間奏 6時のニュース
1993年4月――
キッチンの包丁が、まな板を打つ音をやめた。
アロエの葉に青い光が移る。
伯母はリモコンを探し、テレビの音量をひと目盛りだけ上げる。
「六時……」
鍋の湯気が窓に触れる。
(ジングル。スタジオ。冷たい雨が窓を叩くSE。カメラ、アンカーへ。)
ジョーミン(スタジオ):「最初のニュースです。モスクワ郊外のパフラ河畔で少年とみられる遺体が見つかりました。警察は身元の特定を急いでいます。」
(映像:郊外の川べり。黄色テープ。レインコート姿の警察と鑑識。低い雲、雨粒。)
記者:「発見があったのは今朝、州西部の川沿いです。散歩中の住民から『岸の茂みに衣類のようなものが見える』との通報があり、警察が周辺を捜索したところ、少年とみられる遺体と衣類の一部を確認しました。靴は見つかっていません。」
(映像:ブルーシート、番号札、証拠袋へ入れられる布片。川面に雨の輪。)
近隣住民(音声加工):「ここは流れが緩む場所で、春先はゴミが引っかかるんです。朝は冷たい雨で、誰もいないと思っていました。」
(映像:庁舎前・傘を差す広報担当。短尺コメント。)
担当官:「現在、鑑定の準備を進めています。推測は差し控えますが、過去の失踪事案との関連も含め、慎重に確認します。」
(映像:市内掲示板の行方不明ポスター(顔はぼかし)。ろうそく、花。)
ジョーミン:「当局は、3年前から相次いだ少年の失踪との関連を否定しておらず、身元の確認には時間を要する見通しです。現場一帯は今夜も雨。証拠保全のため規制が続きます。新しい情報が入りしだいお伝えします。――続いて天気です。」(BGM)