第四十七話 初期化
「ふぃ~。疲れましたわ~」
トリアは肩をグルグル回したり、身体を伸ばしたりしている。
「お疲れなのじゃ~」
ぐったりとした様子で、神殿の地面に寝転がるレイナ。そのレイナが用意した馬のぬいぐるみを神妙な面持ちで触っているクレイ。
「レイナもですわ~」
「うむ~。マスタ~。肩揉んでほしいのじゃあ~」
「私くしもお願いしますわ~」
「いや、二人いっしょには無理だから」
「むう」
「ぬう」
レイナとトリアが唸っている。
「それより、パールの配下。たくさん部下って妖精なのか?」
「そうですわよ? 私くしの邪神ぱわーと地母神さまの力で、創り上げましたわ。見た目は美の女神仕様で、可愛いのとかっこいい子たちですわ~」
…………軽い様子で言っているが、やっている事が、規格外である。
「後は、妾が迷宮から取り寄せた武具防具を改造しまっくて着せてあるのじゃ~。パールなら心配ないと思うぞ?」
パールの跨る人工物感あふれる馬を思い浮かべた。
「……レイナ。俺にはぬいぐるみで、パールはなんで、あんなかっこいい感じの馬なんだ?」
難しい顔したままぬいぐるみ跨るクレイを見ながら話す。
「あ~。パールの馬はただのオブジェじゃよ? 軍用に転用可能なのは、あのぬいぐるみの方じゃ」
オ、オブジェって、ただの飾り……。そ、そしてあのぬいぐるみが軍用かぁ……。
「それにしても、すごいですわねぇ~。本来の魔力って、私くしの力を侵食するどころか、共生いたしましたわよ?」
確かに……。妖精に迷宮産のものを付けていた。
「元々、魔力はそういった物じゃ。狂っていなければ、侵食も書き換えもない。まあ、マスターがいるからできる芸当じゃ。妾が完成したのも同じ理由じゃし」
「……俺?」
……さらっと重要なこと言わなかった? レイナは起き上がり俺を見つめる。トリアは俺の関わりを知って目を輝かせた。
「まぁっ。それはどのような関係がっ!」
「俺も気になるな」
「オレも」
クレイもぬいぐるみに夢中なだけではないようだ。
「マスターはの。この世界が他人ごとなのじゃ」
「え、ちょ。そんなこと思ってないけど」
短い時間だけど、さすがに他人事なんて思ってない。冷たすぎない、そんな人?
「魔人の世界。女神の世界との関わり方という意味じゃよ。魔力は人の意志を反映する物。それは無意識化でも働くのじゃ」
「……つまり、良し悪しを判断する感情を魔力に持っていないということですの?」
「そんな感じじゃなぁ。電気の世界の合理性が基準にあるからの。魔力を、この世界の誰よりも客観的に感じておる。いや、眺めておるかの?」
眺める。確かに俺は魔力、魔法を面白いと思ったけど。何かあった時に使おうと思ったことがない。眺めているくらい実感がないんだ。遠い存在だと思っているのかもしれない。
「…………? それが魔力の共存と何の関係があるんだ?」
ぬいぐるみに乗りながら真剣に尋ねるクレイ。
「マスターに触れた魔力は、初期化されるのじゃよ。マスターが何も考えてないから」
な、何も考えてないって。ひどい……。
「なるほどなぁ。狂っている魔力は、間違った命令を実行し続けている。それが「無」触れ。元に戻るか。」
「無」って……。
「もうっ! そんなに「なにも考えてない」とか「無」とか可哀そうですわっ。何か他にあるでしょうっ!」
トリア……。
「存在があれな人でいいではないですかっ!」
あれってなんだ、あれって。俺は隅っこに行って石材の汚れを数える事にした。
「さて。一休みも終わりじゃな。おや、マスター。なんで地面を見とるんじゃ? 蟻でもあるのか?」
「虫は作っていませんわよ?」
「だから、過ごしやすいのかぁ~」
「さて。では最後の準備じゃな」
「そのようですわね」
今まで、だらけていたのが嘘のような凛とした顔つきだ。
「このままじゃ。俺はメイス・イクリプスの元に到達できない……か」
「オレが護衛しても、物量で押しつぶされるだったけ?」
「ええ。そのための私くし達ですわね。レイナ」
「うむ。あの船は、工場施設を持っておる」
半永久的に稼働する魔物や魔道具を造る工場とレイナは付け足した。
「パールがいくら魔物を倒したトコロで、空気中に舞った魔力を船が回収し、工場施設が魔物を造り続ける。いくら準備しておっても、ジリ貧じゃ」
「それなら、どうするんだ?」
「妾とトリアで、回収できなくするのじゃよ」
船に魔力がいかなくするのか……?
「私くしは、邪神ですが、元々は樹ですわ。大きく呼吸して、魔力を集めますの」
「と、トリアは大丈夫なのか?」
「そのための妾じゃ。妾がトリアに引っ付いてフィルターとなり、トリアが集めたすべての魔力を正常化する。もちろん、魔力は船から距離を置くように命令するがの」
そ、それならなんとかなるのか……?
「……マスターよ。」
真剣な瞳で、レイナとトリアが俺を見つめる。クレイは、レイナに改良された防具とトリアから渡された武器(木の枝)の調子を見ている。
「私くし達は、魔力を集める作業で手一杯になりますわ。援護は一切できません。今戦っているパールもです」
「ここからは、マスター。貴方の戦いになるのじゃ。後悔ないようにの」
俺は力強く頷く。そして、ふと思い出した。
「レイナ。一つだけ頼みがあるんだけど……」
俺の頼みにレイナは一瞬だけ寂しそうな顔を浮かべた。




