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出会い

少し肌寒い日の夕方。

アイシアはローズベリー王女との勉強会の後、北の塔に向かって歩いていた。アイシアは本が好きで、城に通うことになった時、一番喜んだのは王宮の図書館に出入りが出来るようになったことだ。

王宮は広く、先日のお茶会の庭園のほど近く、城の東側にかなりの蔵書数を誇る大きな図書館が1つ、そして北の塔に専門書ばかりを置いてある小さな古い図書室があり、アイシアは魔術の専門書が見たくて何度も北の塔の小さな図書室を利用していた。

専門書とだけあって、人もほとんどいなくて、いつも静かだった。

その日は少し遅い時間になったせいか、借りていた本の返却に図書室へ入ると、図書室の管理人は不在で、戻るまで気になっていた魔法の本を探しに奥へ進んだ。

…?

何かしら…。

キラキラ…。

温かい魔力が流れてくるのを感じるわ…。

不思議に思い、進んでいくと、青い顔をした小さな男の子が座り込んでいる。

人の気配に顔を上げた男の子は、アイシアを見て、固まってしまった。


「あの…こんにちは。私はアイシア・ジョゼットと申します。」


美しいカーテシーで挨拶するも、微動だにしない男の子に不思議に思い、近づくと、慌てて男の子がアイシアから距離をとるように離れた。

「近づかないで。けがをさせてしまう…。」

暗い瞳をそらし、アイシアにそう言うとそのまま背を向けて行こうとする。

「なんて…キレイな魔力…。」

思わずこぼれてしまったという様に呟いたアイシアに、男の子は驚いて足を止めた。

「え…?」

「とってもキラキラ光って綺麗な魔力…。」

キラキラした目で自分を見つめるアイシアを、深い紫の瞳でまっすぐにみつめ震える声で問いかけた。

「君は…魔力が見えるの…?」

大きなエメラルドの瞳が優しく細められる。

「はい。父に魔法について教わっている時に、人それぞれに見える光が魔力だと気づきました。いろんな色や光り方を見てきましたが、あなたの魔力が今まで見た中で一番綺麗。キラキラ優しい光。七色に光って…暖かくて…。でも、あなたの魔力、大きすぎてあなたから溢れそう。」

「…!!」

ビクッと顔を歪めた男の子を見て、アイシアは自分が何か失言をしてしまったのかと、伺うようにそっと近づいた。

「ダメ…、僕に近づいたらケガを…」

「大丈夫です。顔色が悪いわ…。触れてもいい…?」

小さな白い手がルーファスの手にそっと触れる。

「…え…?」

アイシアが触れると優しい温度がふわりと体を巡る感覚がしていつもギュウギュウにあふれそうな苦しさを感じていた何かがアイシアに向かって流れたように感じた。

「ね…?大丈夫でしょう?今、あなたの魔力を流したの。あなたは魔力が大きいのに、いれる器が足りないみたい。」

触れた手にもう片方の手も重ねてアイシアはニッコリ笑って、魔力について話す。

魔力の大きさは普通その人の中にある魔力の器に合うものが備わっていて、ほとんどの人がその器にある自分の魔力を操作して魔法を使うのだが、時折、魔力が大きすぎて本人の器を超える者もいる。そういう者は、幼い時から魔力操作と言って自分の中の器を大きくする練習をするのだと。

アイシアもとても魔力が多くて幼い時に何度も魔力が溢れて大変だった。幸運なことに父親が魔術師団の団長という、いわゆる王国一の魔法の専門家だったおかげで、魔力操作について教わり、今は魔力が見えるほどに得意になったと。

「それ…僕も…出来る…?」

「もちろんよ。あなたの魔力はとても優しくて暖かいわ。あなたから流れた魔力はとても心地良い。

きっと相性がいいのね。お父様がおっしゃっていたわ。魔力の相性がいいと、心地いいのだと。

あなたの魔力はとっても多いけど、もともとの器もとても大きいわ。あふれたものを、最初は上手に流す練習をして、少しずつ、器を大きく、魔力の操作も覚えればいいと思うわ。私、よくここに来ているから、あなたに教えてあげる。」

花が咲くように笑う明るいアイシアの笑顔を見つめたあと、男の子はアイシアが触れる自身の手に意識をうつした。


温かい…。

誰かに触れたのは記憶のある中では生まれて初めてだ。

近づくと溢れた魔力が暴走して人を傷つけてしまうし、外に出たこともなければ人と話すこともない生活。

このまま生きていてどうなるのだろうと、いつも思っていた。

「本当に…また来てくれる…?」

声が震える。

僕がだれかわかったら…

「もちろんよ。私、またあなたに会いたい。あなたの名前を聞いてもいい?」

「僕は…僕はルーファス…。ルーファス・フェイレイ」

「ルーファス…?まさか、ルーファス第二王子殿下…ですか…?」

エメラルドの美しい瞳が揺れる。

あぁ、僕が誰か知ればこの少女も離れていってしまう…。

「まぁ、私…知らなくて…ルーファス殿下に失礼な態度を…。申し訳ありません…。」

そっと手を放す。

生まれて初めて感じたぬくもりが離れていく。

「やっぱり…もう来ないよね…。僕は捨てられた厄介者の第二王子だから…。」

フラッとアイシアから一歩離れる。

すると驚くことにアイシアは一歩踏み出して僕に近づいた。

「勝手に触れてしまって申し訳なく思いましたが、会いに来ていいのなら毎日来ます。

ルーファス殿下はご迷惑ではないですか?」

大きなエメラルドの瞳がまっすぐ自分を見つめている。

「会いたい…し、魔力操作を教えてほしい…。」

そう言うと、少女は嬉しそうにに笑った。

その笑顔の眩しさに声を失う。

「よかった。ではまた明日、このくらいの時間で大丈夫ですか?私はローズベリー王女殿下の友人として魔法を教えに毎日王宮に通っています。」

そういうと、また、優しい笑顔で笑う。

僕に笑顔を見せてもいいことなんてないのに。

眩しいほど可愛い笑顔を見せるアイシアに鼓動が大きくなった。

また明日…

本当に来てくれるだろうか…。

不安そうにアイシアを見つめるルーファスの顔をじっと見つめながら、アイシアは何かに気付いたように、両の手のひらを僕の首のあたりにかざした。

「…?」

しばらくじっと見つめたまま、少し言いづらそうに言葉を選んでいる様子がわかって、どうしたのかと尋ねた。

しばらく言いよどんだ後、少しだけ魔法をかけてよいかと尋ねる。

「魔法…?」

小さく2度、コクコクと頷くと、僕の返事を待つようにじっとしている。

よくわからないまま、ルーファスが頷くと、ホッとしたように息を吐くと、ゆっくり僕の首に両掌をあてた。


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