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組長の最期

 

 指定暴力団。ニュースでしか聞いたことのない単語が、花岡の口から発せられた。

 

 「ぼ、ぼぼ、暴力団?」

 

 いまいち何をやっている組織かまでは知らないが、少なくとも社会的に認められた存在でないことは確かだ。

 

 先ほど花岡は、お世話になっておりますと言っていた。とすると、この暴力団はおひさまクリーニングサービスの得意先なのだろうか。

 

 「この度はご愁傷様です。これ、ウチの社長からの香典です」

 

 花岡が懐から、黒の帯で絞められた白の封筒を取り出した。香典の類は渡すときのマナーもあると思うのだが、花岡はビラ配りのような雑な動きで、暴力団員の男に封筒を渡した。

 

 受け取った男は、組織内におけるトップに近い存在なのだろう。スキンヘッドの頭に、太い眉毛。黒目は小さいが、睨まれたら動けなくなるような迫力がある。ヤクザものの映画でよく見る、高そうな白いスーツに身を包んでいる。

 

 「こちら吉野さん。原口組のトップ2です」と、花岡が紹介してくれた。

 

 吉野は花岡から封筒を受け取り、「どうも」と野太い声で短い礼を述べた。

 

 「まさか組長さんがお亡くなりになるとは思いませんでした。元気な人でしたよね。私がこの仕事を始めたての時、すごくよくしてくれたんですよ」

 

 大往生した親族の葬儀に来たみたいな口ぶりだが、どうやら暴力団の組長が死んだらしい。そんな軽い感じでいいのだろうか。

 

 「ああ、組長は本当に偉大な人だった。俺たちみたいなはぐれ者の面倒見てくれる、懐の広い人だったよ。あの人がいなけりゃ、俺は今頃その辺で野垂れ死んでた。感謝してもしきれない。だから…」

 

 吉野が奥歯を噛みしめ、額に青筋を浮かべる。

 

 「許せねえんだ、組長を殺したやつが!」

 

 吉野がテーブルを叩き、周りに立っていた部下の男たちが肩を震わせた。

 

 原口組の組長の死因は、他殺らしい。

 

 「死体はどちらに?」

 

 「こっちだ」

 

 吉野が踵を返して、部屋の奥へと進んでいく。周りの部下が道を開けた。掃守と花岡は、威圧的すぎる花道を潜り抜けて、組長の死体が安置されている部屋へと案内された。

 

 キングサイズはあろうかという巨大なベッドの上に、死体は寝かされていた。組長というからどんな恐ろしい顔をしているのかと思ったが、案外柔和な顔つきをしている。生前は眉間にしわを寄せて、獣のような表情で相手を威嚇していたのかもしれないが、もう表情筋は動かない。そのおかげで安らかな顔に見えるのか。

 

 普通は人が死んだら葬儀場に連絡して、通夜、告別式、火葬という流れだ。組長が一切手つかずなところを見ると、やはり裏社会の人間を、通常の方法で荼毘にふすことは出来ないのだろう。あとで花岡に聞いたところによると、暴力団員の葬儀は一般層ではなく、義理事として、特別な作法のもとに行われるらしい。香典の金額も、トップレベルの葬儀であれば数億に上るのだとか。

 

 「お久しぶりです、組長さん。生前はお世話になりました。おかげで私も立派に、強くなれましたよ。どうか安らかにお眠りください」

 

 花岡は躊躇なく組長の顔に触れ、子供を寝かしつける親のように優しく撫でる。吉野はそれを咎めることなく、部屋の隅で直立姿勢で立っている。一切面識はないが、一応お悔やみの言葉を言ったほうがいいのだろうか。掃守が適当な言葉を考えているうちに、しんみりとしたムードは花岡によって打ち切られた。

 

 「はい、お別れはこれで終わりです!今回は他殺だということですけど、犯人は分かってるんですか?」

 

 「昔から因縁のある組のやつだ。俺たちがちょうど出払ってるタイミングで侵入して、組長を殺しやがった。監視カメラにわざと映るように、見せしめみたいにやりやがったんだ。舐めやがって!」

 

 監視カメラの映像を見せてもらった。犯人の男は単独犯ではなく、3人で原口組の事務所に突入し、掃守たちが今いる部屋の扉を破壊。年配の組長が若者3人相手に抵抗できるはずもなく、胸を一刺しされて殺された。苦しむ間もなく絶命したようで、安らかな顔で眠っているのはそのせいかもしれない。

 

 犯人たちは吉野が言った通り、監視カメラに見せつけるように、殺害後の組長を踏んづけたりしてアピールしている。なんとも下品な連中だ。

 

 映像の再生が終わる前から、花岡は清掃道具の準備を始めていた。お世話になったとか言いながら、実はあんまり興味がないのではなかろうか。

 

 「ひどい犯人ですねえ。さーて、お掃除始めますか。掃守さん、モップがけからお願いします」

 

 


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