第四話 メイス・イクリプスになる
二段ベットが二つと四つの机が置いてある寮に連れていかれるまで、俺は意識は混乱していた。
その間、俺の手が手当されて数秒で治ったりや、クレイモア・イクリプスが、王都警備隊を名乗る人たちに注意を受けたりと色々あったがおおむね覚えていない。
「いやぁ~、今回のことは大目に見てくれるって、よかったよかった、なんかテロ起こす連中の一人だったらしくてさぁ」
「…………」
「あ~、ここはオレ達の部屋な、ほんとうは班が割り当てられて、その班で生活を共にするんだけど、事情があってオレとお前さんの二人部屋だ、えと、下のベットがメイスで——」
「な、なぁ、これは夢じゃないのか?」
「夢?」
夢なら覚めてほしい。俺には学校/仕事とか、家族、見たいアニメとか、たくさんある、そもそも急に生活を変えろと言われても無理な話だ、現実にそれほど不満はない、と思いたい。
「……夢とか思っていたのか、まぁ、そりゃあそうか、1千年前がどんな世界かは知らないけど、オレだってメイスからこの話を聞いた時、正気を疑ったもんな」
「も、元の世界に帰る手段とかはないのかっ、そのメイス、子の身体の主からは何も聞いてないのかっ?!」
クレイモア・イクリプスは、黙って首を横に振った。彼は本当に何もしらないのだろう、おそらくただの案内役だ、そう思知った俺は肩を落とす。
「…………」
「…………」
沈黙が重い。俺をここに連れてきたメイスという少年はそもそも何がしたかったんだ。
「…………アイツ、メイスが迷宮で本を見つけてからだ」
「迷宮で本?」
「本は中がボロボロでオレには何が書いてあるかわからなかった、でもそれを見た時にメイスは、何かにとりつかれたかのように本に没頭していた」
「…………」
「これで、ボクの論文は正しいかったとか、これで学会の連中は無視できなくなるとか、」
論文……。メイス・イクリプスは、命を懸けて自身の理論の正当性を追求したのか。巻き込まれた俺としては困るが、そこまでの執念で行動できるのはすごいと思う。
俺にはそこまでの情熱なんて……。
「メイスの身内として、申し訳ないと思う。前世、お前さんにも生活があっただろう、それを無理やり引っ張ってきたんだ。
………すまない」
「い、いや、アンタが謝まらなくても……」
「そういう理由にもいかない、追い詰めれていただろうメイスをほっておいたオレにも責任がある、できることは何でもするいってくれ」
…………俺は。
「帰る方法を探すのを手伝ってくれるか?」
「ああ、もちろんだ、協力しよう、何でも言ってくれ」
それなら……ふと、壁に貼られているポスターに気が付いた、大陸の地図と書いてある。だがこの地図はおかしいかった。
「あの地図は正しいのか……?」
「え?もちろんだ、士官学校で配られる最新のやつだしな」
「じゃ、じゃあなんで、大陸と海が完全に半分ずつになっているんだ……?」
地図に書かれてたのは写真ではなく活版印刷で刷られたのだろうか、版画のような地図であった。問題は俺の知る大陸とそして、今後地球が起こりうる大陸移動で形づくられる陸地とは全く違っていたのだ。まるで人為的に切り取られたようにみえる。
「1千年前に神々が外と内を完全に切り離したらしいんだ。理由はわかないけど、その「内」がオレたちのいる世界で、王国なんだ」
俺は、この世界が地球の延長だと思っていた、なんせ前世とか言ってるし、エルフみたいな人や頭に耳の生やした人も科学が進んでできたのかもしれない、魔石とか言うのも新たなクリーンエネルギーと思っていた。
「俺の時代から千年も経っているんだ、魔法みたいなものナノテクみたいなものだと思ったんだけど……」
「どうしたんだ?なんか急にブツブツ言いだすとかメイスそっくりだな、前世だと似るのか?」
ここは、異世界かもしれない。そう思った時、身体中から寒気と冷や汗がでてきた。
「お、おい、大丈夫か」
「だ、大丈夫だ……うん、大丈夫」
……とにかく、この世界のことを知ろう、まずはそれからだ。
「……俺はここではメイス・イクリプスってことでいいのか?」
「あ、ああ、まあ前世の名前の方がいいなら、それで申請し直せばいいしな、メイスのしたことはすでに王国中に知れ渡っているし、手続きもスムーズにいくだろう」
「え、それって、大丈夫なのか……?」
「王国中って言っても魔法学会の連中くらいだろ、意識するのさ。大半の人たちはあんまりピンとこないと思う、まあ記者とかは寄ってくるかもしれないけど」
「なら、普段通りでいいのか、俺の普段が何処まで通じるがは知らないけど」
「まかせてくれ、その辺りのフォローはオレがするよ」
それはとても心強い。
「よろしく、クレイモア・イクリプス」
「オレのことはクレイで構わないぜ、メイス」
俺はクレイモ……クレイと握手を交わした。