第五話 士官学校のお姫様
「迷宮での本?がきっかけなら、その本はどこにいったんだ」
「それが……わからないんだ、オレが倒れいるメイスを見つけた時にはどこになかった」
「盗まれたとか……?」
「いや、どうだろう、メイスがした儀式は厳重でオレくらいしか入れないようになってたからな……」
うーん、魔法を使った時に消えたとか、本は消費アイテムだったってことなのか……?
「なら迷宮ですぐに本を探すのは?」
「今は夏季休暇中だからな、迷宮に行くならすぐに行けぞ、それに、オレ達みたいな士官学校の生徒は迷宮に行って魔物を倒すことが必要単位に入っているからな」
「魔物……。迷宮って迷路じゃなくてダンジョンなのか……」
なんだか急にファンタジー感がでてきたぞ。
「だんじょん?昔はそう言ったのか、まぁ、そのダンジョンに魔物がいて、その魔物がたまにアイテムを持っているんだ、本もその一つってわけだ」
ドロップアイテムのなのか……。…………そもそも俺は魔物なんて戦えるわけないよな。メイスの身体がどんなスペックかしらないけど、戦いなんて素人どころか、戦いとか画面越しの世界だし。
「困ったな、俺は戦えない……」
「うん?メイスは基本的に戦わないぞ」
「え、どういうことだ?」
「メイスは荷物持ち、アイツはまったく実践では役に立たないからなぁ、オレのような戦うタイプを支える役割だ」
そ、そっか……、メイスに少し親近感がわいた。
「それじゃあ、俺も荷物持ちでいいかな、後ろから応援しているよ」
「おう、まかせておけ、これでも剣の腕は自身があるんだぜ、なんせ、小隊規模で挑む迷宮にずっとメイスと二人で挑んでたんだ」
「いままで、それでよく——」
コンコンと扉をたたく音がした、お客らしくクレイが対応する。
「こ、これは、」
上擦った声で動揺しながら直立したクレイに、俺は何事かと様子をうかがうため、クレイの傍にきた。
「そんなにかしこまられても困るんだけど、あら、貴方が例の」
思わず息をのむ。現実世界ではそうそうお目にかかれない美人がいた、腰まで届くほどの長い黒髪に切れ目がちな瞳、すごいとしか言えないくらいのスタイルの良さ。
「あばぁやっ!」
思わず舌を噛む、痛い。恥ずかしい。つらい。
「昔はそんな挨拶をしていたの?」
「ははは、多分メイスのやつ、姫様の綺麗さに驚いたんですよ」
「あら、それは光栄ね、それとクレイモアくん、私と貴方の仲じゃない、敬語はなしって言ったわよね」
「いやいや、さすが王位継承権第十二位の姫様に敬語使わないなんてありないですよ」
…………なんだろうこの空間。この綺麗な人は偉い人で、その偉い人と言い感じの孤児院出身の青年……も、もしかして砂糖を吐いてしまう案件なのか!
「うふふふ、今度こそ貴方を倒すのは、この私よ。士官学校創設以来の天才剣士さん」
「ははは……、勘弁してください」
違ったっ!お姫様の目は獲物を狙う狩人の目だ、見た目の割に脳筋の気配がするのぞ。、それとクレイ、すごかったんだなぁ、そりゃあ、ダンジョンを荷物持ちとの二人だけでいけるわけだ。
「と、私はクレイモアくんに話に来たんじゃなかった、メイスくんでいいのよね?」
「あ、はい」
俺は頷くと、にこやかにお姫様は微笑み礼をした。
「私くしはパール・ポラリス。パラリス王家王位継承権第十二位の者。悠久の刻を超え、我が国においでになられた貴殿を丁重に御もてなししたく存じます、どうぞよしなによろしくお願いいたします」
あまりの急な変わり身に俺は戸惑い返事をする。
「よ、よろしくお願いします、えと、ポラリス姫様……」
「パールでよろしいですよ。この士官学校の規則で卒業するまでは、どのような身分の者でも横並びであるが基本ですので」
「え、えっと」
「この学校はな、色んな種族を混ぜるために作られたんだよ、融和政策とかいうやつ」
クレイが小声で教えてくれた、なるほど。
「えっと、それじゃあ……パールさん。俺はメイス・イクリプス、彼の変わりに過ごすことになったんだ」
「そうなのね、私が今来たのは魔法学科を案内するためよ、担当教師に頼まれたの」
「魔法学科?」
「あ~、そうなんだよなぁ、オレはメイスとは専門学科が違うからその辺りは案内できないしな、一応先生に頼んでおいたのに、まさかパール姫をよこすなんて」
「あら、私じゃ不満かしら?」
「滅相もないことでございます、ちょっといいかメイス」
パールさんから距離を置いたクレイは俺の傍で小声で話す。
「オレな、あの姫さんめちゃ苦手なんだよ、キリッとしていて隙がなさすぎてさぁ、油断ならないから気も抜けない、と言うわけで、」
「?」
「案内終わって無事ならここに帰って来いよぉぉぉぉぉお」
と、見事なバックステップで廊下を華麗に走り去っていった。
「ちょ、ちょおおおい」
こんな美人さんと二人とか勘弁してくれぇぇぇ、どう対応していいかわからないだろうぉぉぉ。
「まったくもう、ずいぶん嫌われたわね、うふふ」
ひぃ、眼光が鋭い、向けられた視線が俺じゃないとわかっていても背筋が震えるのはなぜだろう。ビクビクと怯える俺に、穏やかな笑顔を向けた。
「ごめんなさい、どうも彼が絡むと闘争心が抑えられなくて」
え、嗜虐心の間違えじゃ。と思わず口にしようとして押し黙る。
「えーと、まずどこから案内しましょうか?」
「そ、それなら……」