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彼女に似合う赤  作者: あやさと六花


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6/7

6話 急転

 雲ひとつない夜だった。

 花の時期はとうに終わったというのに、冴え冴えとした月光に照らされる薔薇園はどこか美しく、不気味に思えた。


 ジャシントは声を顰めて、隣にいるナンドールに問いかける。


「本当に白骨があったのか?」

「……ああ」


 こっちだとナンドールが先導する。その足取りは不安定で、ジャシントが支えながら辿り着いたのは薔薇園の端だった。


「どっかに抜け道がないかと思って探っていたら、見つけたんだ」


 真新しい土が被せられた場所を、ナンドールが掘り起こす。

 そこに現れたのは紛れもない白骨だった。


「……白骨化してるってことは埋められてからかなりの時間が経ってるってことだよな」

「ああ。だから、これはユトカじゃない。だけど、犠牲者はこいつだけじゃないはずだ。遺体を隠してるような城なんだぜ。きっと、ユトカもどこかに……」

「落ち着けって。まだそうと決まったわけじゃないだろう?」


 だが、ナンドールはジャシントの声が聞こえてないようで、あたりの地面を掘り始める。

 ジャシントは慌てて止める。遺体を目の当たりにしたせいか、ナンドールは平常心を失ってしまっているようだ。


 少し時期が早いが、ジャシントは前々から考えていたことを口にした。


「王都に行こう、ナンドール。もうここではこれ以上は手がかりを見つけられない」

「何言ってんだよ! ここに大きな手がかりがあるだろ! お前、これを見て見ぬふりする気か!?」


 エレオノーラの聖域に白骨が埋められていた。きっと彼女は無関係ではないだろう。ここに隠すよう指示したのも彼女かもしれない。


「でも、彼女はユトカには危害を加えてないと思う」

「……はっ! お前、あの女に絆されたか!」

「そういうわけじゃ……」

「そうだろ! 知ってるんだよ、俺。お前がよくあの女と茶をしてるのを。あいつに惚れてるから、ユトカのことなんてどうでもよくなったんだろ!」


 ナンドールはジャシントの手を払い、立ち上がった。よろめきながらも、目を爛々と輝かせる。


「もうお前には頼らない。俺ひとりでもユトカを――」

「騒がしいわね、何事かしら」


 凛とした声に場が一瞬静まり返った。

 振り向けば、侍女を連れたエレオノーラの姿があった。


「お前……ユトカをどこに隠した!」

「ナンドール!!」


 エレオノーラに近づこうとしたナンドールを羽交い締めにして止める。


「離せっ! こいつはユトカの仇なんだぞ!?」


 ナンドールは拘束から抜け出そうともがいた。だが、今の弱りきったナンドールには抜け出すことはできない。

 力仕事をしているジャシントには敵わないと察したらしく、暴れるのをやめ、エレオノーラを睨みつけた。


「随分血気盛んな男ね」


 エレオノーラは微笑んだ。その目は笑っておらず、冷ややかな笑みだった。

 ジャシントは背筋の凍る思いがした。ナンドールも一瞬身を竦ませたが、すぐに威勢を取り戻した。


「お前のお気に入りの薔薇園から、白骨が見つかったよ。噂通りの化け物だったんだな。若さを保つために、使用人の生き血を啜っていたんだろ? ユトカの血も吸って、殺したんだろ!」

「わたくしの噂を聞きつけてこの城に来たの? なら残念ね。わたくしは一度も女の使用人には危害を加えたことはないわ。ただの一度もね」

「信じると思うか? ここに人を殺した証拠があんのによ! ユトカは孤児だから、殺しても探すやつはいないとたかを括ったんだろ? あいつは俺のもんだ! 何があろうと、俺はあいつを見つけ出してやる! あいつを殺したお前らはひとり残らず八つ裂きにしてやる!」


 歯をむき出しにして吠えるナンドールに、ジャシントは絶句する。ここまで凶暴で理性を失った彼を見るのは初めてだった。


「ナンドール、落ち着け……!」

「……ずっと、おかしいと思ってたんだよ」


 先ほどまでの怒りが嘘のように静かな声だった。奇妙なその変化に、ジャシントは戸惑う。


「お前、やたらとこの薔薇園に俺を近づかせないようにしてたよな。ユトカを心配してると口では言うくせに、探そうとはしなかった」

「違う、探してたよ。ただ僕は慎重になったほうがいいと思っただけで……」

「言い訳はいい。もうわかってるから。お前……あの女とグルだろ?」

「何を――ぐっ!?」


 突然、太ももが熱くなる。ジャシントの腕が緩んだ隙をついて、ナンドールが拘束から抜け出した。

 彼の手に握られた血の付いたナイフを見て、ジャシントは自分が刺されたことに気がついた。


 ナンドールはジャシントを振り返ることなく、エレオノーラに向かう。


「ナンドール!」


 ナンドールを追おうとするが、痛みで思うように足が動かない。このままではまずい。


 だが、ジャシントの危惧に反して、ナンドールは数歩歩いただけでふらつき、その場に跪いた。

 思った以上にナンドールは衰弱しているようだ。


「くそっ! なんで……!」


 立ち上がろうともがくナンドールの前に、侍女が立ちふさがる。ヴェールをつけた侍女だ。

 ジャシントはハンカチに刺繍をしてくれた侍女だと察した。


「なんだ、お前……。俺の邪魔をするなら、先にお前を――」


 ナンドールの言葉はそこで途絶えた。侍女が彼の喉元を刃物でかききったからだ。


 侍女は呆然とするナンドールに追撃加えた。

 最初に声帯を切られ、何度も刺されたナンドールは一言も発することなく息絶えた。


「ナン、ドール……」


 彼に駆け寄ろうとしたが、強い目眩を感じて膝をつく。

 血を多く流したせいだろう。目がかすみ、体の力が抜けていく。


 倒れたジャシントに駆け寄る姿があった。あの侍女だ。必死で止血をしている。


 その姿が懐かしく、ジャシントは薄れゆく意識の中で、応急処置を終えた彼女に微笑んだ。


「ありがとう、ユトカ」


 彼女の反応を確認することなく、ジャシントは意識を失った。

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