第二話 十二女神の加護
「話……」
「そうじゃ。お前も今年で十五歳なった」
重々しくじいさんは、俺の年齢を指摘する。何の話を始めるのだろう?
「……そう。お前を拾ったのは、白く美しい牡牛がお前を背負ってきたのを見た時だ」
「え、橋の下に捨てられてたんじゃなかったけ?」
「…………そうじゃったか?」
「い、いや、俺に聞かれても……」
「ごほんごほん。と、とにかく、儂はお前を拾った時、衝撃を感じた。この子には何かあると」
「う、うん」
ま、まあ、転生してきてるし。
「ここは田舎で、外の情報は入ってこない。だから、お前は知らないだろうが十代半ばになると少年少女たちは、女神の加護をもらいに、神殿に行く決まりがある」
女神の加護……?
「世界を守護する十二の女神。女神たちの加護を持って、この世界の秩序は守られているのじゃ」
……………秩序を守る加護……。それは魔法みたいな力なのだろうか。
「トーラス。お前ならば、良い加護をもらえるだろう」
「そうかな?」
「ああ。加護をもらった後は加護に相応しい人間となるために、女神学園へと入学される。三年ほどな」
え……。入学?!
「そ、それって、神殿からすぐに?」
「そうじゃ。加護をもらったまま行方くらます者を防ぐためじゃろうな」
厳しい管理体制を想像して、俺は困惑した。
「…………村の者たち全員で準備した。外に行く時が来たぞ」
フクロウの鳴く声が聞こえる。俺は自分の部屋で天井を見ながら、まったく寝付けないでいた。
「村の外……か」
俺の目的は、あの世で見た悲惨な結末を回避する事だ。
「ただ、なんていうか……」
この村の穏やかな生活が終わることに、俺は少しの寂しいと思った。
翌日の朝。俺は村の人たちに囲まれながら村の端にいる。傍には行商人のヘルメス爺さんの馬車が止まっていた。俺を神殿のある街まで送ってくれるらしい。
「忘れ物はないか?」
「大丈夫だよ。ヘラば、おねえさん」
そう言いながら俺は自身の恰好を確認する。俺が育てた羊たちの羊毛を使った外套や衣服だ。アテナばあさんが仕立てくれた。
「ちゃんと鞄は持ったかい? 狩人が使う用だけどね」
「うん。ありがとう。オリオン爺さん」
丈夫な皮で作られた鞄を肩から下げている。
「腕輪はちゃんと嵌めているな」
じいさんは、静かに俺の腕を見ながら口にした。俺の腕にはじいさんが作った腕輪。腕輪には装飾は一切ないが、素朴な美しさがあった。
「……その腕輪は、一度だけ持っている人間を守ってくれる。好きに使え」
じいさんと、オリオン爺さんが話していた腕輪とは、俺がつけているものだったらしい。
俺はじいさんにお礼を言う。
「そろそろ。時間ですよ」
ヘルメス爺さんの言葉に俺は、村の人たちに手を振り、馬車に乗り込んだ。
馬車から村の様子が見えなくなるまで俺は、ずっと手を振り続けた。一瞬だけ、村のお爺さんお婆さん達が、妙齢の美男美女に見えたのは、きっと涙で視界が歪んでいたせいだろう。
「…………行ったか。まったく気を使わせおって」
「仕方ないよ。人間なんて我々からしたら、とても脆い存在だからね。魔力と共存して、やっと名前と姿を取り戻したけど、我々は神族だし」
「神域耐性を付けた人間に育てるなんて面倒くさい。半神半人にでもしとけばよかったんじゃよ」
「それだと、ここが色ボケ邪神の領域内でも十二女神に気付かれるわよ。あの腕輪でギリギリ。もちろん、我々が待つ技術も駄目ね」
「……千年。我々にしても長い月日だ。本来いない者ですら増長するほどのな」
「ため息しかでんわい」
「おや。『じいさん』は気に言っていたのでは?」
「はっ、さぁてな」




