第十三話 まどろむ少女は夢を見る(1)
歓迎パーティーが行われる時間となった。イーリスお嬢様の家(屋敷)の前には、十人くらい乗れそうな馬車が止まっている。
「行ってくるね」
軽く手を振るイーリスお嬢様に俺とトリアは並んで見送る。馬車の扉を開けたのは、俺に手紙を渡してきた人のようだ。
「い、イーリス様、」
「貴方はチェインくんのトコロの男爵様の」
イーリスお嬢様の美しさに目を丸くしたが取り巻きは、すぐに身を正し、馬車内へ案内した。彼も馬車内に乗り込み馬車は出発する。
俺とトリアは、その馬車が見えなくなるまで見送った。
「さて、残った家事を片付けますわ~」
「手伝うよ。馬の世話で雇われているのに、世話がいらない馬だし」
エサをすべて魔素に変換して、動力にするってなんだろう。しかも自動洗浄付で常に柑橘系の香りがしている、馬?である。
「でしたら、重い物を運ぶのを手伝ってもらいますわ」
「うん」
俺とトリアは、掃除をする手順を話し合いながら家(屋敷)に入ろうとすると声をかけられた。
「失礼します。歓迎パーティーのお知らせをお持ちいたしましたが……。イーリス・ヴァイス伯爵令嬢様にお仕えしている方々でよろしいですか?」
「え?」
歓迎パーティーのお知らせ……? イーリスお嬢様は今、歓迎パーティーに行ったばかりだけど……? 敷地の外から話しかけてきた少年は、生徒会執行部広報委員の腕章をつけていた。手には俺が渡された手紙とよく似た手紙。
「どういうことですの? 歓迎パーティーは今日ではございませんの?」
「……? 本日行われる行事の届けは、生徒会にはありませんでしたよ?」
…………………………。嫌な予感がした。俺が動かないでいると、トリアが生徒会執行部広報委員の少年から手紙を受け取る。少年は受け取りのサインを求めてきたのでトリアは応じた。
「……………………あの、」
「はい? なんでしょうか?」
「歓迎パーティーと言うカタチで、個人が行う事はできますか……?」
「できますが、その場合でも生徒会の届けでは義務となっています。貴族様の御子息、御息女を預かる側としては、ある程度の管理や規律が必要ですから」
「…………そう、ですか」
失礼しますと、少年は話し去っていった。
「トリア。行き違いとか、勘違いとかだと思うか?」
「……さて、どうでしょうね。外の世界の貴族と言う地位が、どれほどの意味を持つのかは私くしには、分かりかねますわね~」
飄々とした雰囲気のトリア。トリアにとってイーリスお嬢様は、その他の大勢の人間と大差ない。興味が出ないと積極的に関わろうとしない邪神なのだ。
「…………俺は、イーリスお嬢様のトコロに行く」
俺の顔を見て、ため息をつくトリア。
「—————————邪神域、発動いたします。範囲はこの学園都市すべて―――――」
刹那。トリアを中心に薄い黒い膜が広がり、学園周辺を包み込んだ。俺にはわからなかったが、近所を歩いていた人たちが肩を震わせ、その場に座り込む。
「————————見つけましたわ。目標は、後三分ほどで学園都市の敷地から出ますわね」
「ありがとうっ!」
俺は、急いでUMAー3000こと白銀に乗る。追いつけるか? いや、レイナ製の魔道具、なんとかなるだろう。
「素手でどうするつもりですの。これでも持っていってくださいまし」
トリアの傍に黒い渦が現れた。トリアはその渦に手を突っ込んで見覚えのある木の枝を取り出し俺に渡す。
「この木の枝は、私くしが最初に造った……ただの鈍器ですわ。邪神ぱわーは見せかけだけで使えませんし、斬れないので」
「それでも心強いよ」
「まったくもう。私くしも屋敷の戸締りをしてから参りますので、お気を付けて」
トリアの言葉に俺は頷き、白銀を走らせた。




