第四話「ドッグファイト」
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カジンとマサイは、謎のウィルスによって鳥人間と化したカコイから逃げ回る。
しかし、マサイにはウィルスの作用が解り、口元に笑みを浮かべる。
カジンの頭には、理解は出来ないが、とにかく翼が生えたカコイから、どうやって逃げるかしかない。
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カコイは鳥人となった姿で、翼を広げる。
広がった翼が、大きく上下に動く。
すると、風が流れ周囲の砂埃が舞始め、カコイの足は地面から数メートル離れ、体は宙に漂う。
再び、翼がはばたくと、カコイの体は空中に浮いたまま一方の方向に移動。
カコイは、空を飛び始めた。
翼がはばたけば、はばたく程、カコイの体は早く飛んだ。
まるで、ロケットのように。
そして、向かう方向はカジン、マサイの位置だ。
カコイの顔は、まさに鳥と化した。
なのに、その固そうなクチバシが唇のように柔らかく笑みを浮かべる。
「生身の人間の足で、どこまで逃げられるかね…」
余裕を持った口調で、カコイがそう言う。
………………
「マサイさん!」
廃墟が続くガズ市街を走りながら、カジンはマサイに話し掛ける。
カジンが焦っているのは、あの翼で、カコイが飛んでくると思っているからだ。
実際、その通り故に、彼らは走って逃げるしかない。
「マサイさん!どうするんですか!!」
カジンが叫んでも、返事は返っては来ない。
何故なら、マサイの口には例のウィルス入りの注射器がくわえられているからだ。
カジンの問い掛けを無視しながら、マサイは自分の太く逞しい左腕に自分のコートを巻き付け縛ると、左腕の血液の流れが圧迫され、血管が皮膚から浮き出てきた。
そのまま、マサイは口から注射器を右手に持った。
どうやら、注射を打つ気だ。
そのことに、カジンは気づく。
「打つ気なんですか!!」
「じゃねぇと、あんにゃろうの始末つけられねぇだろが!!」
やっと、カジンの叫びに対する回答をした。
マサイは走りながら、注射器を左腕に当てようとする。
注射針が浮き上がった血管を刺そうとしていたが、当然、走っているため上半身が震えて、針が正確に血管を狙えない。
「くっ…」
ウィルスの効用が解ったと言うのに、これでは打てない。
だから、マサイは急に走ってる足を止めた。
カジンも同じく足が止まる。
「あんた、そんなの打つ気ですか!!」
そうカジンが叫んでも、もう遅く、マサイは血管に注射針を刺す。
注射器のピストンを右手の親指で押し、中の液体がマサイの血管内に入って行く。
ばさっ!ばさっ!
不自然なまでに、大きな羽音がした。
耳に入ってきた羽音に、カジンはビクつく。
この音は、鳥の羽の音ではない。
風が砂埃と共に、瓦礫の破片を吹き荒れている。
羽音が響く方に、カジンは顔を向けた。
「見つけた…」
男にしては、高い声がくちばしから聞こえた。
カジンの目に入ったのは、長く派手なコートを破った鳥そのものの巨大な翼。
その翼を生やしている鷲顔の人間。
人間の遺伝子に食い込む特性を持ち、遺伝子から細胞、細胞から筋肉、骨格、神経まで変化させるインテグラルウィルス。
そのウィルスから、異形の姿になったカコイ・トリが、カジン、マサイの数メートル先に居る。
カジンは震えた。
人間ではない異形の鳥人が数メートル先に居るのだから。
「万事休す…」
そう口からこぼした。
このあと、どうなるんだ…。
………………
カジンは、昔から嫌なことが真っ先に浮かぶ少年だった。
なにをするにも、失敗のイメージが真っ先に頭に浮かぶ。
だから、カジンはなにもしないで生きてきた。
すべて他人や親の指示に従う。
だから、少年院に落とされた。
無罪で入った少年院は、もはや希望もない。
だから、身も知らぬマサイが来るまで、暴れて気を紛らわせてた。
暴れないと、負の念で自分がどうなるかわかったもんじゃない。
そして、脱獄したが、現在この有様だ。
カジンは生まれつきと言っていいほど、希望という言葉の意味を知らない。
本当に、希望なんてなかったからだ。
………………
カコイという男が翼を羽ばたかせ、接近してくる。
その接近速度は、ゆっくりだ。
だが、それは奴の余裕からの速度。
そうやって、恐怖をあおろうとしているのだ。
徐々に、徐々に、鳥人間が近づく。
そのことに、カジンは怖じけた。
だから、足が動かない。
「ああああああ!!!!!!!」
ついには、叫んだ。
断末魔のつもりで叫んだ。
それほど、異形なカコイに恐怖していた。
もう少しで、カコイの体が来る。
カジンは身構えた。
その時…。
バゴッ!!
カジンの顔に、太い拳が当たった。
「!?」
拳が、カジンの左の頬を打ち抜く。
殴られた勢いで、体ごと廃墟の並ぶ路地に吹っ飛ぶ。
背中から、地面にぶつかった。
殴ったのは、誰でもなくマサイ。
カコイが接近している時に、マサイはカジンを殴った。
赤くなった頬を、カジンは手で押さえた。
そして、訳も解らずに、自分を殴ったマサイに目を向ける。
すると、マサイの口が開く。
「騒ぐな!!それでも、男か!!!」
そう大きく叫んだ。
彼の腕に血管が走っている。
同時に、彼の体にも血管が浮き上がっている。
「なっ…」
すると、カジンはある異変に気づいた。
マサイのタンクトップから覗く、筋肉から獣のような体毛が生えた。
そして、彼の両手から強靭な爪が伸び、唇の両端が裂け始める。
まるで、獣のように。
その人間ではなく、獣のように変化するマサイを、カジンは両方の目で見つめる。
「まさか…、マサイさんも…」
カジンは、マサイがウィルスを打ったのを思い出す。
だから、この変化には納得した。
カコイが近づいてはいるが、カジンは怯えなくなった。
何故なら、目の前に居るマサイに生まれて初めて希望を感じたからだ。
カジンは瞬きをした。
その瞬きが終わって、目を開いた瞬間。
「あっ…」
そのような驚きの声を出す。
カジンの目の前には、人間ではなくなったマサイの姿がある。
下半身には、はちきれんばかりの強靭な筋肉を抑えるGパン。
上半身には、強靭な筋肉と、強靭な獣のような爪が5本の指に。
そして、顔はまさしく狼のように横の切れ長の牙を生やした口。
マサイは、あのウィルスで狼人間になった。
「っ…」
カジンは、驚くしかなかった。
生まれて始めて感じた希望に。
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