第三話「翼生える」
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彼らが走りだした廃墟の多い寂れた市街に、一人ロングコートの男がいる。
その男には、金色のネームプレートが胸にある。
ネームプレートには・・、
「ロクト・ミッショネズ・メンバーズ カコイ・トリ」
と刻み付けられている。
これは、彼がロクト・ミッショネズのメンバーであるという証。
証を胸に掲げ、彼は一枚の資料を取り出す。
それには、カジンの顔写真が載っている。
男の細い目が、資料を凝視する。
そして、この男の切れ長の細い唇が開く。
「カジン・コウジョ・・、17歳。罪状、強盗。30分ほど前に、少年院から謎の侵入者と共に脱獄。現在、少年院から数キロ離れたガズ市街に居ると思われる・・」
この情報は、さっき流れた本部からの連絡だ。
男は、それを確認した。
「もう一人、脱獄の援助と新作のインテグラル・ウィルスを奪った男が居るか・・」
カコイという男は、資料を破り捨てた。
もう必要ないからだ。
………………
カコイという男から、数メートルの廃墟の瓦礫たち。
そこに、カジン、マサイは居る。
ちょうど、瓦礫は二人の体を隠せる大きさだ。
カジンは、その瓦礫の壁から顔を覗かせる。
すると、カコイの存在に気づく。
「マサイさん、変に派手な男が居る・・」
カジンの声は、向こうに気づかれまいように小さい。
他の方向に、首を向けていたマサイは振り向く。
そして、カジンが示唆した場所に顔を向けた。
本当に、派手な姿だった。
このことに対して、マサイは・・、
「ポリが消えて、あいつが現れた・・、何故だと思う・・」
そう、カジンに問う。
マサイの片手の握られるリボルバーのシリンダーが動く。
「解りませんよ・・」
素直に、カジンは答えた。
マサイにとっては、腹が立つまでに率直な回答だった。
「ポリは、あいつに俺らの捕獲を任せたってことだよ、このバカ」
そう怒りながら、マサイは瓦礫から体を出す。
「なにする気ですか・・」
カジンは、そのマサイの動きに驚く。
マサイが、丸腰とも思える男の不意を突いて銃を撃とうとしている。
振り返って見た彼の目が本気だ。
卑怯だと、カジンは叫ぶ間もなく・・。
バン!!
サイレンサーのない生の銃声は、カジンの耳を貫く。
男を撃ったリボルバーは、硝煙が漂う。
引き金を引いたマサイの目には、罪悪感も何もない。
「あんた!!なにやってるんだよ!!」
カジンは強く責める。
丸腰の男を撃ったのだ、このマサイは。
彼に強く軽蔑するまなざしを送る。
弾は、カコイに命中した。
そのつもりで、マサイは撃った。
だが、彼は銃を収めはしない。
むしろ、マサイは額から汗をたらす。
その様子に、カジンは気づいた。
銃を降ろさないマサイが、口を開く。
「おい・・、ロクト・ミッショネズってのは銃じゃ駄目らしい・・」
その言葉で、カジンは軽蔑していたマサイから目を離した。
視線は、カコイに向ける。
すると・・。
カジンは、自分の目を疑った。
さっきのマサイの不意打ちを卑怯とは思えなくなった。
撃たれて倒れたはずのカコイが、カジンらの方に顔を向けている。
その細長い目が、カジン、マサイを映す。
「そこに居たか・・」
切れ長の唇が、そう言葉を言う。
銃の弾から、位置がばれた。
さらには、そのカコイの背中から羽が生えていた。
長く派手なコートを破り、鳥のような、いや、鳥そのものの巨大な羽がカコイの体を覆っている。
だから、マサイの銃弾が翼にヒットし、カコイの致命傷にはならなかった。
数メートル先にいる二人には、そのことが解る。
「嘘だろう!!」
カジンは、男の背中から翼が生えたことに驚く。
マサイもだ。
冷や汗が、流れた。
だが、事実は事実で、カコイには鳥と同じ翼がある。
しかも、それどころか、カコイの顔までもが変化し始めた。
あの切れ長の唇が、鳥のくちばしのように尖る。
顔全体が、鳥のように変化し始めた。
その変化に、二人は驚愕するしかない。
同時に、ロクト・ミッショネズの本当の脅威を知った。
このように、人間ではなくなるのが、奴らの恐ろしさなのだと。
………………
インテグラル・ウィルス。
その言葉を、マサイは思い出す。
確か、誰から、そのウィルスの噂を聞いた。
人間の遺伝子に食い込む特性を持ち、そこから、遺伝子から細胞、細胞から筋肉、骨格、神経まで変化させる細菌。
このウィルスに手をつけたロクト・ミッショネズは研究を進めた末、ロクト・ミッショネズ自体が最強になった。
彼らは、ウィルスをコントロールしたのだ。
噂を信じ、マサイは事情から少年院に入り奪った。
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この事柄を思い出しながら、マサイは、カコイ・トリの変化を見つめる。
男の肉体が、コートを破るまでに強靭な筋肉に発達する。
顔までも鷲に変化。
さらには、手足には強靭な爪が生え、背中には翼が・・。
人間の姿をそのままに、男の体は鳥になった。
鳥人間という表現が似合う。
ロクト・ミッショネズが、インテグラルウィルスで、人体を人間ではなくさせた。
それを、なにも語らずにカコイは証明する。
破れたコートから、鳥人間と化したカコイの肉体が覗く。
鳥目が、カジンとマサイを睨む。
逃げるぞ!!
そう叫ぶ必要もなく二人は駆け出す。
カジンは、困惑したまま走る。
人間が鳥になったのだ、驚くしかない。
そのカジンの横で、マサイは微笑んでいる。
何故なら、やっと、このポケットに入っている注射器の内容がわかったからだ。
「このウィルス打てば、ああなれるのね・・」
カコイの変化は絶望ではなく、希望であると、マサイは笑う。
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