2. いまから
母さまが魂をわけて下さっていたのに。
魔女はそう言った。緑の帳の中で、手頃な木の枝に腰掛けて、追手の男たちを悠然と見下ろしている。突然消えた化け猫に慌てる男たちを。
母子の時間を邪魔するなんて、なんて乱暴なひとたちなんでしょう。
密林の暑さも鎮める涼やかな声に、彼らが上を向く。
一瞬の後、魔女は一人の男の背後にあった。ユエの喉を切ろうとした男、さっきまであったはずの両手を眼前に叫び続ける男に、囁いた。
痛い? 手が塵になるのは痛い? 母さまはもっと痛かったのよ?
次には射手の眼前にいる。
その膝から下が塵に変わって、沢に残りの体が落ちる。
魔女は舞うように宙を歩み、無邪気な笑みをこぼした。藍色の左目が、男たちの意思を奪う。金色の右目の中で、ユエはリールーと共にそれを見ている。
宙を滑り、踊り、歌うように魔女が言って聞かせた。
みなさんを集めてきてくださる?
わたし、思い付いてしまったの
食べづらいモノでもね
ひと工夫すればおいしくなるのでしょう?
発酵だなんて、あなたたちって神秘的
でも、こういうのは発酵とは言わないのかしら?
むずかしいわ、ふふ
わたしね、情念に満ちたモノの怪がとても好きなの!
ねぇ、あなたたち
いまからモノの怪になって?