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もっと稼げる仕事

 

 大学の食堂はいつも通りにぎわっている。日替わりランチの食券を購入し、忙しく動く高齢の女性スタッフに渡した。

 

 なんとか空いている席を見つけて、ランチを乗せたお盆を置いた。向かいに誰かが座ってこないように、バッグを置いておく。基本的に一人で食べることが多いが、対面の席を空けておくと、知らない人が急に座ってきたことがあった。それ以来、たとえ誰かと一緒に食べる約束をしていなくても、座席は2人分確保するようにしている。

 

 今日のランチは焼き鮭だ。箸で身をほぐし、皮を皿の端によける。

 

 「あれ、皮食べないんですか?」 

 

 せっかく置いておいたバッグを、持ち主に無許可でどかして座ったのは福田だ。

 

 「もったいない。魚の皮にも栄養ってあるんですよ。オメガ-3脂肪酸ってのが含まれててね、これは血液をサラサラにする効果あり。ビタミンもコラーゲンも豊富なんですから、皮ごと食べないとダメですよ」

 

 あいさつ代わりのうんちくを披露する福田。この男はいつも自分の喋りたいことしか喋らない。花岡とはまた違った嫌われ方をするタイプである。

 

 「そんなに欲しいならあげるよ。ほら」

 

 「いりませんよ、俺潔癖症なんで。他人の使った箸でつまんだ皮を、どうして食べられましょうか」

 

 清潔感のない見た目の男に言われたくない。大半の学生は、福田と食べ物をシェアするなど絶対に嫌だろう。掃守だって、自分が一方的に与えるのはいいにしても、もし福田から食べ物を分けられても全力で拒否したはずだ。

 

 福田は自分の昼食を、掃守の向かいに置いた。

 

 「そ、それ大トロ丼のセットじゃん。高いやつでしょ?」

 

 福田がまさに箸をつけようとしているのは、学食で最も高いメニューである大トロ丼だった。日替わりランチが450円なのに対して、大トロ丼は1400円。サイドメニューで天ぷらも付けているので、合計金額は2000円近くするだろう。学生の身分で生意気な。

 

 「ああ、これですか?別に珍しくないですよ。週3くらいで大トロ丼食べてますし」

 

 近くを通る生徒の何人かが、福田の豪華なランチを興味深そうに見ている。学生バイトの時給はよくても1300円くらいだ。二時間近い給料を、一回のランチにつぎ込めるだけの大胆さを、多くの学生は持ち合わせていない。

 

 「なんですか掃守さん。あげませんよ。そんな物欲しそうな目で見ないでください」

 

 福田が口をつけた大トロは欲しいとは思わないが、せめて箸がまだ触れていないトロの一切れだけでも恵んでもらいたい。それかサイドメニューの天ぷらでもいい。薄っぺらい焼き鮭をつつく自分が、急にみじめに見えてきた。

 

 「なんで福田君、そんな金持ってんの。実家から仕送りいっぱいもらってるとか?」

 

 「やだなあ、大学生にもなって親のすねはかじりませんよ。俺は自立した男ですから。全部自分で稼いだ金で飯食ってます」

 

 きっと金払いのいいバイトでもやっているのだろう。

 

 バイトといえば、この男に紹介された仕事で酷い目にあわされたではないか。

 

 「私に紹介したおひさまクリーニングサービスだけどさ。あれどういうつもり?」

 

 「いい会社でしょう?」

 

 「知ってたの?」

 

 「知ってたって、なにを?」

 

 「だから、あの会社がどういう仕事をやってるかってこと」

 

 「もちろんですよ、清掃会社でしょ。ちょっと血なまぐさいですけど」

 

 「やっぱり知ってたんだ!」

 

 死体処理や殺人犯との戦いが業務内容に含まれると承知の上で、福田は仕事を紹介してきたのだ。まったくどういうつもりなのなのか理解できない。

 

 「お金に困ってるっていうから、いい清掃会社を教えてあげたんじゃないですか。感謝こそすれ、クレームを言われる筋合いはないですよ」

 

 大トロを一枚口に運び、口を閉じて咀嚼したまま「んふふ」と笑う。

 

 「それで仕事のほうはどうでした?昨日が初出勤だったんですよね」

 

 「もう散々だったよ。現場に行ったら死体が転がってるし、なんかそれを追ってかナイフ持った男が襲ってくるし、おまけに先輩は嫌な奴だし」

 

 「嫌な先輩っていうと、もしかして花岡さんのことですか?」

 

 「知り合いなの?」

 

 「俺は個人的におひさまクリーニングサービスとつながりがありますからね。いやー、花岡さんって顔は可愛いんですけど、性格がね。ほんといい性格してますよ。ああいうのが大学でもモテるんでしょうね」

 

 紹介された時から気になっていたが、一体福田はおひさまクリーニングサービスとどのようなつながりがあるのだろうか。

 

 「福田君ってもともとあそこで働いてたとか?」

 

 「いやいや、違いますよ。仕事の関係でね。俺の仕事って、うーん、なんて言ったら伝わりやすいかな。ま、簡単に言うと情報屋ってやつですよ。おひさまクリーニングサービスみたいな裏社会系の組織に、事件の情報とかを流してるんです。あの業界って競合も多いですから、みんな案件の獲得に必死なんですよ。俺がどこどこで殺人事件が起きた、または起きそうっていう情報をキャッチして、それを売るんです。で、高村さんがその情報を買ってくれたら、契約成立。あとの処理はお任せしますってこと」

 

 大トロはすでに半分以上平らげられている。福田は天ぷらをかじり始めた。

 

 この気色の悪い男が、まさか裏社会とのつながりを持っているなど思わなかった。

 

 「そんな高いごはんを週3で食べられてるのも、情報屋の仕事で稼いでるからなの?」

 

 「そうですそうです。昨日掃守さんが行った現場の仕事も、俺から流したやつなんですよ。あれで高村さんから180万もらってますから」

 

 頭がくらくらする。掃守も時給6000円とはいえ、毎日働くわけではないから、週に稼げても10万ちょっとだ。

 

 どうせ紹介するなら、情報屋としての仕事が良かった。


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