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春風が心地よい、とある晴れた日。



リリアーナとアレンの結婚式が執り行われた。

式場は、芳しい花の香りに包まれ、招待客たちの笑顔が溢れている。純白のウェディングドレスに身を包んだリリアーナの隣には、燕尾服姿のアレンが穏やかに微笑んでいた。彼の横顔は、緊張しながらも、喜びと決意に満ちている。


父のレジナルドは、もちろん最前列に陣取っていた。

その瞳は、式の開始からずっと、花嫁の私と花婿のアレンをじっと見つめている。彼の鼻が時折ピクリと動くのは、この晴れの舞台でも「猫センサー」が稼働している証拠だろう。母のイザベラは、そんな父の腕を優しく撫でながら、微笑んでいた。



「リリアーナを、生涯かけて愛し、守り抜くことを誓いますか?」


神官の問いに、アレンは迷いなく答えた。


「はい、誓います」


その声は、これまでで一番、力強く、そして温かかった。

私もまた、アレンを見つめ、心を込めて誓いの言葉を述べた。指輪が交わされ、誓いのキスが交わされる。

その瞬間、父の目尻が、わずかに潤んでいるように見えた。彼は、口元をゴロゴロと鳴らすような微かな震えを帯びながら、満足げに頷いていた。




結婚式の数日後、アレンは夜会で出会った黒猫を我が家に連れてきた。彼の研究室で大切に保護されていたその猫は、艶やかな毛並みを持つ、賢そうな目をしていた。


「ご紹介します。私の、そしてこれからは私たちの新しい家族となる、ノワールです」


アレンは、ノワールを優しく抱き上げ、私と父、そして母に紹介した。ノワールは、警戒しながらも、アレンの腕の中で小さく喉を鳴らしている。


父は、ノワールに近づくと、警戒したように鼻を鳴らした。

だが、ノワールは父の匂いを嗅ぐと、なぜか警戒を解き、父の足元にすり寄ってきた。そして、父の足に体を擦り付け、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。

父は、信じられないものを見るかのように目を丸くしていたが、やがてその顔に、安堵と喜びの表情が広がった。


「フム……なかなか、筋が良いではないか」


父は、優しくノワールの頭を撫でた。その手つきは、まるでモチが子猫を慈しむようだった。ノワールもまた、父の撫で方にうっとりとしている。母は、その光景を見て、くすくす笑いながら言った。


「あら、レジナルド。可愛いお友達ができて、嬉しいのね。全く、本当に猫には甘いのだから」


父は、母の言葉に不満げに鼻を鳴らしたが、その口元は緩みっぱなしだった。


ノワールも、すぐに我が家に馴染み、父の日向ぼっこに付き合ったり、母の膝の上で眠ったりと、愛される存在となった。アレンとノワールの存在は、私たち家族の絆を、より一層深めてくれた。





結婚後、アレンは約束通り、商会の経営に携わることになった。当初は慣れない商売に戸惑うこともあったようだが、彼の植物学者としての知識と、持ち前の真摯な姿勢は、すぐに商会に新たな風を吹き込んだ。


「レジナルド殿。猫の健康は、彼らが口にするものだけでなく、彼らの暮らす環境にも大きく左右されます。わたくしは、この国の土壌や気候に合わせた、より自然で安全な猫用ハーブの開発を提案します」


アレンのアイデアは、父の商会にさらに付加価値をもたらした。

彼が研究開発した「猫の安眠を誘うハーブの香り玉」や「毛艶を良くする栄養満点ハーブ入りおやつ」は、瞬く間に貴族の間で評判となり、商会の売り上げは飛躍的に伸びた。


アレンは、持ち前の穏やかさで、取引先や従業員とも良好な関係を築き、その誠実な人柄は多くの信頼を得た。私もまた、彼のサポートをしながら、商会の運営に携わった。


レジナルドは、当初は「学者の考えなど」と半信半疑だったものの、アレンの提案が次々と成功を収めるにつれ、彼に絶大な信頼を寄せるようになった。



「アレン、お前は本当に嗅覚が優れている。これは、私の及ばぬ領域だ。この商会は、お前がいれば、どこまでも伸びていくだろう」


父は、心底から満足げな顔で、アレンの肩を叩いた。

その言葉は、もはや「婿」としてではなく、「後継者」としてのアレンを認める、深い信頼の証だった。



私とアレンは、たくさんの猫たちに囲まれながら、温かく、幸せな日々を過ごしている。父は、相変わらず過保護な「猫系パパ」だが、今ではアレンという「本物の猫好き」を得て、心なしか穏やかになったように見える。


前世で私を愛し、見守ってくれたモチ。今世で私の父となり、私の幸せのために奮闘してくれたレジナルド。そして、その厳しすぎる「猫センサー」を突破し、私を心から愛してくれるアレン。


これは、猫の愛が紡いだ、家族の物語。そして、これからも、私たちの愛は、たくさんの猫たちと共に、この世界で育まれていくだろう。





おしまい

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