第五話「孤立」
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マサイの姿は、もはや狼のようだ。
下半身は、はちきれんばかりの強靭な筋肉を抑えるGパン。
はたきの様な尻尾までついている。
上半身に至っては、強靭な筋肉と、強靭な獣のような爪が5本の指に。
顔はまさしく狼のように横の切れ長の牙を生やした口。
カコイが鳥人間なら、マサイは狼男という状態。
「おいおい…、すげぇ爪だな…」
と、変化した自分の両手を眺めてマサイは言う。
自分でも驚いているようだ。
だが、そうしている間にもカコイは迫る。
カジンはマサイの変化に驚きもしたが、やはり、迫ってくるカコイに神経を使う。
「マサイさん、鳥男が!!」
迫るカコイを、マサイに気づかせた。
気づけば、もう目と鼻先という比喩が合うほど近づいている。
「けっ…、驚いてもらんねぇか…」
発達した両足の筋肉を抑えるGパンの後ろポケットに、引っ掛けていたリボルバーを右手で取り出した。
そして、カチャリ…と銃をカコイに向けて構える。
いつでも、撃てる様にマサイの眼光は鋭くなった。
当然、数メートル先のカコイにもマサイの変化は見えた。
彼は翼を羽ばたかせ、接近しながら口の中でつぶやく。
「カジン・コウジョを逃がした男は、インテグラル・ウィルスを打ったか!!」
だが、その声は自分の翼の音でかき消された。
体を飛び込むように垂直にさせて飛ぶカコイは、マサイまで、あと数メートルの距離で体制を変えた。
両足を思いっきり、廃墟の地面に押し付ける。
大きくほこりを飛ばして、矢飛びに飛んでいた自分の体にブレーキをかけた。
ザザザザザーー!!!と地面が鳴り、カコイは両足で地面に立つ。
「なんだ…!」
急に停止したカコイを、カジンは廃墟のビルの壁に背をつけ怪しく感じた。
マサイの方は、3メートルくらいの目の前に居るカコイに対して、未だに銃を向ける。
いつでも撃てるように。
「…」
狼男になっても、マサイは無口だ。
その静けさが、3メートル先のカコイにプレッシャーをかける。
「はん…」
銃を向けられたカコイも、冷静だ。
撃ってみろ!
と言わんばかりの仁王立ちをカコイはする。
その様子を凝視するマサイの狼顔の切れ長の口から、ちらちら牙が覗く。
カコイの鳥類のくちばしが開く。
「我が組織のウィルスを盗んだ上に、自分の身体に投与する行為は、我々に対する侮辱だと言うのは解ってるな!!」
「へっ…、これ作る際に、受刑者での人体実験行ったくせによ…」
その言葉に、カコイの体が少しビクついた。
カジンの目からでも解るくらいだ。
リボルバーを握るマサイの右腕は垂直だ。
カコイのくちばしが、また開く。
「貴様と、カジン・コウジョは重罪だ…。我が国の誇りであるロクト・ミッショネズに対するこの行為は…」
バン!!
リボルバーの銃声が鳴った。
マサイの右手からは硝煙が漂う。
リボルバーの引き金を引いたのだ。
「ひっ…!」
喋っていたカコイの顔の左頬から、血が流れる。
これは、さっきの銃弾により生まれた傷だ。
思わずカコイは、左頬を手で押さえる。
硝煙臭いマサイは、口を開く。
「大人しく焼き鳥になれ…」
狼顔で表情が解りにくいが、マサイの目がどす黒く濁った。
カジンには、マサイの考えていることが解る。
あれは、殺意だと…。
「貴様!!」
発砲に激したカコイは翼を広げる。
広がった翼が、大きく上下に動き周囲の砂埃が舞始め、カコイの足は地面から数メートル離れ、空を飛び始めた。
だが、それにもマサイは怯えはしない。
もうカコイと同等になったのだから。
銃を、また静かに構える。
照準の先に映るカコイは、自分の強靭な爪をむき出す。
その爪で、マサイを切り裂くつもりだ。
バッ!!
カコイが体を垂直にし、翼を羽ばたかせ、マサイに向かって突進を始めた。
銃を向けられていようが、逆上しているせいか構っていない。
解りやすいほど、カコイの突進の軌道は安易。
当然、矢飛びに自分に向かってくるカコイを狙うのは、マサイにとっては簡単だ。
しかも、インテグラルウィルスのせいか、さっきまで速く見えていたカコイの飛翔が遅く見える。
そのおかげで、より狙いが精密になった。
だから、ゆっくりと確実に銃の照準を合わせる。
照準は、カコイの鳥顔の額。
そこ撃つ。
マサイは、ためらわない。
本気で、撃つつもりで居る。
当然、カコイの命は配慮はしていない。
「一撃で、楽に…」
ボソッと、マサイは言う。
同時に、引き金に掛かる人差し指が動じた。
その声にカジンは、気づく。
「殺す気かぁ!!!」
思わず、カジンは叫ぶ。
自分達を捕まえに来た男とはいえ、安易に殺害するなど、カジンには信じられない。
マサイは、命をどうとも思っちゃいない。
そういう男だということに、気づいたせいか、廃墟の壁から急いで立ち上がる。
立ち上がると、走った。
短距離走のように、突進する。
カジンは、もの凄い勢いでマサイに迫った。
「やめろぉおおーーーー!!!!」
カジンは叫んだ。
その声に、マサイの銃を握る腕がビクついた。
同時に、指に掛かる引き金が動じる。
バン!!
銃声が響く。
「はっ!」
カジンの足が止まった。
銃から硝煙が舞う。
マサイは銃を放った。
「ぐはっ!」
銃弾の命中で、カコイは血を吹く。
そして、翼の羽ばたきが停止し、そのまま地面に墜落する。
地面に轍を残し、カコイは廃墟の床に倒れこむ。
倒れこむカコイを見るカジンは、彼の左肩から血が流れるているのに気づいた。
あの銃弾は、カコイの額ではなく左肩に被弾した。
たぶん、さっきのカジンの叫び声で狙いがずれたのだろう。
カコイは、激痛で意識を失った。
たぶん、左肩の骨のどこかが砕かれてしまったのだ。
鳥人間だったカコイの強靭な肉体が徐々に衰退し、顔も人間の顔に戻った。
意識と同時に、ウィルスの効力も切れたのだろう。
………………
バゴッ!!
カコイが気絶している廃墟で、にぶい音が聞こえる。
狼人間から、元の人間の顔と肉体に戻ったマサイがカジンを殴りつけた。
狙いを外れさせたのと、ずっと、足手まといで居たからだ。
唇が切れたカジンは、口から血を流しながら…。
「あんたに、人を殺す権利はないでしょ!!」
そう叫ぶカジンの受刑服の襟足を、マサイは乱暴に握る。
「甘ったれんなよ、ガキ!!どっちにしろ、もう亡命してる時点で孤立してんだぜ、俺たちはよ!!!」
そう額に青筋を浮かせて言う。
だが、カジンは退かない。
「罪に罪を重ねて溜まるか!!」
そう言って、マサイの手を払った。
「けっ…、じゃあ、ついて来なくていいぜ…、青二才が」
カジンに背を向けて、マサイは言う。
コンビ解消という意思表示だ。
「ついて来ますよ…、どっちにしろ、ロクトミッショネズから狙われてますし、あんたには助けてもらった恩がある…」
そうカジンは言うと、二人は歩き始めた。
こうして、この廃墟から二人は去った。
カコイは、廃墟に倒れこんだままだ。
彼の左肩には、止血のためらしい布が巻かれていた。
これは、カジンがした施しだ。
二人の考えが合わない。
ロクトミッショネズは、本気だ。
この国から孤立してる。
インテグラルウィルスの効力。
以上のことが、マサイとカジンに解った。
その上で、二人はまた歩き始め廃墟から離れる。
このまま、歩けば違う街に着く。
………………




