序章
どうしてこんな事に?
少女は呆然としながらも必死で岸を見上げる。
目線の先にいた母親が拒絶するように、さ、と顔を背ける。
その横に立っている妹が無邪気な顔で笑いかけてくるが、少女の表情を見て怯えて泣き出した。
母親が急いで妹を抱き上げ、去ってしまう。
少女は絶望的な気分になる。
沈むのが目的だから、わざと脆く作られた船からはみ出した、きらびやかな赤い着物に冷たい水は容赦なく滲みこんでくる。
―――何故、私が?
流れの勢いに負けて、とうとう下で舟が崩れ始めるのがわかる。
段々、水が入り込んでくる。
ひたり、と正座した足に水が届くのを感じる。
その瞬間、舟に入ってきた水と少女の重さに負けて、舟は、瓦解した。
冷たい水の中に、木切れと共に、少女は放り出される。
―――何故、私がこんな事に……。
最後に見上げた岸の上に三太とチサの顔が見えた。
水を通してだったから、表情は、もう、見えなかったけど。
―――謀ったわね。
少女は心の中で思いつく限りの呪いの言葉を唱える。
許さない。
絶対に。
その岸に立っている人たちに
この国のひと全て。
許さない。