短く言うと男達は楽しそうに笑いあった。

 その時、ひときわジンが顎に力を入れたようだった。律花はあまりの痛みに眉を顰めて、思わず手を緩める。その隙を見逃さず、ジンは律花の手を逃れると、男達の間をパッと駆け抜けて走り去った。

 ―――逃げた。

 律花は呆然としてその後姿を目で追った。

 ショックだった。好かれていないことは分かっていたが、それでもこうして助けてあげたのにこの仕打ちはちょっと酷い。

 そんな光景を見て、男達は一斉に笑う。

 「飼い犬に手を噛まれるってぇのは、まさにこの事だな」

 男達は誰もジンを追わない。

 ただ、下卑た笑みを浮かべながらじりじりと律花に近づいてくる。

 「アンタ、飼い主なら責任取って貰わねえとな」

 流石に、この男達がどういう目的を持っているのか分からないほどは鈍くない。

 律花は顔が青ざめるのを感じた。咄嗟に逃げようと駆け出すが、すぐに腕を掴まれ、捕らえられてしまう。

 「離して」

 やみくもに手をばたつかせるが、まったく役に立たない。

 どさり、と地面に乱暴に投げられる。落下の衝動で擦りむいた膝や頬が焼けるように痛んだ。それでも、逃げようとうつ伏せたまま、這うようにして手と足で前へ進もうとすると、背中に重い物が乗っかり、律花の手を後ろに捻り、そのまま固定する。痛すぎて口から悲鳴が漏れた。

 「えらく暴れるな。腕、折っとくか」

 そんな声と共に、律花の腕はますます捻られる。その動作に迷いはない。

ただ、わざと痛みを感じるようにゆっくりと腕を捻っていく。完全に律花をいたぶるのを楽しんでいるのだ。

 もうこれ以上、本気で曲がらない、というくらいの激痛。恐怖。

 喉が張り裂けそうなくらいの悲鳴を上げる。

 骨の軋むのを感じる。

 ―――折れる。

 だが、直後に予想された痛みは訪れず、突然、ふっと腕の拘束が緩められた。

 一瞬、折られてしまって感覚がなくなったのかと恐怖したが、そう言うわけでもないらしい。おそるおそる腕を動かしてみると、動いたからだ。

 ならば、どうして、と恐る恐る体を持ち上げてみる。

 途端、背中に乗っていた重いものがずるり、と律花の背中からずり落ちた。

 一瞬、状況を理解する事が出来なかった。

 今の今まで律花の背中に乗って腕を折ろうとしていた男が変な形で地面に転がっている。その背中には、大量の赤いものがべったりと付いていた。

 視線を上げると、すらりとした立ち姿の背中が見えた。律花を庇うように立ち、刀を構えている。

 「遅くなってすまなかった」

 後ろを振り返らずにそう言う声には確かに聞き覚えがあった。

 ―――八尋。

 律花と八尋の周囲には数人の男達が手に手に武器を取り、2人を囲んでいる。多勢に無勢。どう考えても無理だ。勝てっこない。

 不安に思って律花は八尋を見上げるが、斜め下から見える八尋の表情は全くの無表情だった。律花の気のせいかもしれないが、むしろ、余裕があるようにさえ見える。

 八尋の刀の刃が太陽の光を受けて、きらり、と光った。律花が眩しくて目を眇めたその間に刀は目にも見えない速さで一閃する。

 律花は目を瞬かせた。

 あの刀は先ほど一度持った時、かなり重く感じた。それを苦もなく、目に見えないほどの速さで、軽く振り回す。

 八尋の一番近くにいた男が出す声も間に合わず、と言った感じで体から血を噴き出させてその場に崩れ落ちて行った。

 「力の差は歴然であろう」

 刀をかちり、と鞘にしまって八尋が感情のこもらない声で冷たく言葉を紡ぐ。

 「十秒待つ。命が惜しければ、その間にここを去れ」

 そう言って八尋は黙り込む。心の中で10秒数えているのだろう。

 男達は動揺を顕に顔を見合わせた。確かに、先ほどの太刀筋を見れば力の差は歴然だった残りの者達で飛び掛って行ったとしても、勝てはしない。

 そう踏んだのだろう。誰からともなく、それぞれがそろりそろりと後ろ向きに後ずさる。

 そうして、だっ、と1人が駆けた出した拍子に散り散りになって走り去った。

 完全に男達が見えなくなると、八尋はやっと、律花を振り向いた。

 「無事か、とは聞けないな」

 しゃがみこんで律花を覗き込んで、少しだけ申し訳なさそうにそう言う。その視線は、律花の顔や膝の擦り傷や、手の噛み傷などを追って行く。表情には、先ほどの氷のような無表情は微塵も見られなかった。

 ―――とりあえず、命に別状はないから大丈夫。

 そんな軽口を叩こうとしたが、舌が上手く動かなかった。おかしいほど、体の震えが止まらない。

 律花の隣には死体が2つ。しかも、今、死体になったばかりのそれだ。

これは、紛れもない現実。

 無理矢理にでも、笑顔を作ろうとしたが、それは中途半端に失敗に終わった。

 「無理をするな」

 八尋が呆れたように言って律花を引き寄せた。

 「我慢しないで泣きたい時は、泣けば良い。……顔は見ないでやるから」

 八尋の体温の温もりは、張り詰めていた律花の糸を切った。

 律花は堰を切ったように大声で泣き始めた。

 ―――八尋は、この涙を恐かったせいだと思っているのだろうか。

 確かに、恐かったのは事実だ。死ぬほど恐かったし痛かった。

 でも、それよりも重大なこと。律花はここに来て、やっと本当に自分の置かれた立場に気が付いたのだ。

 男達に捻じ伏せられているとき、父や母の名を呼んだ。助けて、と。でも、その人たちはここには存在しない。ここにあるのは、危険と、血の匂いと、死体。

 何故か、目が覚めて、ここに来てこれが現実だと分かっていても、どこか頭の中で、すぐにいつもの現実に帰れる気がしていた。夢から醒めるように、ふと気が付けば、自分が本気を出して戻ろうとすれば元に戻れるような、そんな楽観を心のどこかでしていた。

 でも、実際は違った。恐くて恐くて、これが夢なら早く醒めろ、と願っても、本気でここから逃げ出したい、と思っても、現実に押さえつけられた腕はびくともしなかったし、逃れる事は出来なかった。

 それと共に、悟った。

 自分は、元の自分が居た場所に戻れる術を持っていないことに。もしかしたら一生、家族や友人達に会える事はないかもしれないことを。その恐怖といったらなかった。不満もあったし、喧嘩もたくさんしたけど、それでも父も母も兄達も大好きだった。友人達だって、悪口ばかり言い合ってた男友達でさえも。それらの人々全員と、もう合えないかもしれない。

律花は八尋の着物にしがみついて泣きじゃくった。嗚咽の中に言葉が混じる。

 「帰して……」

 家に、帰して。家族の元に帰して。

 それは、誰に言うでもない。強いて言えば自分をこんな所に運んだものへの嘆願。心からの、懇願だった。


 しばらくそうしていて、落ち着くとやっと現在の状況を把握した。

 律花は八尋の胸に顔を埋めて泣いていて、八尋は黙って優しく律花の背中をトントンとなだめるように軽く叩いてくれていた。まるで、母親が泣きじゃくる子供にするそれのように。

 「……ごめんなさい」

 体を離して言う。泣きすぎたせいで目は腫れていて、鼻声で、体がだるい。

 「気にするな」

 なんでもない事のように言って、八尋は立ち上がる。

 「俺に妹がいたら、きっとこんな感じなのだろうと思った」

 そうして、立てるか、と律花に手を差し出して律花を立たせると言う。

 「少し離れたところに荷物がある。そこまで歩けるか?」

 律花はこくりと頷いた。

 その場所を去るときに、2つの死体が目に付いた。

 自分のいた場所では、身を守る為に人を殺す必要などなかった。それだけ安全な場所にいたのだ。そう考えると、また、涙がぶり返しそうになり、慌ててそれから顔を背けた。

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