王城のお茶会
ピョコピョコと揺れる黄色のふわふわ…
あれはなんだろう…
美しい庭園の花々の奥にある木々が茂った場所へ向かってふわふわと黄色い何かが揺れている。
今日は王城の庭園で、お茶会が開かれている。
城の西側にある春の庭と呼ばれる庭園には色とりどりの花が咲き誇り、同じように色とりどりのドレスを身にまとった8歳から14歳までの高貴な貴族令嬢、そして令息達が集められ、華やかな雰囲気が漂っている。
フェイレイ王国の王室には12歳の第一王子、9歳の第3王子、6歳の王女がいて、王太子である、ヴァルシル殿下の婚約者を決めるためのお茶会だ。
そんな中、朝からいつもと違う、清楚な水色のドレスを着せられたジョゼット侯爵家のアイシアは、挨拶もそこそこに、お茶会に飽きてしまい、見るともなしに庭園の花々をぼんやりと眺めていた。
その時、何かが動くものが目の端に映り、気になって目を凝らしていると、黄色いフワフワしたものが庭園の奥の木々の間に見えた。
傍にいた父を見ると、先ほど挨拶を交わした騎士団の方と話し込んでる様子で、そっとアイシアはお茶会の会場を抜け出し、黄色のフワフワを追ってみることにした。
奥へ奥へ進む黄色のフワフワはよく見るとリボンのように見える。
アイシアは音をたてないように近づいていく。
猫…?にしては大きい。
でもニャーと鳴く可愛い声も聞こえる。
木々に囲まれた中にある、草陰で丸まる黄色のフワフワをそっと後ろから覗き込むと、
そこにはとても可愛らしい黄色のリボンをした小さな女の子が猫を抱いて座り込んでいた。
「あ…。」
見つかってびっくりしてこちらを見つめる茶色がかった琥珀色の目が真ん丸と開かれる。
ニャー
小さく鳴き声を上げた真っ白の子猫はまだとても小さい。
「こんにちは。可愛い猫ちゃんですね。私はアイシア・ジョゼットと申します。」
同じ目線になるように座り込んでアイシアが声をかけると、女の子は子猫を自分の胸に抱き寄せた。
「急に声をかけてしまって申し訳ございません。黄色のリボンが動いているのが見えて、ついつい追いかけてしまいました。」
ニッコリ笑うと、女の子は少しホッとしたように息を吐いた。
「私はローズベリー…。」
ローズベリー…。
アイシアはその名前を聞いてハッとした。
今日のお茶会には体調不良で参加されていないけれど、王女殿下のお名前だ。
「お兄様のお茶会に私も行きたかったのに、お母様が、ダメだって…。私がまだ、しゅく…しゅくじょらしく出来ないからって…。」
つまらなさそうに下を向いたローズベリー王女は子猫をそっと地面に下ろした。
そのとたん、子猫はあっという間に木々の生い茂る奥へ走っていく。
「…あ…、待って…!キャッ…!」
思わず追いかけようとしたローズベリーは木の根に足を取られ転んでしまった。
慌ててアイシアが抱き上げると、転んでついた時に木でこすれた手のひらに血がにじんで、大きな瞳が瞬く間に涙で滲んでくる。
アイシアは王女の手のひらの傷にそっと手をかざすと小さく呪文を唱えた。
ローズベリーの手がフワッと温かくなり、見ると滲んだ血も消え、綺麗に傷がなくなっている。
「え…?」
びっくりして涙の引っ込んだローズベリーが可愛くて、フフッと笑うと、アイシアはローズベリーの顔を覗きこんだ。
「ローズベリー王女殿下、他に痛い所はありませんか?」
「あなた、魔法、使えるの?」
「はい。父が魔術師団で働いておりますので、私も小さな時から魔法に触れることが多かったのです。聖魔法は得意ですので、ケガの治療なら出来ます。」
ニッコリ笑うアイシアの優しいエメラルドの宝石みたいな瞳を見つめ、ローズベリーはアイシアの手を握った。
「あなた、私のお友達になって。それで私にも魔法、教えて。」
真剣な顔で下から覗き込む可愛らしい王女に、アイシアは優しい気持ちになる。
ローズベリーの手から感じる魔力はとても温かい魔力で、きっと素晴らしい王女様に成長するだろうと思った。
その後、王女を探していた護衛に見つかり、連れ戻されたローズベリーは、自分に甘い父である国王にアイシアを友達として王城に呼ぶことをお願いしたそうだ。
そういう事で、お茶会を抜け出した私は、父に大目玉をくらったものの、定期的にローズベリー王女殿下のもとへ友人兼、家庭教師として通うこととなった。
結局、そのお茶会では、ヴァンシル殿下の婚約者は決まらず、王太子妃教育が滞ることを心配した議会で、王妃の選んだ3人の令嬢が婚約者候補として決まったそうだ。
「お前のようなおてんば娘が万が一にも殿下の目に留まってしまったらどうしようかと心配していたが、本当に良かった。」
と、とても失礼なことを父に言われたが、そこは否定出来ないので黙った。
「お父様、そういえば今日のお茶会には第二王子はいらっしゃらなかったのね。ヴァンシル王太子殿下と、第三王子である、フィリップ殿下はいらっしゃったのに。」
すると、父は思案するように小さくため息をつく。
「あぁ…。そうだな。第二王子であるルーファス殿下は…お体が弱いとのことで、私もまだ、一度もお会いしたことがないのだよ。」
「まぁ、そうなのですね。お辛いでしょうね…。」
その時は父の顔が暗いことに気付かなかったが、その後、すぐにその理由を知ることとなる。




